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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
15/34

シャクソンの丘の惨劇

この回のお話は残虐行為が含まれます。空想と現実の区別が付かない方、そういうものに嫌悪感のある方はお読みになられないようお願いいたします。

「アリス様。」


アリスにミノスが声をかけました。


アリスは空を眺めています。


「伯爵様は言い間違えたんだわ。私の方が相応しくない…。歳だって5つも上だし。両親も何の身分も無い。正式に結婚の件はお断りしようと思って今日は来たんです。」


「アリス様。」


「ミノスさんもそう思ってたんでしょう?」


アリスに気付かれていたのかと思うとミノスは居た堪れない気持ちになりました。


(それでエルラード様に一線置いていたのですね。)


「聞いていただけないでしょうか。そうした上で坊ちゃまのこと、考えていただけないですか。」


ミノスの真剣さが伝わったのかアリスは目を伏せて頷きました。


「それから、先程の…その、初めは確かに反対でしたが…今はアリス様がエルラード様にとってかけがえの無い方だと思っております。」


その言葉に驚いたようにアリスが顔を上げました。


「これからお話しする話は他言無用でお願いいたします。エルラード様も覚えていらっしゃらないことが有りますので…。」


「え、そんな大事な話を私が聞いてもいいんですか?」


「貴方にこそ聞いていただきたいんですよ、アリス様。」


ミノスはそう言って微笑みました。


「13年前にボノアールで起こったシャクソンの丘の惨劇というのはお聞きになったことがあるでしょう。ボノアールは3年前この町の復旧のためにエルラード様が手放されましたが元々はレモネサルタン家の統治領土でした。レモネサルタン家の領地の中でもっとも大きい街でしたのでエルラード様のご家族も当然ボノアールの城に住んでおられました。そう、シャクソンの丘にある城です。

 表向きは狂人による殺人劇の後の放火爆発となっておりますが現実は少々違っています。実際に手を下したのはエルラード様のお父上なのです。


 お父上には同い年の従弟がおられました。小さいころから何かとライバルとされていましたが、実際には優秀なエルラード様のお父上に敵う物などありませんでした。

従弟…あの男が恋焦がれた女性、エルラード様のお母上がお父上と結ばれたことによりあの男の恨みが大きく膨らみました。そして、このころから逆恨みでしかない歪んだ復讐を果たすために計画を練っていたのです。


あの日…


あの男は巧妙に力のあるものを城から追い出すことに成功し、この私も閉じ込められてしまいました。残念なことにお父上はエルラード様ほどの魔力はお持ちでは有りませんでした…成す術も無かったのです。あの男は黒魔術をつかい、お父上の身体を支配し召使たちを惨殺しました。お父上の意識は残したままその手で逃げ惑う召使を捕まえ、嬲り殺したのです。お父上は涙を流しながら「やめてくれ、私を殺せばいいだろう!」と繰り返し叫んでおられました。そして13名も手にかけさせた後、あの男はお父上の支配を解きこう言ったのです。



「お前の愛する女を殺せば息子だけは助けてやろう。それとも、二人とも殺させてやろうか?」


つまり、自分の意思で手を下せという意味です。

始終見るように支持されたお二人が震えてお父上を見ていました。お母上は坊ちゃまを庇うように立つとお父上に向かって強く頷かれたのです。



そしてお父上はお母上を手にかけたのです。…エルラード様の目の前で…。



あの男の高笑いが城中を駆け巡りました。


お父上は涙を流したまま肩が小刻みに揺れ震えておられました。それなのにあの男はそれだけでは飽き足りませんでした。お父上の前でエルラード様をも殺めようとしたのです。始めからそうするつもりだったのでしょうニタニタ笑いながらナイフを振り下ろしました。しかし僅かにその気配を感じた瞬間お父上はエルラード様を庇うよう抱きしめました。お父上はそのままゆっくりと床に崩れ落ち、エルラード様のシャツが真っ赤に染まっていきました。それはもうすでにだれの血であるかもわからないものでした。


エルラード様はすでに恐怖と混乱で立っているのが不思議なくらいでした。あの男はお父上が事切れるのを見てつまらなそうに足蹴にしてエルラード様を見ました。そしてお母上に良く似たエルラード様に触れようと手を伸ばしていました。


そのときです。坊ちゃまの緋色の目が光始め、得体も知れない大きな力が生まれるのを感じました。魔性が覚醒なさったのです。


その心の悲しみと怒りが止められることも無く、憎しみが男に向かっていました。魔力の暴走が始まってしまったのです。そして…男の姿かたちはもちろんシャクソンの丘からは城が忽然と消えたと思えるほどなにも無くなってしまいました。


…廃墟には私とエルラード様だけが残されました。


それから、記憶が少し飛んでしまったエルラード様をこの町に移して暮らし始めました。なんとか気持ちも落ち着き、生活できるようにはなったものの、エルラード様は人間付き合い自体お避けになるようになりました。


そうは言っても周りはエルラード様をそっとしてはくれません。エルラード様のお立場のみでなく容姿や高すぎる知能…大きすぎる力は人を魅了しました。大きすぎる魔力はひとの心を惹きつけて止まないのです。幼少よりさまざまな形で人に襲われることが何度も有りました。それゆえに成長されるにつれてエルラード様は人と触れ合うことも困難な状態になったのです。」


「…それは…平気に感じましたけど…」


アリスはエルラードの温もりを思い出しました。

口からやっとのことでしぼり出た言葉は震えていました。


「それなんです、アリス様。あなただけが特別なのです。だからこそ、私はあなたにエルラード様を救っていただきたいのです。」


ミノスはすがる気持ちでアリスに言い募りました。



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