聖者ですが、ここにきて ま だ 1日しか経ってません
「起きましたか?」
目を覚ますと、ゲームで見たような
ド美形な中世の騎士が話しかけてくる。
優しい眼差しで。
美しい顔で。
騎士は卓の前で、簡素な食事を並べている。
焼いたパン。乾いた保存肉。豆の煮込み。
――夢なのか?
…………夢じゃなかったのか……
「……ああ」
体を起こしながら、卓を見る。
「これ…俺の?」
「はい」
聖者は一瞬、考えた。
「……騎士は?」
「先ほど、済ませました」
即答だった。
聖者は眉を寄せる。
――金に余裕はないはずだ
「こんなに沢山は食べられないから
一緒に食べてほしい。」
騎士は視線を上げる。
「できるだけでよいので
召し上がっていただきたいのです」
「……そうか」
一拍、置いてから。
「じゃあ、ありがたくいただきます」
聖者はそう返事し、
食事を半分に分ける。
騎士は黙って席につき、
分けられた半分を食べ始める。
聖者が食べ終えるころ、
「少し、お待ちください」
と席を外した騎士が、
湯桶と身ぬぐいをもって戻ってくる。
「せめて、体を拭えるように」
聖者は、一瞬だけ目を伏せる。
「……そこまで、しなくていい」
正直な感想だった。
「従者じゃないんだし」
騎士は、言い返さない。
「大したことではありませんし、
身勝手をお願いしているのは
わたくしの方ですから。」
短く。
聖者は息を吐く。
「……ありがとう」
半分、申し訳なさ。
半分、それもそうだという本音。
「身支度の間は、外におります」
そう言って、騎士は出ていった。
湯で体を拭き、残り湯で足を温める。
緊張が、遅れてほどける。
ーーーーあーーー
気持ちいい……。
考えたら怒涛の1日だった
意味わかんない場所に連れてこられ
あんなに歩いたのも初めてだし
そりゃ疲れーーー
そのまま、意識が落ちた。
扉をノックする。
「ご用意はお済ですか?」
呼びかけても、返事がない。
扉を開け、騎士は一瞬、躊躇する。
湯桶に足を浸し、仰向けに寝ている聖者の
白い脚に目が釘付けになる。
「聖者さま。」
と呼びかけても起きる気配のない
聖者の足を拭き。
ベッドに移動させる。
拭くだけだ、と自分に言い聞かせる。
触れない。
運ぶだけ。
ベッドへ。
と言い聞かせながら、
湯桶を片付け、部屋へ戻ると、聖者は起きていた。
「これ、できれば売ってほしい」
小さな道具を差し出す。
「充電切れで動かないから
この見た目だけじゃ厳しいだろうけど」
騎士は首を傾げる。
「……じゅうでん、とは?」
騎士は聖者の説明を受け、少し考える。
「エネルギーを、溜めて放出する……」
指先に意識を集めると、画面が一瞬、灯った。
見慣れた時刻表示が光る
「え?マジで?!魔法?」
「騎士、魔法使えるの?!」
手のひらにあるわずかに光った道具をみようと
急に側にきて手に触れた聖者に騎士は息を詰める
「治癒魔法が使えず、
昨日はお役に立てませんでしたが」
と絞りだすように答える。
「……充電は可能です」
「おお……」
復活したスマートウォッチの
操作を片っ端から試す
通信。
位置。
記録。
どれも反応しない。
メッセージを送っても
エラーすら返らない
聖者は、肩を落とす。
「……だよな」
Wi-FiもGPSも電話会社もねぇもんな……
「聖者様のものを
売る事はできません。
充電は私が行いますので
どうぞ、そのままお持ちください」
魔法ならもしかしてーー
通信ぐらいならーー
という期待がぬぐえず
ぎゅっと時計を握りしめる。
「……頼む」
「かしこまりました」
と恭しく頭をさげ、返事をする騎士をみて
聖者が聞く。
「魔法が使えるって、
どんな魔法が使えるんだ?」
昨日は見られなかった
少しやわらかい表情の聖者の声色に
聖者は、目を細める。
「わたくしは主に攻撃魔法を使います。
エネルギー放出型ですので、
剣にのせ、敵を倒すときに
斬撃だったり燃やしたりと
形をアレンジして攻撃します。」
「敵を攻撃」
聖者は少し意外そうに率直に言う。
「髪、長いから……」
「そういうタイプだと思ってなかった」
「魔力を溜めるためです」
淡々と。
「こちらでは魔力は髪に宿るとされ、
魔力の強い者ほど、伸ばします」
聖者は、自分の勘違いに思わず笑みを漏らす。
フィジカルがあって魔法も使えるとか
簡単に撒ける!
じゃねーじゃねーか!
自分の盛大なる勘違いに
肩の力が抜ける。
騎士は、その笑顔を受け止め、言葉を失う。
説明も、分類も、追いつかない。
ただ――
目を、離せなかった。




