お城に訪問です。
後味の悪いデートの次の日は朝から良いお天気でした。
しかし、毎日訪れる人懐っこい爺さんが今日は時間が過ぎてもまだ来ません。
人懐っこい爺さんとはもちろんミノスのことで…。
(何かあったのかな?)
二度とデートはしないと心の中で誓ったアリスはエルラードがプロポーズしたことなどすっかり忘れてのんきにミノスの心配をしていました。
(それにしても、遅い。)
もともと城に配達するといっていたものを「私も安らぎが欲しいんです」とミノスに押し切られて取りに来てもらっていたお弁当なのです。
(どうしようか)
アリスは思案しています。
ちなみにミノスのいった言葉は当初アリスを観察するための口実でしたが、今ではミノスの立派な安らぎであるに違いありません。
りーん りーん
その時、電話が鳴りました。
…ミノスはぎっくり腰になっていました。
厨房を伯父さんにまかせたアリスはお弁当とケーキをもってスクーターに跨りました。スクーターだと城まで15分ほど。ちなみにこの世界ではガソリンではなく霊力で動くから凄くエコ。風の精霊が動力です。
(よっこらしょ。)
城に着いてスクーターの動力を切って、スタンドを上げるとアリスはちょっと途方にくれていました。建物が立派過ぎてどこに持っていけばわからなかったのです。
(着いたらわかるっていってたげど…)
ちょっと心配になっていたら目の前のライトに灯りがつきました。こっちにおいでおいでと言うように次々とついていきます。
(こっち?)
アリスは顔を綻ばせながら灯りをたどっていきます。なんだか迎え入れられているようでうれしくなってきました。そうして長い廊下に次々とつく灯りに照らされてアリスは立派な扉の前に到着しました。
扉を開けるとエルラードがテーブルを前に座っています。
(あっ…)
エルラードに持ってきたのだから当たり前なのですが、ここに着くまでなんだかワクワクしたのでアリスはちょっとがっかりしてしまったようです。
「お弁当お持ちしました。」
ミノスがいないので持ってきたお弁当を広げてポットから紅茶を注ぎました。当たり前のように座っているエルラードが一連の作業が終わるのをじっと見てから
「ありがとう」
と言いました。その言葉にアリスは驚いてしまいました。気遣いができるとは思っていなかったのでしょう。もちろんエルラードの顔は無表情に近いですが良く見ると少し口の端が上がっているような…。
「では、私はこれで。」
(ま、とにかく何か言い出す前に帰ろう…)
しかしここは相手の方が上手のようです。
「爺がギックリ腰で寝込んでしまったのですが療法士を知りませんか?」
そうエルラードに聞かれたアリスは頭をめぐらし、
「応急処置くらいなら私もできますが…」
と言ってしまいました。
ニヤリ。と多分したのでしょうがそこは表情のあまりないエルラード。悟られることはありません。
「かまいません。食事が終わるまで待ってもらえますか?時間はありますか?」
エルラードがちょっと甘えるようにアリスを見ました。彼にしては上出来ともいえる仕草。
「今日はもう何も無いから。」
ぶっちゃけアリスは甘えられるのに弱いのです。
アリスはエルラードにイスにを引かれて座るように促されます。
「お腹はすいてない?」
「私は早めに済ませたから大丈夫。」
(あの伯爵が私に気を使ってるの?)
「 ……。 」
「あなたの料理は本当においしい。あなたの人柄を表しているようです。」
にっこり。あら、初めてじゃないですか?エルラードがこんな表情見せるのは!
ズキュ~ン!
今、誰か撃たれました?撃たれましたね?素敵なお城と目の前に微笑んだ美しい王子様。これで心が揺れない乙女はいないでしょう。
(ドキドキ…やだきっと耳まで真っ赤だよ!)
俯いたアリスはとってもかわいい。それを確認したエルラードは
(よし、ここだな!)と心の中でガッツポーズ。
「結婚してくれますね!」
「 ……。」
…アリスはまたまた頭の中が真っ白。でも2回目なのでちょっと余裕があります。
「お前、アホだろう…」
呆れてすっかりドキドキが冷めてしまったアリスが床に向かって呟きました。
エルラードの食事が終わるまでの時間はアリスにとって拷問に近かった事は言うまでも無く…。
机の端に乗っていた「攻略!女心」とか「合コン勝つ秘訣!」とか「好かれる仕草とマナ-」などの本が見えるとアリスはまた深いため息をつくのでした。