目の前二人
アリスの火傷はエルラードのお陰で軽く済んだのですが精神的にまいってしまったのか微熱が続いていました。エルラードもミノスもアリスを過保護に扱ってベットから出してくれそうもありません。
そうしているうちにアリスの部屋に来客がありました。
そう、エルラードの偽装結婚の相手のメリー=サンシャークさんです。彼女は曾お祖父さんが英雄といわれる由緒正しい軍人の家系の娘さんなのですが、彼女のお父さんが商才が無いばかりかギャンブルにのめり込んでしまい、家は破産状態。身売り寸前のところでシンシア様に相談してエルラードの話に乗ったということです。
「はじめまして、メリー=サンシャークです。アリスさんのことは伺っています。恥ずかしい話ですが、私の父が破産してしまい、エルラード様に助けてもらうことになったのです。私、お二人を応援します。」
アリスは目の前にいるかわいらしいお嬢さんがぺこりと頭を下げました。
(なんだか、とってもいい子。エルラードくんとお似合いだ…。)
「アリスさん。エルラード様のことは安心してください。その、私とは手もつなげないので…。実際にそうやってエルラード様が寄り添っているのを見ると、妬けますね。」
ういういしい唇から言葉がこぼれ落ちるのをぼんやりアリスが見つめていました。
「サンシャークさん。半年間よろしくお願いします。あなたの戸籍を傷つけることになりますが、許してください。」
「エルラード様。私のことはメリーと呼ばないとおかしいですわ。分かっていますよ。こちらこそお願いします。アリスさんとお幸せになれるよう協力します。」
(あんな風に話すことは出来るんだ。)
エルラードはアリスの為にメリー嬢の機嫌を損なわないよう無理して接しているのですが…。
(なんだか早くお役ごめんになりそうだな。なんてお似合いのカップルだろう。)
…どうやらアリスは嫉妬しているようです。
(なんにも考えたくなくなっちゃった。)
目の前には自分より5つも下のエルラードが彼より1つ下の美少女と並んでいます。
(私は本当にエルラード君に必要なんだろうか。)
もちろんですよ!アリスさん!でなきゃこんな面倒な事エルラードがするわけが無いでしょう!
…でも、気落ちしているアリスはマイナス思考。仕方が無いのですがそれではエルラードがかわいそうです。
「メリーさん。ごめんなさい。今日は体調が優れないので、もう、いいですか?」
(私は上手く笑えてるのかな)
アリスはそう言ってメリーに退出を促しました。本当は二人を見ていたくなかったのです。
「アリス!大丈夫ですか?」
エルラードがアリスの手を握ります。その場に居た者ならどんなにエルラードがアリスのことしか見えていないか一目瞭然でした。でも、今のアリスには素直に受け取ることは出来ません。心配そうにメリーがアリスを見つめます。その視線にアリスは逃げたくなりました。
「アリスさん。お大事に。今度いろいろおしゃべりしたいです。」
そういってメリーは退出して行きました。
「アリス、とっても良い人でしょう?」
「……そうね。とってもあなたに似合ってる。」
「え?」
言ってしまってアリスは恥ずかしくなりました。
(私、完全にあの子に嫉妬してる。あの子になりたいとさえ、思ってしまった。)
「な、なんでもないよ。」
「本当は僕の伯母のシンシアにも会ってもらいたいのですが…。今は無理ですね。」
「ごめんなさい。」
「アリス…。」
「なに?」
「……。」
「どうしたの?」
「いえ。その。…なんでもありません。」
本当は「キスしていいですか?」と聞きたかったようですが、言えないようです。もう!エルラードの意気地なし!
「…少し眠ってもいいかな?」
「はい。また後できます。おやすみなさい。アリス。」
少し躊躇ってからエルラードはアリスの手の甲に口付けしました。