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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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23/28

花咲ける家

温泉街でしばらく休息した後、

ヴァンは地図も広げず、

迷いのない手綱さばきで馬車を進めていた。


「この先に、俺の古い友人が住んでいて、

 そこに届け物がある」


「イリアスという魔術師で

 腕は超一流、顔も無駄に良いが、

 性格に難がある。

 屋敷はでかいし安全で快適、

 もちろん風呂もある。

 しばらくそこで過ごそうと思うがいいか?」


イリアスはかつて神殿から

「大魔導師」の地位を約束されながら、

「人付き合いが面倒」

という理由で蹴り飛ばし、

森の奥に結界を張って引きこもっている

変わり者らしい。


「いや、俺はいいけど。

 その友達は大丈夫?

 ……、巻き込まれない?」


ヴァンは安心させるように

ケイの頭にポンと手を置いた。


「心配するな。あいつも神殿は嫌いだ。

 むしろ面白がって最高のもてなしをするだろうよ」


「なぁ、今更だけど迷惑じゃない?

 友達の家に厄介者を連れ込んで……

 せめて事前に聞いてみるとかしなくていいのか?」


「本当に今更だな」


「その事前に聞く手段として、

 お前の国の機械の話しをしたら、

 逆に帰してもらえなくなるかもな」


ヴァンはニヤリと笑う。


ケイはヴァンの自信満々な態度に、

少しだけ肩の力を抜いた。

ヴァンが大丈夫と言うなら、大丈夫なのだろう。


森の奥にある、古びた石碑の前を通り過ぎ、

すこし開けた場所につく。

周囲には何もない。ただの森だ。

だが、ヴァンが懐から取り出した水晶をかざし詠唱すると、

空間が歪み、複雑な幾何学模様の魔法陣が地面に浮かび上がった。


へー2段階認証かー。


「掴まってろ。少し揺れるぞ」


不思議部屋をでて、

御者台に出てきていたケイはヴァンにしがみつく。

ヴァンが馬車ごと魔法陣の上に進む。


ブォン、


と重低音が響き、

ジェットコースターが落ちる直前のような浮遊感と

浮かび上がった魔法陣の青が白い光にかわった次の瞬間、

馬車は森の中から完全に姿を消した。


足跡も、車輪の跡も、そこにあったという気配さえも、

完全に遮断された空間へと吸い込まれていった。



白い石で組まれた、均整の取れた建物。

出張先でみたドイツの城のような雰囲気の玄関前に

馬車ごと移動してきたようだ。


飛行機のように、着陸時にバウンドすることもなく

目をあけたら、建物が生えてたぐらいスムーズな移動だ。


周囲の空気が、妙に澄んでいる。


「ここ?」


ケイは御者台で、

ヴァンにつかまったまま首を傾げる。


「ここだ」


「お帰りなさいませ、ヴァン様」


出迎えたのは小柄な影だった。

十歳ほどに見える少女。

肩で揃えた銀灰の髪。

金色の瞳。

大きな獣の耳が、静かに揺れる。


声音は柔らかい。

だが、子供の高さではない。

ケイは眉をひそめる。


「……子供の獣人?」


少女が瞬きをする。


「見た目は、そうですね」


あっさり言う。

ヴァンが短く補足する。


「違う」


ケイは首を傾げる。

少女が続けた。


「魔導生命体です。

 成長という概念はありません」


さらりと。


「便宜上、この姿を取っています」


声色がわずかに変わる。

今のは、わざと幼くしていた。

素の声は落ち着いている。

ケイは腕を組む。


「獣人だからって、連れてこられて、

 働かされてるわけじゃない?」


少女の目が細くなる。


「護衛兼管理者です」


「主の命令で動くことはありません。

 合意でのみ動きます」


ケイはしばらく見つめる。

瞳の奥に、幼さはない。


「……成人?」


「年齢という概念はありませんが、

 人格は成熟しています」


即答。


ケイは息を吐く。


「……ならいいけど」


「子供に働かせるってのはどうかと思うから」


少女がくすりと笑う。


「ご安心を。私の方があなたより強いですよ」


ケイはヴァンに促され、

御者台から降り玄関先に案内されながら、

少し憤慨して言う。


「あのね!どんなに強くても、子供は子供だよ!

 大人の真似をする必要はないし、

 やっちゃダメなの!

 本当に学校とか行かなくていい年なんだよね?」


ヴァンが肩を震わせていう。


「この姿の方が警戒が緩むからこの姿であって

 ちゃんとした成人の番犬だよ」


悪びれない。


少女の耳がぴくりと動く。


「ええ」


にこりと笑う。


「噛みます」


「改めまして、当家の主人イリアス様にお仕えする番犬、

 ディルと申します。聖者様」


「ようこそお越しくださいました」


と玄関の扉をあける


ケイはディルより子供っぽい拗ねた顔で


「聖者じゃないけど、ケイです。ナガオカケイ」


と挨拶しながら、階段の上から現れた

初めて見る美の極致に目を奪われる


銀の長髪。

光を含んだような肌。

目は深い紫――アメジスト。

造形が整いすぎている。

人の顔のはずなのに、どこか彫刻のようだ。


ケイは言葉を失う。


「……わぁ」


今まで見た美人の中で一番。

いや、比較できない。

子供のように目を丸くする。


「凄い綺麗……」


思わず出る。


イリアスは苦笑いし

ヴァンはとうとう笑いだす。

ディルもつられて肩を震わせている


「変わり者の友人、イリアスだ」


イリアスは階段の途中で止まり、ヴァンを見る。


「……すごい土産を持ってきたな」


皮肉気な笑みを刷き、だが迷惑の色はない。

むしろ面白がっている。


通された応接室は落ち着いていて、

薄くいい香りが漂っている。


ディルが静かにお茶を用意する。

和やかだ。


今までの経緯を説明すると思いきや、

脱線してヴァンが、ケイの話をヒントに編み出した魔術を

イリアスに見せつけ、

イリアスがコピーしようとする大会になっている。


改まった説明はない。

会話の中に自然に落ちていく。

イリアスは頷きながら聞く。


「追手が来た場合、どうする?」


さらりと。

確認のように。

ケイは即答する。


「嫌」


一言。

間髪入れず。


「宗教団体とか無理」


ヴァンが笑う。

イリアスも肩を揺らす。


ケイは続ける。


「あ、でも迷惑かける気はないから、

 その時は出てくよ」


本気だ。


だからこそ。

ヴァンは軽く息を吐く。


「ここは()れない」


当たり前のように言う。


イリアスが頷く。


「俺を舐めすぎだ。ここには(はい)れない」


ケイが眉根をよせ、何かを言おうとしたときに、

ディルが焼き立てのパイとお茶のおかわりを持ってきた。

目の前にサーブされるといい香りについ、

話しを途切れさせてしまい、

ディルの分まで用意がある事を確認し、

おやつタイムに突入してしまった。


ディルはおいしそうにパクつくケイをみながら、

耳をピクリとそばだて警戒域をあげる。


ケイはスマートウォッチの説明をイリアスにしてる途中で、

パタリと電池が切れたように力尽き眠ってしまい、

ソファにくず折れる。


ヴァンは慣れた手順でケイを膝に乗せて抱きしめ、

手を握り、治癒魔法を掛ける。


イリアスはケイを魔法で探索し、

この状態のケイを1か月持たせた

親友の手腕に舌を巻く。


ヴァンがかけている治癒魔法は、

相手の力を増幅させるもので、

自身の力を相手に慣らし、

反発させないようにし流し込むものだ。


相手の力の分析と、

馴染むように合わせる繊細な魔力の調整が必要で、

単発でなく、手を握った程度で流しこめる量を

延々と調整するなど、

馬に乗りながら刺繍するようなもので、

普通の術師は当然、

専門の聖魔術師でもそうできる者はいないだろう。


先ほど見た、新しい術式も細かい力の調整で、

大きな魔力のロスもなく再現できており、

自分とは違った才能の塊である上に、

剣を握ってもそこそこ、その上に優しいという、

隙のない武人の疲労を図る。


ヴァンはこちらをみて、

まだまだ余裕だろ?と片眉をあげるが、

消耗は隠せない。


イリアスは、

うちに来てくれてよかったと安堵し、

子供姿のディルの身の安全を警戒しただけで、

自身はイリアスに対して何の警戒心も持たないほど、

ヴァンを信頼しきっているケイをみて息をつき、

これから起こるであろう

トラブルの対策をいくつか考えはじめる。


ケイが腕の中にいて渋るヴァンに

手っ取り早く魔力を補給し、

ケイに回す分の嵩ましをしつつ、


少し落ち着いたのか、

目を閉じたヴァンを休ませている間に、

ディルに二人の部屋をしつらえさせ、

自身は屋敷を含む土地の結界を強化する。


さて、どう出てくるかな?


イリアスは因習まみれで

陰気だった神殿を思い出していた。


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