6の1 伊達王国建国
文禄四年(1595)正月元旦。
原田左馬之助宗時から祝賀の使者が、ベラクルスに届いた。
「この度、我が主・原田様は見事ペルー国をイスパニア人の手から奪還し、約束通り国王と成られました」
使者は誇らしげだった。詳しく様子を聞き出すと、左馬之助は、領土が広すぎて日本兵のみでは統治できないので、現地民による自治組織作りに忙しいらしい。
「さらにこれはペルー土産の硝石(チリ硝石)と銅の鋳銭、それと名薬の苗木でござる」
使者が説明した。
「何の薬であるか?」
「毒蚊の熱病に効くキナの木(薬剤キニーネの原木)と、頭痛に効くコカの木(麻薬コカインの原木)です。苗木の他にも乾燥させた樹皮や葉をお持ち致しました」
「かたじけない。多いに役立つだろう」
成実は素直に喜んだ。
「この樽は?」
「はい。硝石にござる」
「よし、開けてみよ」
一樽を開けさせて検分する。その硝石は良質の白い結晶で輝いていた。小さな一かけらを舐めてみると、すーっと冷たく感じた。まさに良質の硝石である。
ぺっ、と吐き出す。
これらの樽の全てが硝石とすると、いったい何年分であろうことか。驚いて使者を問い詰めた。
「おい、こんなに多量の硝石をいったい何処で手に入れたのだ?」
「はい。実は、人里離れたある地域の砂漠の砂は、すべてが硝石にございまする」
「なんと!」
成実は、飛びついた。現在の戦さは、鉄砲から大砲の時代になっている。いくら硝石が有っても有り過ぎるということはない。
「使者殿、頼む。その土地の硝石を分けてくれ。そうだ、アカプルコの原田孫七郎に水先案内を頼もう。原田殿は海の達者だ。交易を密にして、伊達王国と原田王国、ともに繁栄しよう。使者殿、どうぞよしなに」
「必ず硝石を運んで参りまする」
総大将の成実に頭を下げられて、使者たちは神妙に約束して帰った。
「これは良い物を貰った。正直、先行きの火薬調達が心もとなかったのだ。左馬之助め、いい仕事をする」
成実は、側近の遊佐に感想を述べた。
多量の銅銭も役に立つ。ペルーには良い銅山があるのだろう。
金銀銭の奥州式貨幣制度が、これで成り立った。やはり小銭がなくては金銀の価値が低くなってしまう。
そしてこの国にもやっと、対価を稼ぐ仕事というものが広がってきた。
いよいよ伊達王国でも鉱山を開発しよう。そして是非にも大砲を生産したい。
年貢による税制は、まだ不十分であった。現地民は米も食うが、主食はやはりコーン(とうもろこし)の粉を焼いたトルティージャだった。
コーンでは、税率が解らない。
古代アステカの税制などを調べてみるのも良いだろう。




