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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
22/34

コートフープの伯母

「貴方がわたくしのところに来てくれるなんて、うれしいわ。」


さて、エルラ-ドがミノスにお尻を叩かれて急いできたのは中央政治が行われる都市コートフープです。この近代的都市は皇帝の居住地でもあります。さて、このエルラードの目の前にいるご婦人はエルラードのお父さんのお姉さんでシンシア様と言います。


シンシア様の私室に通されたエルラードとミノスはふかふかの絨毯を踏みしめています。田舎のトレス|(今エルラードとアリスが住んでいる町)と違ってシンシア様の居住しているこの場所はお城ではありません。周りは緑に囲まれていますが近代的な建物で新鋭建築デザイナーによる外から見ると鏡のように反射するデザインになっています。シンシア様の隣には執事がいます。使い魔の人型でサントスという爺さんです。まあ、要するにミノスと同じような者です。由緒正しい貴族の家には歴代人型の使い魔がいて魔力の強い者に仕えます。非公式で対外的には人として仕えていますが。


「……。」


緊張しているのかミノスの後ろに隠れながらエルラードがシンシア様を伺っています。と、言ってもアリス以外の人と接するエルラードはいつもこんなもので大抵隅っこの方でコソコソしています。


「…まあ、いいわ。ここまで来るようになっただけでも進歩でしょう。ねえ、ミノス?こないだもって帰ったお見合い写真の中に良い方は見つかったかしら?」


こないだ2週間もミノスに足止めを食らわせたのはシンシア様のようですね。サントスがテーブルに紅茶を出してもてなしてくれましたがエルラードはそれに手を付ける余裕もありません。


「いいえ。シンシア様。実は今日はご相談があるのです。」


「相談?ふふ。何かしら?」


ミノスはエルラードの方を見ましたがエルラードが口を開く様子はありません。オドオドと心配そうにミノスを見ています。ミノスは意を決してシンシア様に事のあらましを話しました。


紅茶を飲みながら一通り聞き入っていたシンシア様が口を開きました。


「事情はわかりました。エルラード。」


「…は、い。」


「その方は愛人になさい。」


「!!!シンシア様!」


「?ミノス。お前だってそれが得策だと思うでしょう?その方にエルラードの対人恐怖症を治してもらえばいいのです。子が出来ても十分養っていけるでしょう?奥方には由緒正しい娘をお選びなさいな。」


「……。」


エルラードは何も答えません。


「何も心配有りません。揉め事は私がきれいにして差し上げますよ。住むところも手配しましょう。そろそろコートフープに移って来ていいころでしょう。愛人の方にも別邸を用意します。私は貴方をかっているのですよ?トレスの町の復興の手腕には驚きました。…ボノアールを手放すこと以外は。」


ミノスは青ざめました。シンシア様が言っていることはとても一般的なことで恐らくエルラードにとって一番すんなりいく方法でしょう。でも、それではアリスは一生日陰者扱いです。後ろを見るとしかめ面したエルラードがいました。でも…


「分かりました…。」


蚊の鳴くようなエルラードの声が聞こえました。昔からエルラードはシンシア様の言うことに逆らえません。ですから会うのが嫌なんですね…。シンシア様は皇帝の第5皇子の后で有ります。中央でも権限を持ち、魔力も強い女性です。なんどか甥のエルラードを引き取ろうとしましたがエルラードの父を思わせる瞳にエルラードが怯えてしまい、一緒に暮らすことを断念していました。母方もしかり、エルラードに両親の話をするのは親戚の中ではタブーとなっています。ひとたび精神的に追い詰められ魔力が放出されると誰にも止められないのです。シンシア様以外はエルラードを腫れ物に触るように扱いました。


「帰る前に貴方を抱きしめさせてもらえないかしら…。」


そう言ってシンシア様は椅子から立ち上がりました。

その慈愛に満ちた手がエルラードに向けられたとき、エルラードは後ろに身を引いてしまいました。


「……。そう、まだ駄目なのね…。」


悲しそうなシンシア様の瞳を残してエルラードは部屋を出てしまいました。




「エルラード様…よろしいのですか!?」


早足で歩くエルラードを追いかけながら非難するようにミノスが言います。


「仕方ないだろう!伯母様にそう言われたんだ。アリスは傍にいてくれるって言ったんだ。だから…」


エルラードはそれ以降は何も言わずまっすぐトレスの城に帰ってしまいました。





*****




相変わらずアリスは城通いしていましたが、なんとなくエルラードはコートフープから帰るとアリスを避けて自室に篭ってしまいました。結婚はしないと譲らなかったアリスもさすがに声をかけにくくお弁当を運ぶだけで数日が過ぎてしまいました。


そんなある日の明け方にトレスの町の一角が茜色に染まりました。


そう、それは…


アリスの店の方角でした。





アリスの受難は続きます。

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