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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
13/34

エルラード君がんばります。

ようやく息が整ってきたエルラードでしたが下を向いてしばらくそのまま座っていました。


諦めて帰ろうかと思ったとき目の前にリボンのついた赤い靴が見えました。


「走ってきたの?」


そう問いかける声の主にエルラードは驚いて顔を上げました。


(アリス!)


「 …… 」


とっくに帰っているだろうと思ってがっかりしていたエルラードは声も出せなかったようです。

アリスはいつものポニーテールではなく髪を下ろし、軽くサイドを後ろで留めていました。その上フリルとリボンのついた白いワンピースにピンクのカーディガンを羽織ってなんだか乙女チック。右手にはバスケット。そして左手には風船を。


じっとエルラードが自分の姿を見るのでアリスが赤くなりながら下を向いて言いました。


「へっ変だよね…。伯母さんがね…。伯爵様が恥ずかしい思いをしちゃ駄目だからって…。あ、それにちょっと若作りした方がいいって髪も下ろされて…。」


いつも動きやすいジーンズなので恥ずかしくって仕方が無い様子のアリス。


「いえ、かわいいです。…とっても。」


エルラードはそれを言うのが精一杯で…。あとはアリスを見つめることしかできないようです。


「お客さんが来てたんでしょ?」


「えっ?」


「遅かったから、その、電話かけちゃったの。ミノスさんが突然お客様が来てしまって約束の時間は遅れますが坊ちゃんは必ず行きますって。もう向かっているって言われたから…。」


向かっていなかったら確実に帰っていましたね。アリスさん。


「すいません。2時間も遅れてしまって。それに、謝るのが先だったのに…」


(あんまり貴方が可愛いので忘れてしまっていました。)


「いいんです。ここの公園好きなんです。今日は天気もよかったし、日向ぼっこも良いものでしたよ?」


「いいですね、日向ぼっこ…」


日向ぼっこ。怠け者のエルラードにはビバ楽園な響きに違いないでしょう。


「お腹すきませんか?あそこの広場でお弁当でも食べません?」


今日こそは町のしゃれたレストランを(もちろんミノスが手配して)貸しきっていたエルラードですがアリスがうれしそうにバスケットを掲げるのをみてその方が何倍ものご馳走だと思いました。それに昼食の時間はとっくに過ぎてるのです。アリスは待ってくれていたのですね。良かったね、エルラード君。


「バスケットは持たせてください。」


アリスはすこし驚きましたが素直にエルラードに持ってもらいます。前回が前回だけに驚くのは仕方ありませんが今日のエルラード君は一味ちがいますよ?しかも、さりげなくアリスを守るように隣に歩くエルラードは日光にその金髪を照らし出されて王子様そのものです。


(こんな人気の無い公園でも目立ち過ぎる人だわ…伯爵って。町なんか歩いたら明日から私は噂の的だよ…。それだけは阻止しないと…)


アリスの思惑も他所に自分のためにおしゃれしてきてくれたアリスとデートしていることに浮かれるエルラード。しぶしぶのアリスにコーディネイトして着せたのはもちろん伯母さんなんだけどね。


シートを二人で広げて、端から見れば完全にカップルで仲良くランチです。学習したのでアリスのお手伝いもスムーズですね、エルラード。


「あ、」


「どうしました?」


お弁当を広げようとしてアリスは小さく声を上げます。

左手に持った赤い風船を困り顔でアリスが見ていました。


「伯爵様を待ってるときに母親とはぐれた子供がいてね。一緒に探したんだけど、見つけたときにお礼にってくれたの。いや、もちろん断ったんだよ?でも、どうしてもって…」


苦笑してアリスがエルラードを見ました。エルラードはアリスが持っている風船を受け取るとほんの少し、でもはっきりと解るくらい微笑んで


「僕が持っていますよ。」


と受け取りました。一連の動作がとても綺麗でアリスはいちいちドキドキしてしまいます。普段よりは饒舌 (それでもポツリポツリですが)になったエルラードとの昼食はアリスが思っていたより楽しいものでした。


ぽかぽか陽気。


しかしここはお約束。お腹がいっぱいになったエルラードはウトウトとお昼寝してしまいました。


(いつもは大人びて見えるけど…こうしてみると改めて子供だなあ。まだ19歳だもんね。あたしと結婚って…ありえないよ。それにしても睫毛ナガッ!)


こうなるだろうと予想していたアリスも今日は心に余裕があります。空っぽになったお弁当をうれしそうに片付けながらじっくりとエルラードを観察。普段は大抵気まずくってじっくりみられないからね!


(なんだか私も眠いな…)


(ま…)


(いっか…)


アリスはエルラードとの間にしっかりとタオルの防波堤をおき、シートの隅っこで目をつぶりました。



( … )


(ん…気持ちいいな。)


(お母さん…)


母親に良くしてもらった膝枕を思い出しながら気持ちよさそうに眠るアリス。


(そう、こうやって優しく髪をなでてくれた…)


( … )


( … )


( …?)


(!!!!!!!!!!!!!)


目を見開いたアリスが見たものは片付けられたバスケット。横向きで寝転んだときより視界が高いようです。さらに頬に感じる暖かい温もり。優しく髪をなでる手は大きくて…


(ちょ、ちょっと!嘘!私…)


(伯爵に膝枕されている?!!!)


「目覚めてしまいましたか?」


今まで見たことも無いくらい微笑んだエルラードがアリスの顔を覗き込みました。


(初めて見る…こんな伯爵の顔…)


そのまま屈み込んだエルラードは少し苦しそうな表情になりました。どこか痛いのかな、と美しい顔に見とれていたアリスが少し心配になった時…エルラードはアリスの頬に手を添えて



キスを落としました。



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