5. 王宮という名の檻の中
第6話をお読みいただきありがとうございます。
目を覚ましたリリア。ついに明かされる王子の正体と、彼女が閉じ込められた「檻」の本当の姿をご覧ください。
冷たい雨の中、私の背中を抱く腕はとても熱く、力強かった。
十年の間に、あの生意気だった少年は、狂気の目をした美しい青年に変貌していた。
「はな……放して! 誰よ、あんたなんて知らないわ!」
震える声で叫ぶけれど、彼は私を放すどころか、いっそ骨が軋むほど強く抱き寄せた。
「知らない? ……冷たいね。僕はあの日から一日たりとも、君の瞳を忘れたことはなかったのに。あのパン屋の裏口で、僕を睨みつけたあの輝きを」
王子の指先が、私の頬を這う。
その仕草があまりに愛おしげで、余計に背筋が凍りついた。
彼は私の手から滑り落ちそうになった「辺境伯の手紙」を素早く拾い上げると、内容を一瞥して、くすりと不敵に笑った。
「なるほど、辺境伯の落とし子だったのか。……好都合だ」
「何が……っ、何が好都合よ! 返して、その手紙は私の――!」
「いいや、これは僕が預かっておく。そして、君も。……連れて行け」
彼の合図と共に、雨の闇から黒い服を着た男たちが音もなく現れた。
悲鳴を上げる暇もなかった。口元を布で覆われ、意識が遠のく直前、私の視界に映ったのは、勝ち誇ったように微笑む男の顔だった。
「大丈夫。これからは僕が君を守るからね。」
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見覚えのない、あまりに豪華な寝台の上で目を覚ましたとき、リリアは自分の状況を理解できなかった。
最後に覚えているのは、パン屋の裏口に現れたあの美しい男の姿。彼と言葉を交わした直後、視界が暗転したのだ。
(ここは、どこなの……?)
震える足で窓際へ歩み寄り、重厚なカーテンを開ける。
眼下には、見渡す限りの壮麗な街並みが広がっていた。建物を中心にして、放射状に美しく整備された街道がどこまでも延びている。
「……教会、なのかしら」
母から、大きな街の教会は信者が各地から礼拝に来るため、道が放射状に作られていると聞いたことがあった。
自分を攫った男は、何か理由があって自分を保護してくれただけではないか――。そんな淡い期待は、背後で開いた扉の音と共に打ち砕かれた。
「目覚めたようだね、リリアーナ」
現れたのは、あの恐ろしくも美しい男だった。
彼は優雅な足取りで近づくと、リリアの頬を細い指でなぞった。
「あの……あなたは、どなたですか? どうして私をこんな所へ……。ここは、どこの教会なのですか?」
すがるようなリリアの問いに、男は愉しげに目を細め、くすりと笑った。
「教会? 確かにここは静かだが、神に祈りを捧げる場所じゃない。ここは僕の城、王宮だよ」
「……王宮?」
「そして僕は、ギルバート・フォン・アルフレッド。この国の第一王子だ。・・ずっと君を手に入れたかった・・。やっと君の方から僕のところへ来てくれたんだ・・・・。」
リリアの頭から血の気が引いていく。
目の前の男は、自分のような平民が一生関わるはずのない、この国の頂点に立つ支配者。
「嘘……そんなはずが……」
「嘘ではないよ。今日からここが、君の新しい家だ。二度と外へ出ることも、あのパン屋に戻ることも許さない」
ギルバートは、理解が追いつかず震えるリリアを逃がさぬよう、その腰に力強く腕を回した。
窓から見えた放射線状の道は、すべてを支配する中心地であることを示すものだったのだ。
逃げ場のない石造りの冷たい檻で、彼女の生活が始まります。
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