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新大陸伊達王国  作者: いばらき良好
第5章
27/33

5の2 侵攻作戦開始

 文禄三年(1594)正月二日。

 ついにテスカカ湖に浮かぶメキシコを見下ろす峠に出た。

「遊佐、よく見ろ。棒道とは厄介な」

 成実の眼下には、広大なテスカカ湖の中に四本の直線堤防のみで繋がっているメキシコ(島)の様子が見て取れた。城砦としては非常によく出来ている。

 何はともあれ、西側湖畔のタクバに仕拠り、陣を張った。なぜなら、この道が一番短い長さ一里(約4キロ)の棒道であるからだ。

 といっても、棒道は防御する敵側に有利である。それを知っていて敵は篭城したのかもしれない。であれば、敵は少人数であるのだろう。

「棒道を楯で押し切る。楯をすぐ作れ」

 命令一過、近隣から木材を調達し、車輪付きの防御盾を作らせた。

 小競り合いはあったが、二日後の朝に、防御盾を押しながら棒道を進み始めた。

 じりじりと地面を這うムカデのような攻撃である。

 敵も間抜けではないから、大砲の砲弾が宙を飛んで来た。

 しかし、弾などそう簡単に当たるものではない。

 成実は、敵地メキシコまでの距離半里(約2キロ)で、やっと大砲での応戦を命じた。

 敵味方とも最新式の青銅製カノン砲である。条件は同じ。

 成実は一刻も早く棒道を渡る必要があった。モタモタしていたら格好の標的になってしまう。

「押せ、押せ。押して渡りきれ!」

 成実は、力攻めをした。


 その時、轟音と共に敵弾が最前列の防御盾に当たって突き抜け、砲弾の下敷きになった兵を圧死させた。

 すぐに壊れた盾を棒道から退かして、二番目の防御盾を前進させた。

 このままでは犠牲が多くなるのは必至だった。

「殿、ワシらの鉄砲隊、突撃してもよいか?」

 鉄砲大将の萱場源兵衛が申し出た。

「まだだ。新式鉄砲でさえも距離三町(327メートル)からだ。堪えよ」

「ならば、馬を使って三町まで一気に詰める、ならどうだ?」

 萱場の顔は自信有り気である。

「その手があったか。しかし、僅か一〇〇足らずで大丈夫か?」

「なーに、大砲の砲手を狙うぐらい一〇〇騎で十分」

「よし、やってみろ」

「相分かった」

 萱場の隊は後方に馬を取りに行った。

「よーし、盾は押せるだけ押すぞ!」

 成実はメキシコの地をきつく睨んだ。

 すぐに騎乗の萱場が、盾の後に寄せて来た。萱場と目と目が合った。

「馬上より御免。いざ参る」

「道を開けよ」

 成実が盾を指揮した。

「はいや!」

 気合もろとも馬上一〇〇騎が駆け出した。ぐんぐんと進み、距離が縮まる。

 さあ、反撃だ。新式鉄砲の射撃が始まった。

 萱場らは、一〇〇発を撃った後、下馬して次弾を込める。

 次弾は、よく敵の砲手に命中し、たくさんが倒れた。この距離では、敵の鉄砲は届かない。さすがは萱場、やる時はやる漢である。


「盾を前に、前に。萱場を見殺しにするな。行くぞーっ!」

 成実は、自らも盾を押して距離を縮めた。

 敵地まで三町に達した。萱場はさらに前進している。

「よし、俺も斬り込むぞ。遊佐、ここの指揮を頼む」

「ええーっ、と、殿、ご武運を」

 先ほど突撃した馬を手繰り寄せ、成実は騎乗した。

 遊佐の指図で、味方の新式が一斉に火を噴く。二斉射、三斉射。

「よし、行くぞーっ」

 成実は、槍を片手に猛然と突撃した。敵の柵を突破して、メキシコ島内に一番乗りする。

 味方も次々に突入した。

「斬れ、斬れぇい!」

 成実は手槍で突き、敵を叩きつけた。馬上から右に左に敵を蹴散らす。

 白兵戦に慣れた日本兵は、百選練磨であった。

 敵の白鉄の全身鎧は重すぎて動きが鈍い。重い幅広剣など止まって見える。

 下馬した成実は、伝家の宝刀「宇佐美長光」で南蛮鎧の関節を狙って斬りまくった。これは伝説の通りによく切れる太刀であった。

 重装備の南蛮兵を、突き、あるいは斬り伏せて退治した。


 まもなく立派な髭をたくわえた副王のルイス・デ・ベラスコも捕らえられた。日本兵を甘く見たのか、戦さなのに鎧も着けていない。

「こいつに武士の情けと言っても切腹は出来まい。俺と一騎打ちをさせろ」

 成実は決闘を所望した。イスパニア語に訳されて、副王ベラスコの前に幅広剣が投げられた。

 成実と副王を中心に、日本兵とメキシコ民衆が大きな輪になった。

 副王ベラスコは、大柄な体躯を怒らせて何やら吼えた。怒声がビリリと伝わる。

 剣を大きく振り、石畳を削って火花を飛ばした。そして重い幅広剣を段々速く、うなりを上げて振り回した。

 流石に統領だけのことはある。見事な剣さばきだ。

「あーっ、とっ、殿、また!」

 今やっと遊佐も到着し、一騎打ちの成実を見て悲鳴をあげた。

 危険は承知の上。成実も馬鹿ではない。

 成実は、獲物を狙う虎のように重心を低く構えて、副王の隙をうかがった。

 幅広剣は重い。ゆえに振り回す剣を受けてはいけない。

 周囲は息を詰め、両者は互いに間合いを探り、じりじりとした対峙が続く。

 敵副王は猛獣のような威嚇を繰り返す。勝負は一瞬だ。

 成実には弱点が見えた。それは剣の重さに任せる南蛮流の剣の振り方である。回転軸を狙うのだ。

「やあっ!」

 相手と同時に振り下ろし、成実は一瞬だけ速く相手の手首を打った。

「ぐはっ」

 副王ベラスコは、幅広剣を投げ落とし、右手首を押さえてのけ反った。

 間髪入れずに成実は、副王を袈裟斬りにした。

 勝負は決した。膝から崩れ、副王ベラスコは地面に倒れた。

「敵の大将、討ち取ったり!」

 オーッ! と、群衆から驚きとも喜びとも取れる興奮が、地響きと共に伝わって来た。

 こうして成実は勝利し、メキシコの都を征服した。

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