ぃぃなぁ
気が付くと、私はベッドの上空から私を見つめていた。
ベッドで気持ちよさそうに寝ている私を、私はなぜか愛おしそうに見つめている。
幽体離脱というやつかな?と思うと同時に、じゃあ今お母さんは?お母さんはどうなってるのかな?寝てるのかな?と思うと同時にスウと体が動き、ドアをすり抜けた。飛んでいるのに、すり抜けているのに、なぜか全然新鮮ではなくて嬉しくもなんともなかった。
お母さんはまだ眠っておらず、リビングにいた。リビングではお父さんとお母さんが対座になっていて、お母さんは力なくうつむいていた。
「わからない」「正解が」「甘えさせることが正解なのか」「厳しくあることが正解なのか」「わからない」「あの子はどうしてほしいのか」「何をしてほしくないのか」「無関心が心地よいのか」「もっと愛してほしいのか」「無関心であればどこまでが正解なの?」「愛するのはどこまでが正解なの?」「言葉で示すべきなの?行動で示すべきなの?」「私の今の愛は届いてないの?」「もしかして、私は今、あの子を愛せてないの?」「わからないから」「全てがわからないから」「正解のようなものにしがみついてしまう」「勉強は正解なの?」「勉強をして良い大学に行って就職すれば正解、なの?」「その就職先がブラック企業だったら?」「あの子はまた傷付いてしまう」「大学でまた馴染めなかったら?」「あの子はどこに行っても馴染めないんだと思い込んでしまう」「だったら家にいればいいと」「部屋にいればいいと思ってしまう」「これはあの子の為にはならないの?」「何が正解なの?」「何が不正解なの?」「あの子を甘やかすのは不正解なの?」「ねえ、ねえ。ねえ!」「何か答えてよ!」「正解はなんなの?」
お母さんがお父さんに詰め寄る。
「わからないよ!」「答えなんてわからない!」「これには明確な答えなんてないんだから!」「でも」「でもずっと」「ずっと部屋にいるべきではないと僕は思う」「違う!違うよ!今更学校へ行けって言ってるんじゃなくて」「ぇと」「なんだろう」「なんて言うのかなぁ」「部屋だけがあの子の全てにはしちゃいけないと思う」「えっとね」「ええっと」「僕達にも部屋はあるじゃない」「自分の部屋は重要だけど、全てじゃない」「部屋はリラックスをするところだけど、眠ったりゲームしたり漫画を読んだりスマホを見たりするところだけど」「部屋がなくなっても死んだりはしない」「依存はしてるけど、ここがなくなってもまた次を探せばいいと思えているくらいの依存で」「ぇぇ」「だから」「選択肢がここだけではない」「と思えるくらいの余裕さが無くなってしまう程依存させてはいけないと」「僕は思う」「え?」「わからない?」「わからないかなぁ?」「まあ」「普通の人間であれよ」「ということが言いたかった」「んだけど…」「わからないね」「まあ」「ぇと」「外に出たくなったら出ればいいし」「買い物に行きたくなったら行けばいい」「学校に行ってないからって」「外に行ってはいけないわけじゃないでしょ?楽しんでいけないわけじゃない」「そういう人として当たり前の選択肢をあの子から奪ってはいけないと思う」「世間の目が」「とか」「近所の目が」「恥ずかしい」「とかを」「感じさせてはいけない」「と思う絶対」「あの子は恥ずかしくないし」「胸を張って生きてほしい」「学校なんて関係ない」「世間の目なんて関係ない」「まぁ」「パパ活」「とか」「薬」「とか」「そういうのは」「嫌だけど」
そう言いながらお父さんはティッシュを手に取って、泣いている母に手渡した。
私はそれを見て、少し暖かい気持ちになって、そしてなぜか傷付いた。
「ぃぃなぁ」
となぜか私は口にして、そうして私は部屋へと帰っていった。




