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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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11/27

聖者、働く

騎士が、席を立った。

「路銀の用意と街の様子をみてまいります」


「……外は危険です。

 少しの間、ここでお待ちください」


聖者は返事をしなかった。

肯定でも否定でもない沈黙を、

騎士は了承と受け取ったらしい。


騎士の背中が、ドアの向こうへ消える。

(……さて)

待てと言われて、待つタマじゃない。


騎士は先ほど拠点を


「自分の屋敷へ~」

などと言っていたが、


それはつまり、

管理する場所を「神殿」から

「私邸」に変えるだけだ。


(財布を握られているうちは、自由じゃない)


35歳、営業畑の男として。

資本主義の犬として。

生き残るための作法は、

嫌というほど知っている。


騎士がどうやって金をつくり、

いくら残っているのかも知らない。


――守られている、

という状態が、

すでに不健全だった。


「……仕事だな」


それが、鉄則だ。


聖者は立ち上がり、深くフードを被り

宿の裏口から街へと滑り出した。


市場の喧騒は、理不尽の塊だった。

怒号。

懇願。

騙し合い。

聖者は、ため息をついた。

(効率が悪い)


物が流れていない。

価格が適正じゃない。

情報の非対称性で

弱者が搾取されている。


――見ていて、イライラする。


現代の市場と、そう大差ない混雑の街は

だが、オープンな店舗の一角だけ、

人の流れが緩やかに避けていた。


怒鳴り声はない。

剣も抜かれていない。

それでも、そこに圧がある。

大柄な男が一人、

小さな木箱を前に立っていた。

箱の中には、布に包まれた数点の品。

対面している店主が、慎重な口調で言う。


「ですから、その件につきましては……

 表面に傷がないとは言い切れず……」


大柄な男は、声を荒らげない。


「依頼は、“外観上の欠陥がないもの”で

 契約書にもそうありますが?」


「そういわれても、内部の状態が——」


聖者は、少し離れた位置で足を止めた。


(……状況、わかりやすいな)


「もしかしたら傷がある」


と難癖で値を下げられてるのか

異世界だろうと、

商売のせこい構造は変わらない。


大柄な男は、理解している。

だが、ここで声を張れば、

自分が「扱いづらい商人」になる。


——穏便に、だが損はしない。

その落としどころを探している。


そこへ、

フードを被った男が一歩前に出た。


「お話し中、失礼します」


静かで、通る声だった。


仲介商が、苛立ちを隠せずに言う。


「部外者の口出しは——」


聖者は、遮らない。


ただ、穏やかに続ける。


「この取引、

 今ここで整理しても構いませんか」


一拍。


「周りの商人の方にも、

 聞こえる形で」


空気が、変わった。

それは脅しではない。


公開の場に出す、

という選択肢を提示しただけだ。


大柄な男は、聖者を見た。


警戒ではなく、判断する目。


「構いません」


丁寧な口調だった。


聖者は、大柄な男が提示した

契約書の内容が

読めることに驚きつつ、話を進める。


「依頼内容は、

 “外観上の欠陥がないこと”」


「つまり、

 目視で確認できる傷がなければ、

 条件は満たしている」


仲介商が口を開く。


「しかし、内部に——」


聖者は、首を振る。


「内部鑑定は、

 正式な鑑定師の工程です」


「ここで触れた時点で、

 その工程は成立していません」


少しだけ声を張る。


「つまり今、

 “傷があるかもしれない”という主張は、

 証明できない」


周囲の商人が、ちらりと視線を向ける。


聖者は続ける。


「証明できない理由での減額は、

 市場では通らない」


「ですが、

 後腐れなく終わらせる方法はあります」


仲介商が、固唾をのむ。


「封をし直す」

「鑑定師立ち会いで確認する」

「問題があれば、その時に減額」

「なければ、満額」


「——どちらにも、

 不利はありません」


沈黙。


仲介商は、帳面を閉じ、

深く頭を下げた。


「……失礼しました

 わたくしの勘違いでした。

 今、契約の内容をお支払いします」


人の流れが戻る。

大柄な男は、箱を抱え直し、

聖者に向き直った。


「助言、感謝します」


丁寧に、そう言った。


「差し支えなければ、

 お名前を伺っても?」


「名乗らない主義でして」


即答。


男は、少し考え、

穏やかに頷いた。


「承知しました」


そして、名乗る。


「私はヴァンと申します」

「個人で商いをしております」


腰の袋から、

銀貨を数枚取り出した。


「これは、

 今の助言へのお礼です」


はっきりとした言い方だった。


「ありがとうございます

 では、遠慮なく」


聖者は、受け取る。


ヴァンは、わずかに微笑んだ。


「また、わたくしが困っておりましたら、

 ぜひお声がけください」


一礼して、去っていく。


聖者は、その背中を見送り

銀貨の重みを確かめ、

宿へ戻る道を歩いた。


この出会いが、

自分の進路を変えることを、

聖者はまだ、知らない。

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