表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【恋愛 現実世界】

恋にはならなかったけれど

作者: 小雨川蛙
掲載日:2025/02/14

 

 実家に帰るのは久しぶりだった。

 二年ぶりだろうか。

 故郷の景色は全く変わっていない。

 今、暮らしいている場所は二ヶ月と同じ景色が見られないのに。

 からからとキャリーケースを引いて歩いていると、不意に声をかけられた。

「ありゃ? お前帰ってたの?」

 そちらを見ると幼い頃からの付き合いである男友達が立っていた。

「うん、ちょうどさっきね」

 帰ることは実家以外に伝えていない。

 どうやら完全に偶然らしい。

「そうかい。おかえり」

「うん、ただいま」

 軽く挨拶をかわし、彼は言った。

「少し俺の家へ寄ってかない?」

 私の実家へ行くためには彼の家の前を通る必要がある。

 そして、都合の良いことに彼へのお土産もあった。

「順番は逆だけど、まっ、いっか」

 私が言うと彼は笑う。

「お前のそういうとこ、全く変わっていないな」

「懐かしい?」

「懐かしいし、嫌いじゃない」

 そう言って彼は歩き出し、私はその背を追った。


 歩きながら、私達は色々なことを話していた。

 お互いの近況から始まり、お互いの知らない人の話、そして互いに知らないお互いの人生の話。

 途中。

 私達が歩いている道が彼の家からも、私の家からも離れていることに気づいた。

「昔のことを覚えているか?」

 知らないことを語り合った私達。

 だからこそ、彼は昔の話を始めたのだろう。

「肝試しに二人で墓地に行ったこと?」

 彼は笑う。

 当時、私から肝試しをしようと言い出したのに、途中で結局怖くなり泣き出してしまった記憶が蘇る。

「よく覚えているな、そんなこと」

 そう言って彼は一呼吸置く。

 彼の癖だった。

 何か、意を決する時の。

「本当に好きな人とは結ばれないってやつ」

 もちろん、覚えていた。

 私と彼は学生時代に付き合っていた事がある。

 結局別れてしまったけれど。

「もしかして、後悔してるの?」

 私の問いかけと彼の歩みが止まったのはほとんど同時だった。

 学生時代の二人の関係は恋人と言うにはあまりにも幼すぎた。

 なんとなしに仲の良い相手がいて。

 その相手と一緒に居ても苦じゃなくて。

 そして、その年頃特有の興味や欲求に突き動かされた。

 ただ、それだけ関係。

 だからこそ、長続きしなかった。

「後悔はしていないさ。ただ……」

 彼は微笑み、私も微笑み返した。

「こんな事が出来るくらいだから、もしかしたらお前の事が本当に好きだったのかな、なんて思っただけさ」

「そうね」

 短く頷き、私は彼のお墓を見つめた。

 不思議と動揺はなかった。

「多分、大好きだったとは思う。だけど恋愛とは違った」

「そうだな」

 彼もまた短く頷いた。

 お墓を見つめながら私は問う。

「私のこと、どれくらい好きだった?」

 彼は言った。

「多分、お前の気持ちと同じくらい」

「なら」

 私達は呼吸を合わせるようにして同時に言っていた。

「やっぱり、恋愛対象じゃないわ」

 ひとしきり笑い、彼は普段と同じ調子で呟いた。

「ほんとにな。やっぱりお前だけはない」

 それを最後に。

 彼は消えてしまった。

 残された私は彼のお墓にぽつりと言った。

「またあとでね」


 その後。

 実家へ帰った私はお土産を持って彼の家へ行った。

 彼の母は私の来訪に喜び、そして寂しそう彼の死を告げた。

「そうなんですか?」

 可能な限り驚いた声を出して。

「なら、せめて、お線香を」

 あらかじめ予定していた言葉を、台本の通りに呟くような気持ちで言いかけて。

 涙がぽろりと落ちた。


 けれど、それだけ。

 本当に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 何処から気付いていたのか、知るも以前と変わらぬ会話は本当に仲がいいからこそにも思え、気遣いを見せる相手が彼の親という辺りにも、真意を見せるのは彼に対してだけだと判らせ、親密な関係が故の沁みるお話でし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ