7. 逃げられない甘い蜜
第7話をお読みいただきありがとうございます。
自由を奪われ、王宮の奥深くに囚われたリリア。
今回は、ギルバート王子による執拗で甘美な「教育」が始まります。
逃げ出したいはずなのに、抗えない。そんな歪な関係の幕開けをご覧ください。
王宮に閉じ込められてから、数日が過ぎた。
窓の外には、かつて私が暮らしていた賑やかな商店街の屋根が遠くに見える。
この部屋の扉には内側にノブがなく、廊下には絶えず衛兵の足音が響いている。
「……また、食べないのかい?」
背後からかけられた声に、肩が跳ねる。
そこには、銀の盆を手にした王子――ギルバートが立っていた。彼が持ってきたのは、王宮の料理人が焼いたであろう、見た目も鮮やかなデニッシュパンだ。
「いらない。お父様の焼いたパンじゃないと、味がしないわ」
私が顔を背けると、ギルバートは低く笑いながら私の隣に腰を下ろした。
「強情だね。でも、その震える指先でそんな口を叩くなんて、ますます可愛らしい。」
彼は一切の躊躇なく、私の顎を指先で掬い上げた。逃げようとしても、もう片方の手が私の腰をがっちりと固定する。
「……やめて。私をどうするつもり?」
「どうする? 決まっているだろう。君は僕の妻になるんだ。パンを焼く必要なんてない。君はただ、僕に愛されて、僕だけを求めていればいい」
彼はデニッシュを一口大にちぎると、強引に私の唇に押し当てた。
「食べなさい、リリアーナ。君が弱って死んでしまうのは困るんだ。……君の体がこれ以上細くなるなら、僕はあのパン屋を――君の『両親』を、本当にこの世から消さなきゃいけなくなる」
「……っ!」
卑怯だ。彼は私が何を大切にしているかを、すべて理解して利用している。
悔しさに涙を浮かべながら、私は差し出されたパンを口にした。甘い果実の味が広がるけれど、胸の奥は泥を飲み込んだように重い。
「いい子だ。……ねえ、リリアーナ。あの日、君が僕に言った言葉を覚えているかい?『あんたみたいな性格の悪い子に食べさせるパンは無い』って」
ギルバートの瞳が、熱を帯びた歪な光を放つ。
「あの時、僕は初めて『欲しくて堪らないもの』を見つけたんだ。僕を敬わず、ただ一人の人間として激しく拒絶した君。……君に拒まれるたびに、僕は君を壊して、僕の一部にしてしまいたくなる」
彼の唇が、耳元を掠める。
「君が僕を嫌えば嫌うほど、僕は君を離せなくなるんだよ。……わかるかい? 君のその憎しみが、僕にとっては堪らない歓びなんだ。」
それは、まともな人間の論理ではなかった。
優雅な微笑みの下に隠された狂気。
私はこの時、初めて悟った。この男は、私が泣いて縋っても、あるいは刺し殺そうとしても、それを「喜び」として受け取ってしまうのだと。
「……あんたは、狂ってるわ」
「そうかもしれないね。でも、その狂気を作ったのは君だ。責任を取ってもらうよ、リリアーナ」
カーテンが閉ざされ、部屋に闇が落ちる。
逃げ出す隙を伺う私の手首には、いつの間にか彼が用意した「贈り物」――重厚な金細工のブレスレットが、まるで手枷のように冷たく光っていた。
王子の愛は、甘い蜜のようにリリアの自由を奪っていきます……。
恐怖と、それ以上に抗えない彼女の心境は、果たしてどこへ向かうのでしょうか。
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