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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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大神官たち

白い石壁は磨かれ、

香の煙が静かに漂う。


処罰の場であるにもかかわらず、

血の痕も、呪痕も、何一つ残されていない。

ここは罪人を裁く場所だ。


だがそれ以上に、

聖者に対する不敬を処理する場所である。


そこに、枢機卿の怒号が響き渡っていた。


「大神官!あの狂犬アルヴィスだ!

 あやつが私の私兵を皆殺しにしたのだぞ!」


枢機卿は唾を飛ばしてまくし立てる。

その背後には、彼の派閥の神官たちと、

後ろ盾となっている王族からの密使も控えていた。


「アルヴィスは聖者を独占しようとしている!

 神殿への反逆だ!

 貴様の管理不足が招いた事態だぞ!」


「即刻、騎士団にアルヴィスの処刑命令を出せ!」


大神官は、祭壇の前で静かに目を閉じていた。

その横には、眉間を抑えて青ざめた顔の魔導卿が立っている。


魔導卿の足元には、あの厩舎から逃げ帰った魔術師が、

恐怖に震えながらひれ伏していた。

僅か前、命からがら、

乱暴に展開された術式で現れた、術師は

ぼろぼろの衣で血が滲んだまま魔導卿に報告をあげる。


「……報告、いたします」


魔導卿は言葉を促さない。

黙って、続きを待つ。


「枢機卿直属の私兵部隊が……全滅しました」


「聖騎士団は南へ。

 アルヴィス・フォン・エルンヴァルトは……」


一瞬、言葉が詰まる。


「私兵を、残らず殲滅。

 その後、追跡を再開しています」


沈黙。


「……魔導卿。報告の続きを」


大神官の声は、湖面のように静かだった。

術師は怯えながら報告を続ける


「私兵の聖者様に対する発言をきき、

 お前もどうだ?と言われた直後でした……」


「ああん?そんなことはどうでもいい!」


枢機卿が遮ろうとするが、

生き残りの魔術師が震える声で告げた。


「ひ、兵たちは……言っていました。

『生きてお祈りさえできればいい』と」


「……」


「『何してもいいとのお墨付きだ、楽しめる』

 猊下の許可を得ていると……」


シン、


と。

広間の空気が止まった。


大神官がゆっくりと目を開けた。

その瞳は、深海のように暗く、光がなかった。


「……枢機卿」


「な、なんだ!多少の脅しは必要だろう!

 相手はただの世間知らずの異世界人だ!

 神の器として祈れればそれで――」



「口を慎め」


ドォッ!!

爆音ではない。

「重圧」だ。

枢機卿の体が、見えない巨人の手に押しつぶされたように、

石床に叩きつけられた。バキボキッ、と嫌な音が響く。


「ぎ、あ……!?が…!」


悲鳴が上がる。


大神官は一歩近づいた。


「“生きていればいい”と、」


足首が、ゆっくりとねじれる。

骨が軋み、砕ける。

だが血は流れない。

裂けた肉は、即座に焼き塞がれる。


死なないように。

痛みだけが、鮮明に残る。


「ならば、手足は不要でしょう」


両腕が持ち上がる。

あり得ない方向へ、静かに曲がる。

関節が外れ、骨が割れ、

筋が引き千切れ――

それでも血は落ちない。


神聖魔法が、

破壊と同時に縫合する。


「祈れます」


大神官は淡々と告げる。


「喋れます」


枢機卿の身体は、もはや形を成していない。


手足は砕かれ、

胴体は捻じれ、

だが顔だけは無傷。

呼吸と発声だけが、保たれている。


「それ以上は、必要ありません」


枢機卿の口から、嗚咽が漏れる。


「や、やめ……」


「あなたの思想を、あなた自身に適用しただけです」


大神官の周囲に、黄金の魔力が渦巻く。

それは慈愛の光ではない。

邪悪を焼き尽くす、極めて攻撃的な浄化の炎だ。


厳しい修行を経て得た地位と、

膨大な魔力を持つ彼らが「闘う者」であることを、

魔導卿を含むその場にいた全員が思い出して戦慄する。


「あ、あが、あああ……ッ!」


「殺しはせん。生きていてもらう」

「正しい答えを吐いている内だけ、痛みが減ると思え」


「さて、吐いてもらおうか。

 聖者様を害そうとした鼠は、貴様以外に誰がいる?」


大神官の視線が、枢機卿の後ろにいた取り巻きたち

――王家の密使を含む一団に向けられる。

彼らは悲鳴を上げ、出口へ殺到した。


「逃がすな。」


――『分解』

大神官の背後に控えていた側近の神官たちが、

一斉に手を掲げる。放たれたのは、塵一つ残さない分解魔法。

逃げ惑う裏切り者たちは、音もなく白い粒子となって崩れ去った。

血の一滴も、死臭すら残さない。

聖者様が戻られる神殿に、穢れを残すことすら許されないという、

徹底した潔癖さ。


魔導卿は、息を呑んでその光景を見ていた。

周囲の神官たちが動く。

いつもの穏健派の顔ではない。



修行を経て、選ばれた者たち。

聖者を守るために生きている者たちだ。


「沈黙は否だ。お前にその権利はない

 代償はその愚かさと同等の痛みだ」


悲鳴が上がる。


宙に吊るされた枢機卿が、壊れた玩具のように泣き叫ぶ。


「い、言います!

 言いますぅッ!第二王子が!

 王妃様が、聖者の力を王権に取り込もうと……ッ!」


「記録せよ。関わった者は、

 王族であろうと根絶やしにする」


枢機卿に連なる者。

命令を受けた者。

金で動いた者。


全てが、引きずり出される。

クーデター未満。

だが、確実に聖者を軸にした権力奪取計画。


大神官は、目を閉じた。


「吊り籠」


白い魔術陣が床に広がる。

空間が歪み、

黄金の格子がゆっくりと組み上がる。

それは檻ではない。

鳥籠だ。

華美でもなく、威圧的でもない。

ただ、逃げ場のない、完全な閉鎖空間。


枢機卿の壊れた体が、

静かに宙へ持ち上げられ、

籠の中央へと収められる。

鎖が、喉元と胸を固定する。

声は出せる。

祈れる。

だが身動きは一切できない。


「……な、何を」


枢機卿の声は震える。

大神官は冷ややかに告げる。


「王城へ届けなさい」


王族が関与していようと、

関係はない。


これは神殿対王家の争いではない。


聖者に対する不敬への処理である。


「王がこれを見てなお、

 この度の事を異とお考えになるなら」


大神官は一瞬、目を細める。


「その時は、全て清めましょう」


感情はない。


大神官は冷徹に命じると、

青ざめる魔導卿に向き直った。


「魔導卿。貴公の部下が報告してくれたおかげで、

 聖者様への不敬を未然に防げた。感謝する」


「い、いえ……当然のことをしたまでです」


「貴公らの『探求』は認めよう。

 聖者様の望むことだ。

 だが、聖者様を試すように扱う者が一人でも出れば

 ……分かっているな?」


「もとよりそのような者はおりませんが、

 我らの存在理由は、聖者様の安寧にございます」


魔導卿は深く首を垂れた。


「もし万が一、その順を違える愚か者が現れたなら

 ――私が処します」


「聖者様が戻る場所は」


大神官は静かに言った。


「安全でなければならない」

「恐怖も、管理も、利用もない場所です」


神官たちが、一斉に膝をつく。


「粛清を開始します」


その声は、淡々としていた。

だが、次に起きたことは、苛烈だった。


枢機卿派は、全滅。


鳥かごによって告げられた

関与した王家の人間は、王により即処断。


抵抗した者は、例外なく消えた。


王族の身内からのクーデターの証拠

この国の守護者である聖者への

暴虐前提の不敬。


僅かでも庇おうとすれば

粛清の波にのまれる状況で

声をあげて反論する者はおらず

居たことすら証明できない速さで

粛清は行われた。


——聖者を守る。


ただその目的のみに沿って。


魔導卿は、その光景を見て、理解する。


神殿が穏やかなのは、

力を使わないと決めているからだ。


使う時は——


躊躇わない。


虎の尾を踏み抜いたのは、

間抜けな枢機卿ともの知らずの王族だった。



その日のうちに、清浄化された神殿から、

追跡中の全聖騎士団へ新たな魔法通信(号令)が飛んだ。


聖騎士団全隊へ通告。


聖者様保護、最優先。

発見時、直ちに武器を捨て跪け。

指一本触れるな。

聖者様の意思を絶対とせよ。

妨げる者は、王族であろうと現場処断を許可。

そして最後に。

騎士アルヴィス・フォン・エルンヴァルト。

彼が聖者を守る限り、敵対を禁ず。



これは見せしめではない。

復讐でもない。

思想の回収だ。

聖者を守るという目的のためなら、

神殿は、どんな事でもやる。


そしてそれを、

聖者の前では、露ほども滲ませない。

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