死んだ世界というものは
屋上にはたくさんの幽霊の方がいた。
そこは学校の昼休みで見る屋上のように、たくさんの人たち(透明な)で埋め尽くされていた。空にも何十人と浮いていて
「あら、あなたやっぱり!」
空に浮かんでいる40代か50代かの女性の幽霊の方が私を見て声を発する。
「あぁ、そうかやっぱり」
その隣の70代位の男の方も声を発する。
「あらあら、まあしょうがない!説明はどこまでしたの?」
そう言って屋上の奥の方にいた30代位の女性が私の方まで飛んできた。
「…」
私は驚いたが、言葉を発さなかった。何か失礼な言葉を言ってしまうんじゃないかと不安だった。
「あなたは死んで、もう何かをする力、能力がなくなりましたよ…という説明しか、できてない…」
おじさんが言う。
「まぁ…はっきり言って、それで全部だしね」
先ほどのお姉さんがおじさんと言葉を交わし私を見る。
「うん、まあ、なんだろう、生きてるって思わないことが大事。大事なことはそれと、あまり怒ったり、悩んだり、しないこと…かな…」
「はぃ…」
私は元は白だったけど今は灰色に近くなってしまったであろう地面を見ながら言う。
「あなた…当たり前だけど今、戸惑ってるよね?」
「ぇ」
「あぁ、色に、出てる…はは。あなたは今、皆から少し灰色に見えてるの…少し、少しだけだけど、危うい状態」
「え?」
「いや!皆!皆そうだから!死んだ後の人はほとんど、全員と言っていいほどこうなります!」
一緒に来てくれたお兄さんが慌てて補足してくれた。
「そりゃ、そりゃあ悩みますよ!戸惑います!」
「ぁ…ありがとう、ございます」
私は軽く頭を下げた。そして透けている自分の姿をはっきり見る。
「ぁ」
そういえば私服着てる。事故にあった時着ていた、黒いズボンに白いワイシャツ…女なのに服に興味がないのが一瞬でばれてしまうようなそんな服…でも、私はこの服が、なんだか落ち着いて好きだった…
「…」
そして更に自分の透けたお腹らへんを凝視して見るが、透けて見えるドア以外に、自分の色などわからなかった。
「はは!ごめんね、ごめん!自分じゃ自分の色はわからないよ。わからない。うーん、なんだろう…自分の友達が、明らかに元気がないんだけど本人は気付いていないって感じの時って、今までなかった?」
「ぁ…あります!」
「ああ!やった!よかった!そんな感じ、かな。今あなたは」
「ああ、なるほど…」
「まあ、さっき言ってくれてたように、それは当たり前のことだから、何も気にせずに、ゆっくり私達と話していこう!わからないことがあったら何でも聞いて!私も!皆も!何でも説明するし」
そう言いながら彼女は得意げに腕を組んで周りの方たちを見た。
○
私は彼女と屋上の真ん中の一番日の当たるところに座り、話を聞いた。
「死んだ後の世界というものは
なんていうんだろぅ…
言葉だけが通じる世界…
しかも、私達幽霊だけ
その言葉はどんなに叫んでも生きている人間には聞こえないし
24時間耳元で喋り続けても気付かれない。
死んだ世界というものは
やっぱりなんてったって
むなしい世界
ずっと、ずっ~とこれと隣り合わせ
生きている時のむなしさとは、とても比べ物にならないかな…これは…はは
何かをしても、笑っていても、どうしてか、いつもむなしさがそこにあって
私達を、いや人間たちを、いや過去人間だった者たちを、知らない間に蝕んでいく。
むなしさをひょいと忘れる事ができる器用な人間はいるんだけれど…
私はどうも…はは…」
そう言って彼女は下を向いた。
「ぇ…」
彼女の色が、少し灰色に見えた。
彼女の周り、なんだろぅ、体の周りを漂うオーラのような物、が話している彼女から突然薄い雲のように漂い、だして、それは彼女自信を少し灰色にさせた。(ごめんもっとわかりやすく言うとね)
薄く漂い出した灰色のオーラは、ゆっくり彼女の周りを一周して、彼女の胸の中に入っていった。するとそれは彼女の肌色の顔色にほんの2滴ほど灰色の絵の具が入ってかき混ぜられた、みたいな、感じで彼女の中に入っていった。その灰色は彼女の着ている白いシャツにも移っていき、ピンクの長めのスカートも少し濁り、白いスニーカーは彼女のシャツと同じ色になった。
「ぁ…」
彼女は私を見て、目を大きくさせた。そして
「ごめん、ごめんごめん!」
と口角を上げて目を細めて謝った。
「ね、ね、わかったでしょ!これが、私がさっき言ってたあなたの色が灰色に見えてるって、そんな状態」
「そうでしょ!ねえ、私今、少し灰色になってるでしょ?」
私は大きくうなずいていいのかわからず、少し小さくうなずいた。周りの会話には入ってこないけど私たちを見守ってくれている人たちも、笑いながらう優しくなずいていた。
「これが発散されないと、無くならないと、ね、灰色はいつしか黒くなって…それでも長くそのままでいると、私達は悪霊になってしまうの」
「ぇ」