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僕は人を殺した

 僕は人を殺した。


 だから僕はここにいる。


 この牢屋の中で、職があった時よりも規則正しい生活をしている。


             ○


 僕は飲食店の店長だった。


 そこは24時間やっている飲食店で、事あるごとに責任者である僕が必要になった。クレーム関連には謝罪し、時には向こうの家まで赴く事まであった。本社の人間には昨年に比べ売上が落ちている事への原因・対策を書類を作って報告し、その間忙しかったのにお店を手伝わなかったと、パートの方には愚痴をこぼされる。一週間に一度の休みも、在庫が切れそうだの、お客様からのクレームだので呼び出され、呼び出しがなくても原因・対策の報告書だのの作成で一日がすぐに終わってしまう。


「…」


 その日も公休の日なのにパートさんが急に休みになった為、朝だけ働き10時から他のパートさんが来たので帰っていた。


 働いている時も、帰りの職場のドアを開ける時も、車のドアを開ける時も少しの怒りと強い眠気が存在し、車の中で少し眠ろうかと考えたが、部屋のベッドで悠々自適に眠りたいと車のエンジンをかけた。


「それが大きな間違いだった…」


 車を運転していると仕事が終わったという安心感かとんでもない眠気が襲ってきた。脳みそがお風呂にでも浸かっているかのように温かくなり、信号が赤になって止まると頭はかくんかくんと上を向いたり下を向いたりして、あぁ…やばいなこりゃ…と思ったが、家までもう少しだし、眠るために止まっていい所などないし、駐車場は金が掛かるしという言葉が頭をちらつき、冷たい手で両目を拭った。


 走っていると両目がとてつもなく重くなった。


「…」


 その瞬間なぜか目の前が職場になっていて、パートさんに挨拶をした。と思ったら、今度は野原にいた。野原で草を見つめていると、急に目の前にハンドルが存在し、目の前を女性が歩いていた。


「ぇ」


 この人危ないじゃん!と少し怒った。道路の真ん中を歩くなんて…と思っていると少しずつ目が覚めた。


「ぁ」


 この女性は歩道をしっかり歩いていて、僕は道路を斜めに走っている。クラクションを鳴らすのが正解かブレーキをかけるのが正解か意味も分からず少し迷った。女性の後姿はどんどん近づく。


「ぅ!」


 急いでブレーキを踏んだ。嫌な予感がして目をつぶった。少しスピードが落ち、車のブレーキ音の甲高い音が耳に入ると同時にボン!という鈍く重い音が車の中を伝った。


「…」


 車は止まった。ハンドルを見ている。とんでもない回数の瞬きをしている。手が冷たい足が冷たい。どうしたどうしてどうなった?今の状況を確認しようとしたが、頭を上げることができなかった。


「…」


 今まで感じたことがないほどの心臓の音が頭に響く。


 コンコンとさっきの女性が不機嫌な顔をして窓を叩いてくれればと、神様に願ったが窓を叩かれることはなかった。


 嫌な予感しかしなかった。嫌な予感しかしなかった。じゃあどうする?どうすればいい?と逃げ出してしまう人の気持ちが、とてつもなくわかった。


「…」


 ぃゃ、もぅわからなぃゃ。正解とか不正解とかなんだかそういう話ではなくて、不正解の後には正解なんてなくて、なんだか全てがどうでもよく思えた瞬間に頭を上げることができた。


「っ」


 少し前の方で女性が仰向けになって倒れていた。その女性がどういう風に転がったかがわかるように血が連なっていた。仰向けに寝ている女性の後頭部の血が今もなお広がっていた。


                ○


 あれから自分は車から降り、救急車と警察を呼んだらしいが、あまり覚えていない。


                ○


 死ねと言われれば死にますよ。という気分で今日まで生きている。


 でも、痛いのは嫌なので知らぬ間に食事に毒を盛ってください。知らぬ間に毎日少しずつ変な薬を飲ませて殺してください。それを贅沢と言うのであればそう言うあなたが、僕を殺してください。銃で僕を打ち抜いてください。何かで僕の首をはねてください。同じ方法で死なせたければ急に車で僕を跳ね飛ばしてください。


 あの女性が生き返るのであれば、僕はすぐにでも首を吊ります。あの女性のお父様お母様ごめんなさい。兄弟姉妹がいればごめんなさい。親戚の方ごめんなさい。彼氏、旦那さん、親友友達職場の方々、あの女性に関わっていた方、関わってこられた方々ごめんなさい。誠心誠意謝罪します。だから許してくださいという事ではありません。ですが何でもするので神様どうか!どうか彼女を生き返らせてください!

 未来を奪ってしまってごめんなさい。これからの楽しい思いを奪ってしまってごめんなさい。触れる喜びを食の楽しみをこれから起こる大きな事もささやかな事も変化も充実も全ての事を、奪ってしまってごめんなさい。


 あなたが許せないと、死ねと仰るのであれば僕は死にます。体が欲しいと望まれるのであれば差し上げます。ですのでどうか、僕の前に現れてください。僕にできることがあれば何でもしますから。どうか。

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