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わたしはやっぱりこのせかいがだいきらいだ

                ●

 あれからまた数週間が経った。


 草木が茂る森の中、ひざまで伸びている草を気にすることもなく、黒いアスファルトの地面を忘れ、4本の木の間で一定の距離を保ちながら私を含め6人で今日も何かを話している。


「へぇ!そうなんですね!」


 私はそう言っているがその情報はたぶん、数分後には忘れてしまっている。


 ほかの5人も多分そう。


「ははは」


 皆、この時間を埋めるように何か言葉を発している。


 今日の天気、今日は暑そうか寒そうか、テレビのニュースの情報(皆どこにでも行けるから、どこかのテレビを一緒に見ている)、誰か芸能人のスキャンダル、それが出ると昔の芸能人のスキャンダル、そうなると私の生前の芸能人のスキャンダル…それに対して「へぇ!そうだったんですか!」と言うと皆喜ぶ。


 金と政治の話、それが出ると昔の金と政治その時の大統領の話、それが出ると名前は知っているが細かくは知らないテレビのクイズとか教科書とかで見た事あるかなぁ…という偉人の話になって、よくわからない話になると「へえ」という言葉を多用するのもあれなので、無駄に多く首を縦に振り相槌を打つ。最後に「すごかったんですね!」と言うと皆喜ぶ。


 事件の話、殺人事件とか詐欺とか自殺とか戦争とかそんな話、何かの事件とか詐欺とかだと、皆なぜか身近に体験した人がいて実体験の話になる。知り合いが電話で詐欺に…とか、だいぶ前に知り合いから聞いたんだけど…とか、消費税は昔はなかったのよ…とか、ここでの話は結構面白くて「へぇ!そうなんですね!」と言うとやっぱり皆喜ぶ。


 1秒は速く10秒も速く過ぎるが1分は長い。1分が長いと10分はさらに長い。何かの目的がないとやるべきことがないと、時間というものは残酷なほど私たちに虚無感を植え付けてくる。


 生きている時は、生きていることがつまらない。


 死んでいる時は、死んでいてもつまらない。


 楽しい思い出は一瞬で覚め、酷な思い出に心が躍る。誰かを憎むと時間がつぶれる。自分を憎むと時間がつぶれる。あそこで死ぬはずではなかったという想いにしがみつくと、また時間がつぶれる。


 ずっと6人でいる必要もないので「少し歩いてきます」とその場を離れる。1分ほど歩くとまた別の6人のグループに出会う。


 この森の中はこの等間隔で分けられていて、数えられないほどのグループが存在している。


「ぁ…」


 私は軽く頭を下げる。向こうも軽く頭を下げる。「こんにちは」と言うと「こんにちは」と返してくれる。顔見知りではあるけども、それ以上踏み込んでいない。そんな感じが生きている頃のご近所付き合いと似ていて、なんだかなと思った。ご近所付き合いが上手な人はやっぱりいて、皆の輪の中にうまく入ってくる人もいるが、私たちのグループは皆それらがお上手ではなかった。


 歩いて、歩いて、歩いていると、ひときわ大きな木を見つけ、そこで立ち止まる。どこかに向かっていたわけではないので、ここでいいやと腰を下ろす。大きな木にもたれ掛かって、木々の葉の隙間から空を見る。


「…」


 心が落ち着かない。何かが爆発しそうだ。そしてその何かをずっと私は上手く組みとれていない。その何かがなんで死んでもここにいるのか、その何かは生きている時だけのものではないのか、死んだ今その何かに駆られても、もう、どうすることもできないよ…と思うのだけれど、時間に縛られていると虚無感が存在し、その虚無感は必ずその何かを運んでくる。生きている時はその何かで死にたくなり、死んでいる時はその何かでたぶん黒くなる。その何かを皆は私ほど大きくとらえてなくて、私は生きていた頃のように皆を羨ましがるけれど、そうするとその何かはそれを養分として大きくなる。大きくなりすぎると意味もなく落ち込み、全身に力が入らなくなり、皆の声に耳を傾きづらくなり、一人になりたくなり一人になる。一人になるも何もできずに目をつぶる。目をつぶるが眠たいが眠れない。眠りに入る少し前の所で何かよくわからないことを考えて、眠りを妨げている。


 あぁ本当に、生きていても死んでいても、この世界が嫌いで嫌いでしょうがない…


 わたしはやっぱりこのせかいがだいきらいだ

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