私は死んだ、ある日突然
私は死んだ、ある日突然。
職場に向かうため歩いていたら突然後ろから車にはねられた。
バーン!
イヤホンをしていたからかわからないけど、最初に私の耳に入ってきた音はその音だった。その音が耳に入ると同時に、腰から少し下の辺りにとても大きな鉄球が凄いスピードで突っ込んできたような衝撃が走り、私はその勢いのまま飛ばされた。飛んでいる最中、後頭部に踵が付いてしまうのではないかと思う程体が変な角度になっているのがわかり、それと同時に今まで私を支えてくれていた大事な骨が砕けて折れている事に気が付いた。私は急に飛んできた鉄球にぶつかり高く浮き、身の毛もよだつ角度で飛ばされ、地面に着くと同時に何メートルかわからないくらい転がった(その時はそういう解釈だった)。
視界がぐるんぐるんと回り、地面に転がり落ちたせいかずっとるんぐるんと回り、気持ち悪くなり吐くと黒いアスファルトが血に染まった。それと同時に口の中が鉄のような味がして、体の至るとこからとんでもない痛みがこみあげてきて、誰かが私を支えてくれて首を精一杯動かすと、車の正面の右側(名前なんて知らない)が大きく凹んだ灰色の車と目があった。
ぁぁ…はぃはぃ…轢かれたのね…私…
その時ようやく状況を理解した。そしたら視界の至る所が白くなっていって、あぁやばぃ…そう思って瞬きをするとさっきよりも白くなった。十秒もしないうちに、目を開けているのに視界の全てが真っ白になり、そのまま目を閉じるとそのまま気を失った。
そしてそのまま目を覚まさなかった。
○
灰色をベースとした手術室、ドラマで見たことがある心臓の動きを見る機械、そして5人のお医者さんやナースの方が懸命に職務を全うしている。
少し時間が経つ。
お医者さん達は手を動かす事を辞め、私を囲っている。私は少し後ろで気まずく私を眺めている。心臓の機械の線は上下に動くことなく(ピーー)と鳴りながら真横を進み続ける。
少しすると母親と父親が呼ばれて姿を見せる。
そしてその中で一番偉いであろう人が、死んだ時間を読み上げる。
母親はその場で泣き崩れ、父親は母親の背中をさすりながら正気のない顔で死んでいる私を見ている。
そんな両親の後ろで私も私を見ている。
…
なんだろぅ…なんか納得いかなぃ…
なんだろぅ…なんなんだろぅ…なんなんだろぅね…たぶんいま…へんなテンション?なんなんだろぅっておもうわたし…だから…なんだろぅ…なんなんだろぅ…ごめんよくわからなぃ…
ことばにするのはひじょうにむずかしいし…なんだろぅ…こんごわたしのことばはもうなくなってしまったのだとおもうと、ひじょうに…かなしいしむなしい…
私の人生は何だったのだろうと思うし、なんでこんなことになったんだろうとも思う。これが…この、轢かれて死んでしまっている私が、私である必要性の無さに怒りを覚える。生きていることに意味がなかったということを目の前にはっきりわかりやすく提示されているような気がして、怒りという感情が死んでいる私の中を駆け回った。
は?え?なんなの、ほんとに…じゃあ生きてる意味なかったじゃない。なんで生きてたの?轢かれるため?轢かれて死ぬために29年生きてきたの?今日この日の為に、何もない私は何にもなれず、何も夢を持たないで、何にも好かれず何も好きにならずに、私は平凡だ、不安だ、疲れた、死にたいだの御託を並べて、もうすぐ死ぬというのにつまらぬ動画を見てつまらないと嘆き、意味の無いスクロールをして(あなたにおすすめ)とうたっておきながら興味のない動画ばかりが出てきて、何もない何も持たない自分に、雑巾のように絞っても何も出ない自分に、いつものように不快感を抱きいつものように眉間にしわを寄せ、いつものように動画サイトを閉じ、トップ画面に戻り人との交流が全くないアプリたちが目に入り、数秒固まり、また、意味の無い動画サイトを開いてしまう…
そんな人生だった…
私の人生は…
私の人生には
意味がなく
ただ生きていただけで
ただ存在していただけで
何もない自分を見るのを避けるように
何もない自分に気付かないように
週に5日朝から夜まで働き
帰宅しご飯を食べ風呂に入り眠り
眠い目をこすって無理やり目覚め
ぼーっとする頭をどうすることもできずに
そんなに向いてないとどこかで分かっている仕事を
意味もなく続けていた
わたしは、いったい、どう・・・
「ぁ、やばい!」
「ちょっと、ちょっといい!ごめんね!」