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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
25/34

アリスの過去

大変お待たせしております。すいません。

金色の絹のような美しい髪を撫ぜながらアリスは思い出していました。


(ジュノ先生も貴族だった。)


サングストン留学中に約1年ほどアリスには恋人がいました。初めてすべてを捧げ、その時は結婚すると疑いも無く付き合っていました。この事は伯母夫婦も知りません。相手は学校の講師でした。ずば抜けたセンス、技術、芸術性に魅了されていた憧れの人に告白された時アリスは天にも昇る心地でした。恋人になってから二人の間柄は当然秘密でした。休みの日に隣町でデートするのが楽しくて、ばれないように学校で会うのもドキドキしたりしました。しかし留学期間が終わり、アリスがトノスに帰る日が来た時、恋も突然終わりました。子爵の長男の彼には生まれたときからの許婚がいて来月結婚することになったと告げられたのです。


「本当に好きなのは君なんだ。愛してる。でも、僕は家の為に犠牲にならなくちゃいけないんだ。」


初めからわかっていたくせに、ズルイ男です。彼の子供のような純粋さも愛しく感じていたアリスはその純粋さにひどく傷つけられたのです。彼は心から誰かを愛せて幸せだったとアリスに告げました。…だからといって騙していた事にかわりもないのですがね。ただ、アリスはこの失意の中、貴族と結婚することがどんなに困難なことか学習したのです。好きというだけでは何にもならない事実がそこにありました。


(私はたとえ愛人と呼ばれても平気。突然大切な人を亡くした悲しみは私にもよくわかる。まだ小さかったエルラード君は私に母親を重ねているんだろう。今は私しか触れられなくってもきっと少しづつ慣れていくはず。エルラード君が誰かを愛するまで彼を支えてあげよう。私が…必要でなくなるその日まで。)


するすると少しウェーブのかかった金色の髪はアリスの手からこぼれていきました。


(綺麗な髪…でも私のものにはならない。)


(お店も無くなって…これからどうするか決めるまでここでお世話になろう。ここにいる間はエルラードくんの専属コックにしてもらおうか。)


(……)


(何にもなくなっちゃった…。お店、焼けてしまって。)


(お父さん、お母さん…ごめんなさい。)


(私を見守ってくれていた月桂樹も燃えてしまった。)


そこまで考えて疲れたアリスも目を閉じました。



*****




その優しい手のひらの感触に癒されながら起き上がったエルラードはアリスに話をしました。


…結婚に関する話です。


エルラードは他の人と結婚して爵位を継いだあと半年後に離婚しアリスとこの城で暮らしたいといいました。


「愛人って響きはあまり使って欲しくないんだけど…。」


「すいません。でも、一緒に暮らしたいから、そういう立場になってしまうんです。」


「…奥さんも出来るしね。」


(チクン…)


もちろんアリスには分かっていたことです。エルラードがアリスを大切に思ってくれていることも今は痛いほどわかっているつもりだし何より結婚を断ったのはアリス自身です。でも…。仮にでもエルラードが他の人の夫となるのは心が痛むようで…。


(…エルラード君が私に飽きてもすぐに離れられるし、結婚暦が残るわけでもないじゃない。…なのに、どうしてこんなに嫌なんだろう。)


エルラードが「愛人」にこだわるのは今以上の関係を示唆しているのでしょうが…アリスはあまり理解していないようです。アリスの両親が生きていたらきっとアリスを止めてエルラードを殴っていたに違いません。愛する娘を妾の立場に置くのですから。


「アリス。襲名式が終わったらすぐに迎えに来ます。」


エルラードはそう言いました。アリスは心に黒いものを抱えながら微笑んで頷きました。


(襲名式でエルラード君は他のひとと結婚するんだね…。あの人と同じように。)


「これだけは信じてください。僕にはアリスだけです。あなたを…愛してます。」


アリスの手を取ってエルラードは言い募ります。


(…苦しそうな顔で告白しないで。囚われてしまうよ。この子は私に少し依存しているだけ。対人恐怖症が治れば私から離れる。それまで…。)


アリスは自分に言い聞かせます。芽生えた気持ちを押さえつけるように。



*****



名残惜しくエルラードは部屋を出ました。すると扉の前にはアリスの伯母さんがお見舞いの花を抱えて立っていました。


「立ち聞きするつもりは無かったんですけど、聞こえました。少し、お時間を頂いていいですか?」


「ええ。」


二人は別室へ移動しました。伯母さんはしかめ面で下を向いています。



「結婚したら、一昨日みたいなことが沢山起こるんですね。だからアリスは「愛人」に?」



「これからは僕がアリスを守ります。「愛人」でアリスを置くのは不本意ですが、魔力が無いに等しいとアリスは貴族の者に目の敵にされるでしょう。」



「伯爵様。アリスを諦めてもらえませんか?あの子は…優しい子なんです。昔から足を痛めた子猫を拾ってきたり、クラスでいじめられていた子をかばっていじめられたり。…あの子の優しさを利用するようなことはしないでください。あの子はあなたに同情しているんです。16の時、事故で両親を突然亡くしたあの子はあなたの悲しみと自分の悲しみを重ねてしまっているんです。」


「すいません…。でも、どんなに言われようと、僕には彼女が必要なんです。今彼女を失ったら僕の人生は空っぽです。だから誓います。この命に代えてもアリスを守ります。そして、アリスだけを愛します。結婚は偽装です。相手の方もすべて了承しています。半年経てば爵位が継げるので別れます。そうしたらこの城でアリスと静かに暮らすつもりです。」


エルラードの眼差しは真剣でした。その言葉を聴くと伯母さんは泣きそうな顔をして


「アリスを頼みます。」


そう言って深く頭を下げました。



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