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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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騎士、喪失

朝の街は、昨日よりも騒がしかった。


荷馬車の音。

行き交う商人の声。


そして——ひそひそとした噂。


聖者は、フードを被り直し、

人の流れに紛れて歩く。


(……やっぱり、金が要る)


短期でいい。

宿代と、移動費。

それだけ稼げば、この街を離れられる。


聖者は、市場の裏手に足を向けた。


「——聞いたか?」

「騎士が、神官を連れて逃げたって話」


足が、止まる。


「神殿が探してるらしい」

「裏切り者だとさ」


聖者は、何気ないふりで見えない位置に立つ。


(……なるほど)


神殿は、

「聖者が逃げた」とは言えない。


代わりに、

騎士が神官を誘拐した

という物語を流している。


「証拠もあるらしいぞ」

「騎士団の紋章入りの指輪が、

 換金されたって」

「本物か?騎士の指輪は

 死ぬまで手放さないんだろ?」


胸の奥が、ひやりと冷える。

騎士にとって、大事な…

それを売った。

あの人達のために


金と薬と食べ物に感謝して

感謝して床に頭をこすりつけていた

村人を思いだす


どれも俺は用意できなかった


でも、疑念が頭をよぎる


——身分がわかる品を売った。

——神殿が把握できる形で。

——逃亡経路の途中に。


(追跡可能な情報を、

“わざと残した”)


そうすれば、

神殿は動く。

騎士団も、神官も、

「確実に」追ってこれる。


(……騎士と一緒にいたら…)


同行させてくれと

膝をついた姿を思いだす。


そして、同時に結論が出る。


宿に戻れば、

必ず足がつく。

聖者は、踵を返した。


街の門へ向かう途中、

聞き覚えのある声がした。


「おや」


振り返る。


「奇遇ですね」


丁寧な口調。

ヴァンだった。


「随分とお急ぎのようですが」


聖者は、少し考えてから言う。


「街を出る」


それだけ。


ヴァンは、問い返さない。


穏やかに続ける。


「私も、今日中に街を離れる予定でした」


「道中、頭の回る同行者がいるのは、

 助かりますし」


「荷物の見張りをしていただけると

 なおありがたい」


一拍。


「——いかがです?」


聖者は、少しだけ考え、頷いた。


「……助かる」


それで決まりだった。


聖者は

そのまま街を出た。


宿にも戻らず、

誰にも告げず。



その頃。

騎士の部屋には、

朝の光が差し込んでいた。


テーブルの上には、

片づけられた食器。


二人分。


——聖者は、

朝食を共にした。


その事実が、

騎士に、かすかな安堵を残していた。


(……戻られる)


そう、言い聞かせる。


あれだけ拒絶されて

ついていく事はさすがに

躊躇われたので

追いかけられなかった。



——それくらいの理性は、

まだ、残っていた。


騎士は、椅子に腰を下ろす。


部屋の隅。

畳まれた衣服が、目に入った。


あの方の髪と同じ色。

異国の仕立て

この世界のものではない。


初めて出会った時、

あの方が身に纏っていたもの。


(……戻るはずだ)



置いてある。

持っていかなかった。


つまり、

完全な別離ではない。


だが、

昼を過ぎても戻らない。

夕方になっても、気配がない。


騎士は、部屋を飛び出した。

街を探す。

市場、宿、裏路地。

どこにも、いない。


その途中で、

最悪の噂を聞く。


「裏切りの騎士が、

神官を攫って逃げた」


「神殿が、血眼で探してる」


騎士は、凍りついた。


(……やはり、出どころを探られた)


——そして。


(あの方は、それを聞いた)


喉が、ひくりと鳴る。


(……切られた)


理屈では、

当然の判断だ。


自分は、

誘拐犯側の人間。

個人がどうあれ、

組織になった瞬間、

拘束する。と

そう思われた。


——最初の夜に、

それを証明してしまった。


(聖者さまは、

俺を——切り捨てた)


理解した瞬間、血の気が引く。


だが。

ふと、思い出す。


朝の部屋。

二人分の朝食。


——冷めるぞ。


あれは、

別れの言葉じゃない。


(……違う)


拳を握る。


(あの方は、

 俺を切ったんじゃない)


(戻れなくなっただけだ)


いつの間にか宿に戻り、

聖者の衣服を握りしめている


騎士は、唸り越えのような声を絞り出す。


「……必ず、探し出す」


1度だけみたあの方の笑顔が

胸を焼く


「あの方を困らせる

 全ての憂いを消しさり

 今度こそ——、

 お側に……」


盲信か

狂気か

思慕か


騎士は、

聖者の残した衣服に顔を埋め

口づける


「——必ずや、あなたの元に」


昨夜向けられた拒絶の顔を

何度も何度も

自分に向けられた訳でない笑顔で

塗りつぶす


神殿の追手が迫る中、

騎士は、

聖者の足跡を追う。


別離は、

終わりではない。


ただ、

それぞれが選んだ、

最初の一歩だった。

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