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嫌だから  疲れたから  ムカつくから

 嫌だから


 疲れたから


 ムカつくから


 そんな簡単な理由は草原の草のように無数に生えていて、そんな簡単で適当な理由では誰も納得しなかった。


「それでも頑張りなさい!」


 という言葉に心底絶望した。


「それでも頑張りなさい!」


 その言葉もまた、草原の草のように無数にある言葉の一つで、そんな言葉で素直にうなずけるほど、私も大人ではなかった。


(友達がいない)(というよりも話す人間がいない)(体育の授業とかで二人ペアになって!とか言われると泣きそうになる)(休憩時間を地獄のように感じる)(皆が話してる中で独りでいると、上を向くことができなくなる)(正面も見たくなくなる)(こんな精神状態で話している人たちの間に入り込むことを不可能に感じる)(もし頑張って一歩を踏み出したとしても)(追い詰められた人間が無理をして話し掛けて来たことを容易に想像される)(その時の私の顔は無理をして笑っていて、無理をして相手に合わせ、無理をして人よりも多くの相槌をうつのだろう)(それを私は醜いと感じる)(それを見ている相手も醜いと感じる)(そうして居づらくなった私はまた、自分の机に戻り椅子に座るのだろう)(そうして帰るまで、立ち上がらずに終わるのだろう)(そうしてまた、いつもの私に戻るのだろう)(毎日心がすり減って生きていることを辛いと感じる)(孤独はいつか慣れるだろうと思っていたが、慣れることがないのだとわかった)(中学まで孤独ではなかったから、なおのこと今を辛く感じる、の、かな?)(わからない)


 それらを言葉で説明すると


「嫌だから」「疲れたから」「ムカつくから」


 そんな足りな過ぎる言葉では納得しないとわかっていながら、育ててくれた親に、自分の苦悩を見せたくなくて。孤独で寂しい娘だと思われたくなくて、思わせたくなくて、心を開示したくなくて、心を開示してそれらを一蹴されるのが怖くて、一蹴されないと思っていながらそれでも一蹴されたらもう、逃げ場はなくて、しがみつく場所もなくて、なくて。なくて、なくて…


 自分の怒りを理不尽に投げつけてしまう。


 その怒りを素直に受け取り汲み取れるほど、母も大人ではなくて、というよりもまず、私の言葉が足りなくて。でもモヤモヤしてイライラして、傷付けたくない相手を傷付けた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 私は朝起きて、朝ご飯を作り終え、お弁当を作ってくれている母の後ろ姿に「今日学校行かない!」と棘のある口調で言った。すると母は眉間にしわを寄せながら「どうして?」と聞いてきた。「嫌だから!疲れたから!ムカつくから!」と無駄に大きな声で母が傷付くように言った。すると母は「は?」と私の大きな声を更に超える声で言った。少し戸惑った。でも、怒りがそれを上回った。「だから!嫌だから!疲れたから!ムカつくから!」今度は地団駄を踏みながら言った。父親が私の後ろで戸惑っているのがわかった。母は「だから何!そんなの理由にならない!それでもいいから行きなさい!」ととても強い口調で言った。「嫌だ!ムカつく!なんで!なんで行かなきゃいけないの?」気付くと涙が出ていた。「なんで行きたくないの?」母の声量は私のはるか上にあり、敵わないんだなとその時深く思った。「友達いないから!孤独だから!つまらないから!」勇気を出して言った。今まで言ったことがなかったけど不器用ながら言葉に出した。でも、この言葉は、このタイミングではないんだろうな…とも言いながら思った。乱雑に大切な言葉を発してしまった。怒りをぶつけるように、言い訳をするように発してしまったその言葉に醜く戸惑い、そして、深く落胆した。


「それでも頑張りなさい!」


 私は後ろで戸惑う父親を乱雑に避けて、怒りを表現するように無意味に大きな音を立てて階段を上がり、力強く自室のドアを閉めた。すると今まで聞いたことがないくらい大きな音でドアが閉まり、少し私も驚いた。


「千尋!」


 母の怒声が2階の自室まで響き、階段の下にいることがなんとなくわかった。私は入ってこられないように強くドアノブを握った。


「うるさいな!怒鳴らないでよ!」


 私も怒鳴っている。


「下りてきなさい!」


「絶対いや!」


 母が階段を私のように大きな音で上ってくる。私はドアノブを更に強く握る。母は私のドアの前で止まり


「もう知らない!あんたの事なんて知らないから!」


 そう言って自室のドアを私のように大きな音で閉めた。


              ●


 悪い事なのか良い事なのかわからない事が目の前で起こった。


 学校に行かないのは良い事のように思えたが、それと同時に何とも言えぬ嫌な予感も頭をよぎった。

 親を傷付けるべきではないとは思いながら、どうしてきちんと説明しないのかも手に取るようにわかった。


 彼女は不器用なのだ。


 彼女は自分の気持ちを言葉にまとめて上手に出す事が出来ないのだ。


 発さなければいけない言葉よりも、手の届く感情的で短く簡単な言葉で表現してしまう。


 悩みの分散をまとめられず、イコールの言葉のみで示してしまう。


 そして追い詰められて話す本音は敵意と取られて流れてしまう。


 そんな自分にうんざりするよね。


 そんな自分が嫌いだよね。


 その気持ち…痛いほどわかるよ


「私もそうだったから…」


 そう言って彼女を包み込んだ。


 ベッドにうつぶせで枕に顔をうずめ鼻をすする彼女は、何も気付いていないようにうんともすんともしなかった。


「…」


 怖がってほしくはなかったけど…なんだろぅ、なにか、なにかしらの反応をしてほしかった自分がいて、自分の存在の意味の無さを、油断していたところに叩き込まれ、


「傷付きながらも私は、」


 彼女を引きつった笑顔で優しく突き放した。

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