治療しましょう
少しげっそりしたアリスはエルラードに案内されてミノスの自室に着きました。
あんなにいい雰囲気でプロポーズしたのに自分のなにがいけなかったのかわからないエルラードも不思議顔。しかもアリスに益々一線置かれてしまっています。やっぱり本を読んだだけでは駄目ですね。女心は経験も必要です。
「おお、アリス様!こんなむさくるしい所まで来てくださったのですか?」
常に綺麗にしているミノスの自室はむさくるしくはないのですが。ミノス爺さん、うれしすぎて涙浮かべてます。こういうのにアリスは弱いんです。ナイス爺さん!
「大丈夫じゃないですよね?動かないでいいですよ?そのまま、そのまま。私、3級ですが療法士の資格がありますから。」
この世界では病気は療法士が治します。外科手術並みのことをするのは特1級レベル。ちなみに3級とは打ち身捻挫くらいのレベル。治癒を助ける程度のレベルであります。1級以上を取ろうとすると知識のほかにもっている魔力の大きさが関係してくるので誰もが取得できるものではありません。アリスは魔力をそんなにもっていないのです。
「すいません。こんな情けない格好で…」
優しくアリスの手がミノスの腰をさすりました。ほうっと暖かくなってミノスも気持ちよさそうです。
「アリス、あなたは魔力の伝動を受けたことがありますか?」
後ろに立っていたエルラードが声をかけました。
(…それより、いつから呼び捨て?)
「ないけど。」
「爺が早く治らないと困るんです。僕の魔力を一時的に流しますから協力してくれませんか。」
そういわれてアリスが断れる訳も無く…
「えっと…こうしないと出来ないのかな?」
控えめに。非常に嫌そうにアリスがエルラードに尋ねました。そりゃあこの体制じゃあね。エルラードに腰というより胸の下に手を回されて頭の上に吐息を感じています。ハアはあ言っていれば間違いなく痴漢の部類です。
(いやぁあああああああ。)
心の叫びはあるものの、治療の一環だと思えばここは我慢我慢のアリス。
本当は肩に手を置くだけでも出来るのですがここは利用しないわけが無いエルラード。
時々彼女の頭に顔をうずめて髪のにおいを楽しんでいるようです。
エルラードとアリスがこんな格好になっているなんて知らないミノス爺はただただうつ伏せで感激中。はやく気付いてやってください。犯罪近いです。
「あの、そろそろ始めないの?」
「…せっかちですね。」
「 ……。」
「 ……。」
これ以上は引き伸ばせませんよ?エルラード君。いくらなんでも気付かれます。
「…始めます」
途端アリスは後ろからものすごい熱を感じました。自分の身体を駆け抜ける不思議な感覚。授業で習ったことはありますが他人に魔力を分けれるほど大きな魔力をもつ人間に遇うのはそうそうないことなのでもちろん初めての体験です。
(すごい、すごい!すごい!!!!)
圧倒する感覚にアリスは心の中で叫びました。
余りの事にぼうっとするアリス。ちょっと感動しているのかもしれない彼女は動こうとしても力がはいらない状態です。
「随分、楽になりました。アリス様。有難うございます!」
ミノスが起き上がれることをアピールしようとベットからゆっくり起き上がり振り返ったのですが…
「坊ちゃま?」
一瞬、主人がどこにいるのか解らなかったミノスがその姿を確認したときの驚きったらありません。
人をめったに近づけないエルラードが大事そうにアリスを後ろから抱きしめているのです。
ぎっくり腰になったときにエルラードが言い出した「アリスに城に来てもらおう作戦」にも驚いたのですが、それよりもなによりも目の前の光景にびっくりです。
(大事そうに??)
(抱きしめてる???)
今だ驚きで目を見開くミノスはしばらく声も出せませんでした。
(はっ!わわわわわわわわわわわたし!!!!!!!!!)
ミノスが呆けた顔でアリスを見つめていたので(正確にはエルラードに抱きしめられる、だが)アリスの羞恥心に火がついてしまいました。耳までまっかっか。
「あの、その、これは、その…」
しどろもどろに説明しようとすると
「治療の一環だ」
と名残惜しげにエルラードがゆっくり腕をアリスから外しました。
ミノスはエルラードをみつめます。
(この方にはアリス様が必要なんだ。)
(アリス様なら)
(エルラード様を)
(救ってくれる!)
この瞬間にミノス爺はアリスをわが主の嫁にすることを胸に誓ったのです。
後にエルラードが療法士特1級を持つことを知ったアリスが2人に怒りをぶつけたのは
彼らがもっと幸せになったころのお話。