晴れた空から降る雨
「エルラード君が泣いています。あんなに怯えて…。」
テレビの画面に映るエルラードの姿にアリスはそんな事を言いました。他の人の目にはきっと狂人のように映ったことでしょう。そんなアリスを見てシンシア様は確信を持ちました。エルラードを助ける事が出来るのは、止める事が出来るのはアリスしかいないと。
「行きましょう、アリスさん。あの子を助けて…。私の魔力を吸ってください。」
通常移動のための魔方陣は魔力の強いものしか使用できません。アリスはシンシア様の魔力を分けてもらいます。でも加減のわからないアリスは随分シンシア様の魔力を吸収してしまったようでシンシア様は魔方陣を使えなくなってしまいました。
「私のことは気にせずに行ってください。強大な力を感じる方に必ずエルラードがいます。大丈夫、貴方になら分るはずです。一緒に行ってあげれなくてごめんなさい。」
シンシア様にそういわれてアリスは深く頷き、魔方陣の中心に立ちました。何がどうだかはアリスにだって分りません。だけど、今出来る事がエルラードを助ける事なら間違いなくそっちを選びます。
(エルラード君…)
初めて移動の魔法陣をくぐったアリスは軽い吐き気に襲われました。でも、そんなものにかまってられません。大きな力を感じる方を辿りながらアリスは祈るような気持で進みます。
(人を傷つけたりしたら、もう立ち直れないかもしれない…優しいひとなの…。)
教会に向かってアリスは無我夢中で走りました。途中逃げ惑う人々にぶつかりながら、床に手をつきながら、何とかエルラードのいるところまでたどり着きました。
(あそこに居る!)
エルラードの周りは魔力の柱が出来ていて近づけそうにもありませんでした。
……そうです、普通のひとなら。
「エルラード!」
アリスはそう叫ぶと躊躇いも無くエルラードの背中にに抱きつきました。
「大丈夫、大丈夫だから。」
エルラードの魔力に中てられてアリスの体は焼けるような痛みに悲鳴を上げていました。それでも必死に堪えながらアリスはエルラードを抱きしめ続けます。
「私が…私が居るから。」
次第にアリスは自分の体に大きな波が向かってきたような感覚に襲われました。体が宙に浮いてしまいそうです。
(エルラード君のおとうさん、おかあさん。エルラード君を守ってください!)
アリスが心の中でそう叫んだ時、
何かが、
アリスのなかで弾けました。
目の前が真っ白になったアリスは無音の強い光のなか
誰かに肩に手を添えられて、倒れそうになっていたエルラードを支える事が出来ました。
その二つの手が誰のものだったのか、振り向く事が出来なくてもアリスには理解できました。
アリスの目に涙が浮びます。
そして
空から
雨が……
きらきらと雲ひとつ無い青空から
光の雨が降ってきました。
その場に居た人々
テレビを見ていた人々
エルラードの目の前で怯えていたレザノンにも
慈愛の雨が…
キラキラと降り注ぎました。
*****
「アリス……。」
意識を失っていたエルラードが病院のベットの上で目を覚ました時に見たものは心配そうに自分の顔を覗き込んでいたこの世界でもっとも愛しい人でした。でも……
「髪が……。」
エルラードの指が変わり果てたその髪を梳きます。
「エルラード君の魔力を吸収しすぎちゃったみたい。」
エルラードの魔力を吸い過ぎてアリスの髪は白金色に輝いています。エルラードの瞳も鳶色です。
「お陰で治癒力がたっぷり使えたけど。」
にっこりとアリスが笑います。エルラードの心にポッと火が灯りました。
「……怖かったんです。」
「いいの。いいんだよ。コザン帝(皇帝)も許して下さったし、怪我人も出なかった。結婚式は台無しになっちゃったけどね。」
「僕が間違っていたんです。アリスさえ居れば何も必要なかった。」
「あなたはご両親の守ってきたものを守らなきゃいけないわ。」
「…でも、そうしたら……。」
「私も間違ってた。エルラード君に伝えたい事がある。」
「え……。」
「あなたを愛してるわ。同情じゃない。他の人と結婚して欲しくない。私と結婚してくれる?」
「……。」
「あ…。でも、その…あなたとは釣り合わないかも知れないからあなたには拒否権があるよ?告白すると、あなたよりも前に一人付き合っていた人も居るし。」
「……。」
「駄目……かな。」
「その、嬉し過ぎて頭がまわりません。愛してるって?僕の事ですか?結婚してほしいって?僕とですか?」
「……その、つもりなんだけど。」
「も、も、もちろんです!え、と、僕、答えになってますか?つまり、僕もアリスを愛していて結婚して一生離したくないです。箱に入れて誰にも見せないようにして閉じ込めて毎日毎日愛したいです!」
「あの、そういう偏った愛情はちょっと……。」
「駄目です!もう撤回させません。ずっとずっと一緒です。ああ、こんなうれしい事が有るなんて!夢みたいだ!」
エルラードはぎゅうぎゅうとアリスを抱きしめて放しません。少し抵抗して諦めたアリスは抱きしめられるままに任せます。
(ま、いっか。私も幸せだし。)
「ずっと言いたかったんです!キスしていいですか?いえ、キスさせてください!」
「え、ちょ、まって…」
興奮したエルラードの腕に閉じ込められて情熱的なキス…
「アリス様?エルラード様はお目覚めに?」
バタンと病室のドアを開けたミノスにバッチリ見られてしまったアリスです。
(だから、待ってって……!!!)
慌てるアリスを他所に口付けを続行するエルラード…おいおい。
ミノスはすぐ背を向けて…嬉しさでこみ上げてくる涙をぬぐっていました。