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新大陸伊達王国  作者: いばらき良好
第5章
28/33

5の3 侵攻作戦開始

「何だ、これは!」

 成実は副王の金蔵を見て驚いた。幾つもの石の宮殿に黄金がぎっしりと山積みになっていた。別の部屋には銀も。宝石などの細工物の部屋もあった。

「私利私欲とはまさにこの事。すぐに鋳物師に金貨銀貨を作らせよ。金は万民のためにこそ在るのじゃ」

 成実が調べさせたところ、ヌエバ・エスパーニャは、荘園領主(征服者や植民者)が乱立して統率力が弱まっていたらしい。

 そこで副王は、財力による求心力を期待して金銀を集めたのだろう。

 しかし、重税でケチな副王は民衆に嫌われた。その為、メキシコの戦いではメキシコ人は離反して、イスパニア兵対日本兵のみの戦いとなったのだ。


 この地で、成実は初めて黒人を見た。噂には聞いていたが墨を塗ったような黒光りする肌であった。

 この黒人たちは遠くアフリカなる大地から連れてこられた奴隷であった。

「俺たちは日本人だ。イスパニアを倒す為にやって来た。もう、お前らは自由だ」

 成実の言を通訳が、イスパニア語で繰り返した。

「オオーッ!」歓喜感慨、一斉に歓声が上がる。

 早速、配下に手鎖を解かせた。人を獣のように鎖でつなぐとは信じられない。二〇〇人ほどの男たちが解放された。

「グラシアス。俺たちもイスパニアを倒す手伝いがしたい」

 目の光りの強い黒人青年が、成実に申し出た。

「お主らの勝手にすればよい。南蛮人の鉄砲や鎧など、使いやすいように工夫せよ」

 成実も手数が増えて嬉しいが、これは成実自身の喧嘩だ。異国人を盾にするような卑怯な真似はしたくない。

「名前を聞こう」

 黒人青年に尋ねた。

「カンタロ」

「水がめの事です」

 通訳が知識を輔弼する。

「水がめでは可哀相だ。では日本名をやろう。黒田勘太郎光良と名乗るがよい。ミツヨシだ。お主が良いならば、な?」

 成実は無理に押し付けなかった。王論での観月松男の時も、最初戸惑うような顔をされたのだ。

 まして自由になったその日に、新たな下僕になるのは哀れである。自主性に期待した。

「どういう意味だ?」

 カンタロが聞き返した。

「光りが良いという意味だ」

「ならばいい。ミツヨシか。いい名前をありがとう」

 白い歯が印象的な笑顔であった。


 町は石作りの建物が、そこかしこで建設中であった。

 中でもカテドラル(大聖堂)は、最も力を注いでいるのが一目で判る豪華さだ。

 キリシタンが、異国を支配する大義名分となっていることを感じた。

 メキシコの日本人は、二五〇〇名弱となった。今度の戦いでは死傷者も出た。

 その分、黒人部隊二〇〇名の助っ人も出来た。

 黒人たちは付近の案内や、特に鉱山奴隷の開放に善戦した。

 金銀は掘らせたいが、鎖で縛るのは間違っている。

 成実も欲を出さずに、民衆のために働いた。

 メキシコの戦いで軍功一番であった萱場源兵衛には、感謝状といずれ一国一城の主にするとの目録を送った。

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