死んで後悔はありますか?と聞かれれば(ありますよ!)という言葉よりも(ぃぃゃ…それほど…)という言葉の方に重心がいってしまうようなそんな人生だった
「あなたの悩みは何ですか?」
私の悩み…
「あなたの灰色は少し黒に近いんです」
「え?」
?ほんとに?嘘でしょ?なんで?ぁ、まぁ、でも…なんとなくわかるか…
「だから、あなたと話し合いたいんです。恐らく何に悩んでいる、というよりも戸惑っている、方が大きいでしょうし」
「えぇ…まぁ…」
悩み、戸惑い、迷い…
「僕は、あなたがどんな人か知りたいです」
私…
「私は29歳、でした。
職業は無職…無職と言ってもアルバイトで朝の9時30分~19時まで古本屋さんで週に5日働いて、これでも無職と言われるのだから結構腹が立っていた」
趣味なし・特技なし・友達なし…
そんなんだから彼氏はいないし…当たり前だけど出会いもない」
「え?そうだったんですか?」
「はぃ…そうなんですよ…だから、まぁ…
生きている意味を感じていなかった人生、だった…
だけど…突然、こんな形で幕を閉じるとは思ってもいなかった」
「…」
「死んで後悔はありますか?と聞かれれば(ありますよ!)という言葉よりも(ぃぃゃ…それほど…)という言葉の方に重心がいってしまうようなそんな人生だった…あれが見たかったなぁとか…あの人好きだったのにとか…〇〇が好きでとか…そういうものが本当に少なかったし、ほとんどなかった」
「え、でも少なかったと言うことは何かあったんですよね?それは何だったんですか?」
「ぁ、えっと、漫画、漫画が好きで、色んなものを集めてました」
「へえ、漫画が好きだったんですね」
「ええ、でも、最近は…なんか、新刊で並んでいる漫画の表紙があからさまに性的だったり、タイトルに知性を感じられなかったり、で、とてもガッカリしていて…なんか嫌だった。皆が興味を持つとこうなるんだと、もともといたところに偏見がなくなって皆が入るようになったら、なんだか居心地が悪くなって出ていきたくなった、ような気持だったんだと思う。変だけど」
「じゃあ、もう、やめちゃってたんですか?」
「いや、その中にもきちんとしたものはたくさんあって、それを探すのが好きでした」
「へえそうだったんですね。好きな物ちゃんとあるじゃないですか」
「えぇ、でも、それ以外の時間を、あまり有意義に過ごせていなくて…たぶん、なんていうんだろぅ…皆のように、上手く人生を…楽しめなかった。皆が向く方向を見ることを恥ずかしいと思っていた、勝手に。映画も漫画もブームになるほどヒットすると見る気が失せた。皆がキャラクターについて語ることに付いていけず、苦笑いしかできなかった。苦笑いしながら、でも今見るのもなぁと思って歩み寄らなかった。もしかしたら私はブームを避けることによって、なぜかその人たちの上に自分がいると思い込んでいたのかもしれない…。斜に構えた角度で様々なことを見て、皆に置いてかれて勝手に寂しくなっていた…。もっとアプリでゲームをすればよかった。アプリのゲームキャラが成長しても…とバカみたいに俯瞰せずに与えられたものを、導かれるブームを、虚空の時間を無くすための人の善意を…人と共感して盛り上がって、手と手をつないで歩んでいくべきだった…」
生きていれば涙を流していた。確実に。でも私は泣き顔で顔がしわくちゃなのに、一滴の涙も流れなかった。流れなかった。
「流れなかった…」
「ぇ、え?」
「ぁ………私ダメだ。ダメなんだ。そっか」
目の前のお兄さんが黒に近い灰色になっていた。
「ごめんなさい。私、今話し合いとかできそうにないです。私、ごめんなさい。今とてもここにいたくない。綺麗なところにいたくない。私の愚痴はどんどん巨大になっていって皆を確実に巻き込んでいく。巻き込んで、人に、怒りや悲しみ、明らかにマイナスな物を植え付けていく。そしたらいつもは話し合いですんでいたのに話し合いだけでは足りなくなる。混乱していると誰かが私のせいで真っ黒になる。真っ黒になったらまた誰かも真っ黒になる。そしてそれはしだいに伝染していき透明な人間は追い出されていき、この病院は真っ黒になる」
「そ、そんなこと!」
「ないことはない!わかってる!皆優しいから!死んでるのにとても優しいから!傷付いた者を治してくれる、気にかけてくれるあなたたちを傷付けたくない!傷付いていく皆を見ながら傷付きたくない。だから…ごめんなさい…」