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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
23/34

震える指先

「坊ちゃま、急いでください!」


自室に居たエルラードは明け方にミノスに起こされました。普通ならエルラードがこよなく愛する睡眠時間を奪ったりしないミノスですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。


「アリス様のお店が燃えてしまわないうちに!」


風を煽り、町に下りたエルラードは一目散にアリスの店へと走ります。ええ、多分彼の人生初の全力疾走です。そして、目的地に着いたときには…アリスのお店が燃え上がっていました。


エルラードは素早くアリスの店を結界で包み込むと水を送り込んでいきます。専門の術師も到着していたのですが、周辺の家を気にしながらの消火作業は進んでいませんでした。彼らは結界の中で水を張るほどの力は持っていません。


エルラードが見回すと煤だらけになったアリスが伯母さんに押さえつけられるように抱え込まれて震えていました。


「アリス!」


無我夢中で来たエルラードは伯母さんからアリスを受け取ると強く抱きしめました。


「わ、私の、お、お店が、お父さん、お母さん…。」


アリスは髪が少し焼け焦げています。必死に持ち出したと思われる家族写真を放心状態のアリスは抱きしめて離しませんでした。


「ひ、火が…。」


「もう、大丈夫です。火は消しました。アリス、怪我は?」


両肩を優しく掴んでエルラードがアリスと視線を合わせようとしましたが興奮したアリスの視線はお店の方から外れません。


「嫌だ。燃えちゃう!」


「アリス、痛いところはありませんか!?」


「お、お店が!お父さんのお店が!」


エルラードの質問に答えることもなくアリスがそう切なげに訴えます。そのうちアリスはしゃくりあげながら泣き出してしまいました。エルラードが良く見るとパジャマ姿のアリスはその手にも足にも軽いやけどを負っています。


泣きじゃくるアリスを抱えながらエルラードは火傷を少しづつ治していきます。治癒を助ける魔法はとても精神力がいるのですがエルラードもそんなことはお構い無しです。


(…アリス。泣かないで。)


そうは思っても何と言っていいのか、かける言葉もなくエルラードはアリスをいっそう強く抱きしめました。エルラードの目にも涙が浮びます。


(アリスの悲しみが伝わってくる。)


アリスの指先の火傷を治しながらその手をエルラードが自らの手で包みました。


(華奢な手…。)


エルラードは一向に落ち着かないアリスを眠らせると抱きかかえました。



「坊ちゃま…。」


向こうで伯母さんから事情を聞いたミノスがエルラードに店に届いていた不吉な手紙を見せました。

エルラードはそれを黙読すると自分でも訳が分からないほどのやるせなさと怒りの感情がこみ上げてきます。


(僕のせいで…誰がアリスをこんな目に!)


クシャリと手紙を潰してエルラードが震えました。

アリスは青い顔でエルラードの腕の中で眠っています。



「アリス。僕が貴方を守ります。」



エルラードはいつになく強い眼差しでアリスを見つめました。エルラードはアリスを抱いたまま立ち上がると


「アリスを城に連れて行きます。」


そう言ってその場を去っていきました。





*****




魔法を司るこの国で自然発火は雷などのはっきりした原因でもなければありえないことです。特に町の火を使う場所では魔方陣が敷いてありますから…放火。誰かの意図的な仕業でしょう。そして、それは魔法が使える貴族の可能性が高いのです。わざと燃えるように様々な魔法を解除しているのですから。



(アリスが無事でよかった…)



エルラードは城のベットで眠るアリスの顔を見ながら思いました。

強力な魔力を使ったエルラードも疲れていて不思議はありません。ミノスが心配していますがエルラードはアリスから離れようとしませんでした。誰も気付いていないかもしれませんがエルラードもずっと手が震えています。



(アリスがもし居なくなったら僕は…。)



エルラードはアリスの店に火がかけられたと聞いてから怖くて怖くて仕方なかったのです。



(大切な人が居なくなるのはもう…嫌だ…。)



(アリスがこんな危ない目に遭うなら爵位なんて要らない。僕はアリスだけでいいんだ。お飾りの妻なんていらない…。)



震える指先でエルラードがアリスの頬に触れました。少し落ち着いたエルラードの眼差しには諦めが消え、志に向かっていく一筋の光が現れました。


「ミノス!」


アリスの居る部屋を出てエルラードはミノスを呼びました。


「坊ちゃま?」


「コートフープに行く。アリスを頼む。」


「!!そ、それは…。」


夜明けからずっとアリスについていたエルラードは身なりを整えることもせずにコートフープに出かけていきました。


そう。


彼の思いを伝える為に。



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