14. 新しい鎖
第14話をお読みいただきありがとうございます。
王宮での生活に心身ともに慣らされていくリリア。
そんなある日、彼女の体調に変化が訪れます。
侍医が告げたその言葉は、彼女をさらなる檻の深淵へと繋ぎ止めるものでした。
妊娠の報は、瞬く間に王宮内を駆け巡った。
静まり返っていた正殿は一転して祝祭の気配に包まれ、国王と王妃のもとへ吉報が届けられた。
「そうか、ついに……! ギルバートに子ができたか」
国王が満足げに声を上げると、その隣で王妃が優雅に扇を広げ、安堵の溜息を漏らした。
「良うございましたわね、陛下。これで王家の血筋も安泰でございますわ」
王妃の行動は早かった。まだ安定期にも入らぬうちから、彼女は国内最高の裁縫師や宝飾師を呼び集め、結婚式の準備を強引に推し進め始めた。
それは「保護」という名の監禁を、誰も口出しできない「神聖な婚姻」へと塗り替えるための、冷徹かつ迅速な処置だった。
王妃は、執務室にいたギルバートを呼び出すと、扇の先で彼の胸元を軽く叩いた。
「あなた、リリアーナの体を十分に気遣って差し上げているのでしょうね? ……彼女に無体な真似をして手に入れたことは、分かっていますよ。全く、男という生き物は……!」
王妃の言葉に、ギルバートは微かに眉を動かしたが、否定はしなかった。王妃は低く、しかし鋭い声で釘を刺す。
「いいですか。彼女は今や、この国の次代を宿す器なのです。これ以上、彼女を怯えさせるようなことはお止めなさい。より一層大切に、慈しんで差し上げなければ、報いを受けますよ」
数日後、王太子妃の居室に王妃が自ら足を運んだ。
寝台で力なく横たわっていたリリアは、王宮の頂点に君臨する女性の来訪に、強張った体で起き上がろうとした。
「いいのよ、そのままになさい。今は体が一番大事な時だわ」
王妃は侍女たちを下がらせると、リリアの枕元に腰を下ろした。
その瞳には、厳格な統治者としての光ではなく、どこか遠い過去を見つめるような、湿った哀しみが宿っていた。
「……怖いのね。あの子のことが。そして、自分の体の中に宿ったこの命が」
図星を突かれたリリアは、震える手で腹部をさすった。王妃はリリアの細い手を優しく包み込み、静かに語り始めた。
「驚くことはないわ。私も、かつてはあなたと同じだった。……私もね、陛下に無理矢理手籠めにされる形で、この王宮に連れてこられたのよ」
リリアは息を呑んだ。完璧な王妃として知られる彼女にも、そんな凄惨な過去があったのか。
「最初は憎んだわ。殺してやりたいとさえ思った。けれど、お腹の中に子が宿り、その鼓動を感じるたびに、憎しみは形を変えていったの。……それが愛なのか、あるいは逃げ場のなくなった心が作り出した幻影なのか、今でも私には分からない。けれどね、リリアーナ。女はそうして、この檻の中で『母』という名の怪物になっていくのよ」
王妃の微笑みは、慈愛に満ちているようでいて、底知れぬ闇を含んでいた。
「あの子は不器用な子よ。愛し方を知らず、力でしか繋ぎ止める術を持たなかった。……でも、あなたはもう逃げられない。この子が、あなたを永遠にこの場所に縛り付ける。それを、いつか『幸せ』だと思える日が来るわ」
王妃が去った後、リリアは一人、静まり返った部屋で涙を流した。
自分もいつか、この絶望を愛だと錯覚するようになるのだろうか。
王子の狂気を受け入れ、この黄金の檻を「我が家」と呼ぶ日が来るのだろうか。
腹の中の命が、トク、と小さく跳ねたような気がした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
宿った命を知ったときの王子の歓喜と、リリアが感じた「もう一生逃げられない」という絶望。
狂おしいほどの愛が形を成した瞬間でした。
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