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新大陸伊達王国  作者: いばらき良好
第2章
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2の3 伊達海軍を創る

 城を取り戻した成実は、自分から政宗に帰参の許しを請うのが筋目なのであるが、屋代の非道ぶりを見て見ぬふりをした政宗に、憤りを感じていた。

 そのため、城にこもって内政を立て直すだけの日々を送っていた。

 初めに軍師の小十郎が、次に重臣で従兄弟の留守政景や石川昭光が仲介にやって来た。

 さらには徳川家康からの仕官話や、越後の上杉景勝からも「成実を五万石で家臣にしたい」と申してきたが、いずれも断わった。

 元安斎との「伊達家に天下を」の約束がある。

 九月になって、舅の亘理重宗が来城するに及んで成実はやっと腰を上げ、米沢城の政宗を訪ねた。

「よく来たな成実。京都では残念だったが、南蛮船を率いての帰国は大儀である」

 政宗が表書院の上段から下りて来て成実のすぐ前に座った。

「はっ、伊達家帰参をお許し願います」

「上杉が五万石で口説いたそうな。ワシも五万石出さねばならぬかの?」

 政宗は笑っていた。幾分、機嫌がいいようだ。

「滅相も無い。二本松三万八〇〇〇石で結構にござる」

 成実は堂々と応えた。

「よかろう。帰参を許す」

 政宗も肝が据わっていた。二本松で配下が起こした事件を知っていても口に出さない。そして驚くほど正確に、家康や景勝の使者の用件をも推知していた。

 胆力と細かさ、やはり政宗は大器だ。それでこそ成実も働き甲斐があるものだ。


「つい先日、九戸政実が三好秀次に降伏した。大崎・葛西の一揆もワシの手柄で一件落着。もうこの日本で秀吉に逆らう者はいない。これからは朝鮮や明が相手だ」

 成実も唐入りの話は聞いていた。

「本当に秀吉は明国まで攻め取るつもりなのか?」

「そうだ。そればかりか、秀吉は天竺まで攻め上るつもりだろうよ」

「ほう、俺もでかい話は好きだが、その戦いに大義はあるのか?」

「秀吉の戦さだ。ワシは知らぬ」

 それもそうだった。政宗も成実も、天下の政を行なう立場にない。

「南蛮船が見たいのう」

 政宗が呟いた。

 カピタンの原田は、積荷の綿を奥州で売り、帰路でも何か儲けようと、今も奥州の産物を探し回っている。

「政宗公のことだ。もう見て来たのではないのか?」

 成実がカマをかけると、

「黒脛巾組から、絵図面が届いている。ワシも直接に南蛮船に乗ってみたいが、秀吉や家康、浅野長政らの間者が、米沢に入り込んでワシを見張っているのでな。しばらく、奴らに南蛮船は秘密にして置きたい」

 政宗には、何か考えがあるらしい。

「やはり一揆を煽って目を付けられたのか。で、当の蒲生氏郷は息災か?」

「生きている。奥州の冬には余程困ったらしく、敵前で城に篭って亀になった」

「都近くの武士はその程度か。これは、末代までの笑い話だな」

「まったくだ。はっはっは」

 目的の為なら卑怯な手も使う政宗は、用済みになれば斬られるぞ、と成実の心底を緊張させた。


 そのまま座を退出して宿舎で休んでいた成実は、翌日未明、遊佐に起こされた。

「殿、急使が参られました。急ぎお城へ」

「何か起こったのか?」

 と、いぶかしがる。政宗が、もう戦さは無いような事を言っていたからだ。

「解りませぬが、急いで登城せよとの事にて」

「よし、明かりと着替えを頼む」

 成実は手際よく小袖と袴を身に着けて、遊佐が渡す太刀を腰に下げた。伊達家本拠地の米沢では、格式を重んじて、まだ南蛮衣装は見せていない。

 城に登ると、政宗と小十郎が膝を突き合わせて議論していた。

「おう成実、ここへ来い。秀吉がワシに転封を命じて来たぞ」

 政宗が書状を示した。灯明に白い書状が映る。

「それは一大事。まさか九州や四国ではあるまいな?」

 寝耳に水の成実だったが、まず政宗の説明を聞く。

「本貫の伊達、信夫、置賜に、刈田、安達、田村の六郡を取り上げ、代わりに大崎五郡と葛西七郡、桃生郡の十三郡が加増される」

「俺の二本松も退去か。なによりも父祖伝来の米沢城を取られるのは嫌だな。で、将兵や石高は維持できるのか?」

「表高は、六九万石から五八万石に減り、さらに一揆によりあの土地は荒廃しているので、実高は四〇万石ほど。これでは明らかに関白殿下の嫌がらせにござる」

 小十郎が先に算盤を弾いたようだ。

「ちっ、京都で秀吉を殺せなかったのが残念だ」

 成実も悔しい限り。一騎打ちも出来ぬ小物でも、政略には長けているらしい。

「ワシも蒲生氏郷を葬れなかったのが悔やまれる」

 政宗の謀略は、やぶ蛇だったようだ。

「もし、新領で一揆でも起これば、木村家同様に伊達家はお取潰しになりまする」

 小十郎は、何か予防策を思案している様子だ。

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