立て篭もるエルラード君
(…何だかヘビーな話をさらっと聞いてしまった気がする。)
(今の私に伯爵様を受け止める自信がある?…無い。そこまで好きかもわからないよ…)
ミノスがアリスにハンカチを渡してきました。
(あれ、…知らないうちに泣いてたんだ…)
「アリス様の髪は見事な緋色ですね。」
アリスの心を見透かすようにミノスが話をそらしました。
「ええ、両親も親族にも赤い髪はいなくて…それに赤毛っていってもこれほどきつい色は無いのでよくいじめられました。染めようかと思ったこともありますがどこに言っても染料が合わない体質らしくて駄目なんです。」
そう言ってアリスはやっと微笑むことが出来ました。
「あなたに魔力は無いようですが緋色は魔力の強さを表す色なんです。エルラード様の瞳の色のように…」
(…そういえば…昔…)
( … )
(…思い出せない…)
言ったまま考え込んでしまったミノスに苦笑してアリスは
「ミノスさん、正直言って、今の私には伯爵様に好意を持っているのかもわからない状態です。」
「…すぐにご結婚などとは考えてくださらなくてもいいです。まずは坊ちゃまが人に慣れるようにご協力していただけませんか?」
「…そういうことでしたら…」
うっかり何度もキスしたことなど忘れたアリスが了承します。しかもさらっと結婚への道筋も否定せずにうまく丸め込んだミノス爺さんお仕事上手です。
さて、そんなことがアリスとミノスの間であったとは知らないエルラードは自室に篭ってしまいました。
その日も…
次の日も…
その次の日も…
さすがによくよく考えるとエルラードと顔をあわせる事が恥ずかしくって、なんとなくやり過ごしてしまっていたアリスでしたが
お弁当を取りに来るミノスの顔色もどんどん悪くなっていくばかり…
「食事もお取りになりません…アリス様…」
とうとうミノスに泣きつかれてアリスは城へと向かいました。
(わたしに何か出来るとは思わないんだけど…)
どうにかして欲しいとすがってくるミノスの瞳を痛く感じながらエルラードの自室の前にアリスが立ちました。
「伯爵様…アリスです。ちょっとお話しませんか?」
(…なんか、物音もしないんですけど…)
後ろにいるミノスに視線をやっても「何度も試したのですが」というように静かに首を横にふるだけです。
(もう使用の人はいるけど心なしかちょっと埃っぽいから…掃除もしてないんだろうなあ)
「ご飯、食べないと身体を壊しますよ?」
( … )
あまりに応答が無いのでさすがに心配になってきました。
(まさか、…大丈夫だよね…)
「失礼しますよ?」
「あ、アリス様、そのドアは…」
ガチャッ
ギィイイ
「 … 」
そこには珍しくびっくりした顔のエルラードがこちらに顔を向けて窓際の椅子に座っていました。
(日に当たってキラキラだ…こんなときにも…少しやつれてる…かな?)
「どうやって入ったの?」
エルラードが眉間にしわを寄せていぶかしげに訊ねました。
「え?…普通に… 開いてましたよ?」
「 … 」
「取り合えずご飯食べませんか?」
「…帰ってください。」
プィッとエルラードはそっぽを向いてしまいました。
「…ご飯を食べてくれたら帰ります。」
(すねた男の子が目の前にいる)
そう思うとアリスはおかしくなって微笑みながらバスケットを差し出しました。
「今日はあなたの好きなサンドイッチですよ?」
バスケットをちらりとエルラードが見ました。お腹の虫がなっているようですね。
ごくりと喉を鳴らしたエルラードは
「こんなことして、もう知りませんよ…。」
そう、小さな声で呟きました。