ライバル登場です。
(困ったことになりました…)
(これから坊ちゃまとアリス様のデートだというのに…)
先程まで主人と今日のデートのことを打ち合わせしたりしてウキウキモードだったミノスでしたが突然の訪問者により一転。困った事態に陥ったようです。目の前には栗色の自慢の立て巻きロールを時折指で触りながら上目遣いで主人を見上げている美少女が。
(よりにもよってジョゼッタ様がいらっしゃるとは…)
このジョゼッタ様とはエルラードの母方の従妹で公爵家の3番目のワガママ娘であります。見目麗しく大変ゴージャスな娘さんで小さいころからエルラードと結婚すると息巻いています。伯爵といえどもなかなかの資産家な上にエルラードの見てくれはまさに王子様。その2点が至極気に入ったといっても過言ではないこの娘さんは時々エルラードのところに熱烈にやってきます。エルラードは近寄るのも嫌なようでいつも逃げの一途を辿るのですがそれを察知してなのかジョゼッタ嬢も突然訪問するという手にでたようです。
「…すみませんが出掛けるので帰ってくれませんか?」
さすがのエルラードも今日ばかりは譲れません。と、いっても彼女とまともに会話したことも無いのですがね。
「きゃ~ッ! エルラード様の生声 (ハート)! どちらへお出掛けですの?ジョゼッタもお供した~い。」
ジョゼッタ嬢は期待を込めて必殺、媚媚光線を自分がかわいく見える斜め下からゆさゆさした胸を軽くよせて出しました。他の男性はこれに弱いようです。…まあ、それが効くようならエルラードはすでにジョゼッタ嬢にメロメロのはずですからね。
「 … 」
本来、超が付くほど面倒なことが嫌いなエルラードはすぐにミノスに視線を合わせます。
(…なんとかしてください)
とはいっても相手は公爵令嬢。あまりご無体なことはできません。ミノス爺さんファイト!
「ジョ、ジョゼッタ様。とても大切な会合がございまして…。本日のところはお引取り願えませんか?エルラード様もお嬢様の突然のお越しで十分な御もてなしが出来ずに心苦しくお思いなのです。」
「ふ~ん、会合…。」
(それにしちゃあ、エルラード様、デートみたいに決めてんじゃない!なめんじゃないわよ、ジジイ。)
「そんなのあなたが行けばいいじゃない!」
「それは出来ないのです…」
「…でしたら待たせていただくわ!その会合とやらを。何時頃終わるご予定?」
見目麗しきジョゼッタ嬢は期待を裏切らない腹黒さでおっしゃいました。つまるミノス…
「いえ、その、事の次第では本日帰れるかどうか…」
おいおい、何をさせる気だミノス爺さん!
「まあ、会合ごときで?おかしいんじゃありません?わたくし、その場所まで付いて行こうかしら?」
ぎくり。多分ミノスの心の音がジョゼッタ嬢にもまる聞こえだったでしょう。
「まさか女性の方とのご会合ではないでしょうね?」
次の手を考えようとジョゼッタ嬢が頭を巡らせたときでした
ドン!
「来客中に失礼だと思いますが僕は退室させてもらいます。大切な約束の時間を過ぎてしまっていますので。待つのも帰るのも貴方のお好きなように。ご連絡もいただけないのでは僕も都合をつけようがありませんしね。」
軽く机を叩き、氷河をも思わせる冷たい目でエルラードがジョゼッタ嬢を見据えました。
これにはさすがのジョゼッタ嬢も固まってしまいました。エルラード君コワッ!
ひとまずジョゼッタ嬢を残し、エルラードは目的地へと急ぎます。けれどデートとばれた今、ジョゼッタ嬢のお供の者を撒いていかなければゆっくりとアリスと会うのは不可能です。約束の時間にはさらに遅れてしまうでしょうがアリスに迷惑をかけるわけにもいかず、エルラードは回り道をすることを余儀なくされました。
エルラードが約束の噴水の場所までたどり着いた時には2時間ほど遅れてしまっていました。
アリスの姿はありません。
(…もともと騙すみたいに約束したから…)
エルラードの肩がガクリと落ちました。
(せっかく約束できたのに…)
ハアハアと肩で息をしながらガッカリとした様子で噴水の縁に腰掛けてエルラードは下を向いてしまいました。
お約束の展開…。