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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
27/34

悲しい夜の代償

アリスが伏せってから城にあるアリスの部屋にはたくさんの手紙が届けられました。

手紙の多くは焼けてしまったお店に辛うじて残っていたポストに投函されていて毎日溢れるばかりに入っています。伯母さんとミノスが交代でアリスに届けていました。


内容はどれも


”お店の再開を待ってます”


”辛いときいつも癒されていました。頑張ってください。”


”元気になるケーキが食べたいです”


こういった内容す。「不幸」の手紙はエルラードがメリーとの婚約を発表してからパタリとこなくなりました。皆アリスのお店の再開を期待している文面です。中にはお店の再建の為に出資したいという人もいました。


(うれしい。)


アリスの気持ちも少し浮上したようです。嫌な事があって伏せっていると気持ちも滅入ってしまいますからね。



そうこうしているうちにエルラードの20歳の誕生日が近づいてきました。

そう、正式に妻を娶ってレモネサルタンを襲名する日です。



*****



「ミノスさん、私も何か手伝いますよ?」


廊下をミノスがいそいそと招待状やリストを抱えて往復します。


「!あ、アリス様は休まれていてください!大丈夫ですから!」


見たところ、全然大丈夫そうではないのですが、エルラードの正妻の用意をアリスにさせる訳にはいかないと後ろめたいミノスは式の資料を抱えて一人で奔走します。


(これが、アリス様のご用意だったらどんなに良かったか…。)


せめて結婚式の様子はアリスには知られたくありません。ミノスの心の中でエルラードの伴侶はアリスでしかないのです。


「そう。昼食の用意まで暇なのでお手伝いする事があったら言って下さい。」


居候の身ですからアリスも声を掛けたのでしょう。最近はエルラードもヨソヨソしいので仲間はずれな気分のアリスです。エルラードも後ろめたいのでしょうね。


積み上げられたカタログからちらりと覗くものがあります。そう、純白の女の子の憧れのアレです。


(ウエディングドレス。……きっととっても似合うんだろうな。あの子、とってもかわいかったもの。エルラード君の白のタキシード…ぷぷ、似合いすぎ。)


多分、式の様子はニュースで流れることでしょう。ローカル放送では中継も入ります。次の日には新聞にも載って。


(……見たくないな。きっと落ち込んじゃうよ、色んな意味で。)


ふう、とため息をついてアリスは部屋に戻っていきました。




****



「襲名と同時に結婚ですって!!!!」


ヒステリックに叫び、招待状を握り潰さんとするはジョゼッタ嬢です。


(どうしよう…!!私のエルラード様が取られちゃう!!!)


親指のつめを噛みながらジョゼッタ嬢が考えをめぐらせます。しかし、彼女はあんまり頭を使うことは苦手なのです。


(あの女さえ居なければ大丈夫だと思ってたのに…)


当然、アリスのあること無い事噂を流して不幸の手紙等を送りつけたのはジョゼッタ嬢で。放火の犯人であるかどうかは分かりませんが一連の騒動を引き起こした事には違いありません。アリスが居なくたってエルラードと結ばれるとは思えないのですが、ジョゼッタ嬢は聞く耳もちそうでもありませんしね。先日まで渋々ながら協力的(というよりは見て見ぬふり)だった両親も招待状が来てからは「いい加減に諦めなさい」と嗜めるばかり。


(あいつには頼りたくなかったけど…)


ジョゼッタ嬢のいうあいつとはレザノン=オルレア。彼女の幼馴染といえるレザノンは馬面…いえ、面長で貧相…いえ、スレンダーなオルレア男爵家の大事な大事な一人息子です。彼はジョゼッタ嬢の熱烈な崇拝者で昔からなんでも彼女の願いを聞いてきました。エルラードと同じ歳でもある彼はそれとなく、いえ、最近はエルラードは諦めるように何度も彼女に忠告しました。彼もまた20歳になったらジョゼッタと夫婦となってオルレア家を継ぎたいと願っていたからです。普段は大人しく大変真面目なレザノンですが、恋は盲目。ジョゼッタのこととなると無理な事もなんとかしてやりたいと今まで数え切れないほど頑張ってきました。なのに…




「なんとかエルラード様を取り返せないかしら!」


「……。」


突然、来客中であったにも関わらず、問答無用に訪ねて来た彼女をレザノンが見ました。

ピンクに頬を上気させてプンプン怒っているジョゼッタ嬢もレザノンにはかわいく映ります。でも、やっとエルラードを諦めて自分の所に来てくれたのかと期待して来客に断りを入れ、この幼馴染に会ったのですからこんな面白くない事はありません。彼女はまだ諦めていないばかりか、恋敵の自分にまで協力を求めてきたのです。



「あの男は辞めた方が良いって何度も言ったでしょう?」


「何でもするから、協力してよ!お願い!」


「……。」


「何でも」という言葉にレザノンは考えました。そして、


「それなら、今夜僕の寝室に来るなら協力するよ。意味、解るよね?」


こんな事、承知するわけが無い。そう思って言ったレザノンでしたが、事もあろうかジョゼッタ嬢は承諾しました。そして、その夜、欲しくて堪らなかったジョゼッタ嬢を手入れたレザノンは愛しい人が「エルラード様」と呼び続けるのを胸が焼け切る思いをしながら過ごしました。彼にとってこんなに辛い夜はなかったでしょう。ジョゼッタ嬢はこれでレザノンが協力してくれると疑いもありませんでした。しかし、レザノンは本当は自分の愛でジョゼッタ嬢が変わってくれる事を期待していたのです。淡い期待は見事に裏切られて……そのやるせない想いはエルラードに対する憎悪となって膨らんで行きました。



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