生きていなければ恥ずかしくないのに 生きているから恥ずかしい
学校が終わりまっすぐ家に帰る。
今私は電車を待っている。
「…っし…」
これで最後の学校だと少し心が弾んだ。
やったやった!と無意味に心が弾んだが、己の計画性の無さにバカさ加減に少し傷付いた。
ぁ、私ってこんなにバカだったんだと思った。
(どうするの?)という文字が頭に出てきて、それが(どうやるの?)と文字を変えて、それがとても大きくなって頭の中でとても広い面積を取って腕を組んでドスン!と座っている。
「帰ってそのまま部屋にこもります」
(どうやるの?)に向けて、ブレインである私が挙手をして語り掛ける。
「食事は出るのかしら?」
(どうやるの?)が答える。私は下を見る。そこには(出ない)と書かれている。
「私が作ります…」
「いつ作るの?リビングにはお母さんがずっといるじゃない」
「し、深夜に作ればいいじゃん。お母さんその時間寝てるし」
「そんなコソコソしながら家の中で過ごすの?そんなコソコソしてる娘を心配しないと思う?コソコソご飯作ってるところを捕まるに決まってるよね?そんな事もわからないの?」
「…」(うるさいな!嫌いだよ!)
「嫌われても結構。それで、どうやるの?」
「何が正解なの?」
「生んでくれた人間を、育ててくれた人間を、傷付けてはいけない」
「そんなの無理だよ」
「憎しみを投げてはいけない。苦しみを投げてはいけない」
「どうすればいいのさ!」
「心を開いて、怒られてもいいから、本音で話し合いなさい」
「わから」
「昨日と同じことはしてはいけない」
「………」
私の中の(どうやるの?)は、意外としっかりしていた。
●
彼女は家に帰り突然母親に頭を下げた。
「ごめんなさい。昨日はごめんなさい。でも私、やっぱり、学校行きたくないです」
○
「勉強します!」「それ以外も何でもします!」「言ってくれれば何でもするんで!許してください!」
母は戸惑った顔で私の頬を叩いた。(わからない)と母の顔に書かれていた。
(意味が分からない)(どうすればいいのかわからない)(何が正解なのかわからない)(叩いて正解なの?)(わからなぃわからなぃ)
「どうしてこんなことになったの?」
私も困った顔で母を見る。何が正解か頭を回す。そうすると最初に簡単な言葉が出てくる。(行きたくないから!)それでは昨日と同じになってしまうと次の答えを探す。そうすると手っ取り早い嘘が出てくる。(私いじめられてるの!だから行きたくない!)それだと皆を巻き込んで、大人も巻き込んで最終的にとんでもないことになってしまう可能性をほんの数パーセントではあるが感じて急いでやめた。すると(どうやるの?)が急に私の前に落ちてきた。「だから!心を開いて!本音で話すって!言ったでしょ!私!」と言ってきた。(ど)を(怒)に変えて(怒うやるの!)になっていた。
「友達がいなくて」「寂しくて」「誰とも話せなくて」「誰も話しかけてこなくて」「クラスで私はいないようでいて」「実際昨日休んだけど先生にも気づかれてなくて」「…」「私以外誰も孤立してなくて」「皆が皆誰かを認識してるのに、私だけ誰にも認識されてない」「生きているのに生きていないような気分になる」「生きていなければ恥ずかしくないのに」「生きているから恥ずかしい」「2人1組のペアで一人になった瞬間に皆に認識される」「皆が下校している時、一人で歩いてる私を見て認識される」「授業で指されて声を発して認識される」「小さな声で(あんな声なんだ)とか(話してんの初めて見た)とか、言われているのかなと妄想するも怖くてどこも見れない」「そんなことすら認識もされていないのかもとまた嫌な気持ちになる」「惨めな瞬間だけ、蔑まれる瞬間だけ、自分よりも下の人間が出来たと思った瞬間だけ私は存在する」「クラスの皆は優しくて、まだ、攻撃対象にはされていないけど、いつそうなるかわからない」「誰かが走って私にぶつかってくるかもしれない」「違う所で話していたと思ったら急に机を囲まれて、携帯を取られるかもしれない」「トイレから戻ってきたら机を占領されていて、私を認識して舌打ちされるかもしれない」「トイレで(あいつクラスで馴染めないからトイレに来てるんだ)と思われているかも、言われているかもしれない」「毎日毎日」「惨めで惨めで」「こうにはなりたくない」「って皆に指をさされているようで」「こうならないように僕達、私達、頑張っていこうね」「と心の根っこで思われているようで」「ずっとモヤモヤして、ずっと胃が痛くて、泣いたら認識されるから泣けなくて、死んだようにスマホの画面を見てしまう」「私はやっぱり寂しいんだと」「唾をのみながら」「思って」「お母さん」「ごめんなさい」「ごめんなさい」「こんな寂しい子供になっちゃって」「ごめんなさい」
思ったことをそのまま口に出した。そしたら涙が出てきて鼻水も垂れてきた。垂れてきた鼻水をずずって戻すと、すぐにまた垂れてきて、鼻を手で拭うと、母がティッシュを2枚取って渡してくれた。




