もういいよ
朝礼が終わり、担任の先生が私を呼んだ。
「…」
初めて個人で呼ばれたから驚き散らした。脇が汗でぬれた。怒られるんだと思った。一日休んだだけで私は怒られるんだと。そしたら先生が優しく尋ねた。
「あのう、小川さん?昨日なんだけど…あなた、2時間目と3時間目と5時間目と6時間目…が、いない事になってるんだけど…なにか、あったの?」
「ぇ」
「うん…」
「ぁ」
瞬時に理解した。
「先生ごめんなさい。私、昨日、一日休んでました」
「ぁ」
先生もそこで一瞬で理解した。
「ごめんなさい!」
「はは」
「そうよね!そう!お休みだったわね。ごめんなさい!他の教科の先生たちもね、あまり出席とか、各授業で、取る先生もいれば、取らない先生もいるもんね!」
「はは。そうですね。はい」
あんなにして手に入れた休みは、クラスの人たちは愚か先生にすら気付かれなかった。
ぎこちない笑顔を先生に見せ、その顔のまま自分の机に戻った。
やっぱり、意味ないじゃん私。
あんなに切れて、地団駄踏んで怒られて、ヒステリックを起こして、父に目をまん丸くされて、大きな不愉快な太鼓みたいな音で階段を上がり、ドアが壊れるんじゃないかと思う勢いで自室のドアを閉め、少し震えて、だいぶ泣いて、そのまま寝て、起きて、まだお昼で、お腹がすいて、のどが渇いて、ドアを恐る恐るそっと開けて、階段をさっきとは真逆な感じで下りて、リビングのテレビの音が聞こえて静かに部屋に戻って、トイレはいいだろうと、トイレをして流した後に出る水を手ですくって少し飲んで、夕方母が車で買い物に行くまで自室で待った。
母との関係に亀裂を生んで、家族の雰囲気を悪くさせて、一日休んで、先生にも気づかれなかった。
「…」
ならもういいじゃん
もういいよ。もういい。行く意味ないんだって。いる意味ないんだって。誰にも、先生たちにも気付かれないんだって。いいじゃん。いいよ、もう。疲れたよ。もう2学期だよ。もう馴染めないよ。グループ出来てるもん。出来上がってるよ!そこにはもう、入るスペースはないよ。入っていく勇気もないよ。誰も腕を広げて待ってないよ。私の事なんて知らないよ。私の名字知らないよ。私の名前知らないよ。私もごめん。皆の名前知らないよ。名字を覚えていても顔と一致する自信ないよ。ごめんだよ。ごめんねだよ。でも、もう、いいね。
もう、いいね。
今日で最後でいいよね。
私、勉強嫌いだし、成績も別によくないし、頭も良くないし、体育も嫌いだし、運動神経も良くないし、部活にも入ってないし。
私がいなくなってもはっきり言って、この机と椅子に誰も座る人間がいなくなるだけで、席替えが起これば埋まるけど、隅の一番後ろの席に空席ができるだけで、開かれることのないロッカーが生まれるだけで、もう私の名前が書かれた上履きが履かれなくなるだけで。
もともといないようでいた人間が、ただいなくなるだけのお話で。
「…」
もういいよ。
●
彼女は机に突っ伏していた。
右手の手が肩に乗るまで曲げて、ひじの少し上を枕にして、力なく窓の外を見ていた。
窓際の後ろから二番目の席。
いつもは携帯を見て過ごしているのに…少し違和感を覚えた。
朝礼が終わり先生と話している時から、少し電池が切れたような顔になっていた。
力がない目、どこかを見ているようで今日の彼女はどこも見ていないんだろうなと思った。
「…」
彼女は、何も考えていないようでずっと何かを考えている。
立つ時も座る時もトイレに行くタイミングも、誰ともぶつからない様に配慮して、走っている人がいる時は行かないし、逆に席の近くで数名が喋りだし盛り上がりだすと、行きたくもないトイレに行くため立ち上がる。
一人で色んな空気を読んで、様々な事に配慮して…
空気を読み過ぎた結果
配慮に配慮を重ねた結果
彼女は一人になった。
私に話し掛けられたら嫌だろうな…急に話しかけられたら引くよね…挨拶して無視されたらどうしよう…急に天気の話してつまらない奴だと思われたら嫌だな…かといってニュースの話するのもおかしいよね…なんで…なんで他の人たちはあんなに喋れるんだろう…なんで数日で話せるんだろう…話し掛けて無視されたら嫌だな…無視はされなくても盛ら上がらなかったら嫌だな…私と話してもつまらないと思われたくないな…つまらない…確かに私はつまらない…でも、つまらない、と思われたくないなぁ………
わかるよ、あなたの考えてることが
それは憑いているから、とかではなくて、見守っているから…っていうのはほんの少しあるかもだけど、でも違って、違って違って…「ん?」うぅん「ぇっ、と…」何が言いたいのかというと、憑いているとその人の考えている事がわかりますよ…って事はありませんよ!ということが言いたかった。じゃあ(わかるよ、あなたの考えてることが)←これなによ?というと、同じような性格の彼女の考えはなんとなく手に取るようにわかるよって事。
「ぅぅ…」
なんか勝手に脱線したごめんね。
「ぅぅ…」
そしたらさっきまでの感じにいけなくなった…。
「ごめんね。」
どぅしょぅ
「…」
ぁぁ、変な説明入れなきゃよかった。
少し頭を冷やします
「お休み!」




