そういえば天才でしたね。
さて。今日も大きなお城にたった3人…
(とっても静か)
(しかも昨日までは2人だったのよね。)
(ミノスさんだけで何とかなるわけがないじゃない。)
昼食の用意を済ませたアリスが席に座るとまたもやエルラードの鶴の一声で3人で食べることとなりました。この城の食堂は3部屋有ります。大きな集まりなどに使う大食堂。普段城主と家族が使う中食堂。忙しいときに使うエルラードの部屋のそばにある小食堂。ちなみに3人がちんまり座るには小食堂で十分でした。「小」っていってもテーブルは庶民の家庭の6人掛けです。
(…しかし、寡黙って言えば聞こえがいいかもしれないけど。この沈黙がつらい…)
食事中だから上品といえばそれまでですがエルラードは普段からあまりしゃべりません。
「えっと、ミノスさんってご家族は?」
助けを求めるようにアリスはミノスに話しかけることしました。
「私は独り身でございます。良いご縁がございませんでしたので。」
「ミノスさん、素敵なのに。若いころはもてたんでしょう?」
「アリス様。私なんてろくでもないですよ。」
「ええ! そんな!私はミノスさんてとっても良いと思いますよ?」
「…ご冗談も過ぎます、アリス様…」
突然、ミノスの声が重くなって怖くなりました。怒らせたのかと思ったアリスも黙ってしまいます。
(申し訳有りません、アリス様。爺はエルラード様の視線で射抜かれて死んでしまいます…)
20年ちかく付き合ってきたミノスにはわかるエルラードの殺気をも含む不機嫌さもアリスにはわからないようです。
(なにか事情があったのかも…。この話題はもう避けよう。)
「そういえば、こんなに広いお城なのに綺麗にお掃除されていますね?ミノスさんしかいないのに」
「ああ、それは坊ちゃまがされているんです。」
「え?伯爵様が?」
(ほうきもって?そりゃ笑えるけど…。)
「坊ちゃま、アリス様にお見せになったらいかがですか?」
「…いいですよ。」
(え、まじ?)
はい、まじです。アリスさん。
食事が済んだことを合図にエルラードがアリスに隣に座るよう促しました。
居心地が悪いうえになにがなんだかわからないアリスは不満顔。
「…始めます」
(なんだかデジャブな言葉…。)
エルラードがなにかぶつぶつと呟きながら指で何かの呪文を空に書き上げました。
すると指先の空間から青い光とともに風が渦になって現れて渦はどんどん大きくなってきます。
(な、なに?)
「風の精霊でございますよ。坊ちゃまは風を使って城中の埃を飛ばすのですよ。」
アリスは言葉も出ません。そのまま今起こっていることをただ、見つめていました。
エルラードが手のひらを下から上へ軽くふります。さあ、行って来いというように。すると人丈になった風の塊が目の前のドアを開けて部屋を出て行きました。
アリスはまだ呆然。目が見開いたまんまです。
「アリス様がご到着になったときにお部屋まで案内したのが火の精霊です。どうです?すごいでしょう?」
「 …… 」
「アリス様?」
教科書でしか見たことのない精霊の大きさにアリスはビックリしてしまいました。怠け者なのにエルラードの魔力はこの国で匹敵する者がいません。その大きすぎる魔力のせいで瞳が緋色に染まる者は数百年に1度と言われる逸材ですからね。
「す、すごいです。」
これまでとはうって変わって羨望のまなざしでアリスがエルラードを見ています。瞳がキラキラ。
さすがのエルラードも口元に手をやって照れているようで…
えっ?エルラードが照れてますよ!
(坊ちゃまのお顔が赤い!?)
(まさか、19年仕えてきてこんな顔が見れるとは!爺は感激です!アリス様!万歳です!)
「…アリス様、次のお休みのご予定は?」
「えっ…特には…」
訊ねられてもアリスはまだ放心状態です。
「良かったですね、坊ちゃま!」
「はい、予約をいれます。また一緒にでかけましょう。」
「?…」
「いいですよね?アリス様?」
「あ、はい…」
呆けているアリスに思考回路はつながっていないようです。正常ならば絶対断られますからね。少々汚い手では有りますがここは押しの一手で頑張ってくださいエルラード君。
*****
「ほら、材料出しておいたよ!次のデートに休みがちゃんと取れるように段取りしないとね!」
我にかえったアリスがどうしてまたデートすることになったのだろうと思いながらトボトボ店に帰ると伯母さんが待ち構えていました。どうやらミノスが電話連絡したようで次のデートのこともバレているようです。
(いつの間に…。ミノスさんめ。)
なんだか急にミノスが敵に回ったような気持ちにさせられたアリス。実際そのとおりですが、まあ気にしないことです。
(最近急にお客さんが増えたから大変なんだけどな。)
レモネサルタン邸ご用達と噂が広まったのか最近お客様が急に増えていたのでお店も忙しくなりました。なにやら「癒される店」という触れ込みらしいですけどね。
(ああ、気が重い…。)
棚に乗った「トントン」のぬいぐるみがウインナー片手にアリスに笑いかけています。
さて、エルラードは挽回できるのでしょうか?
2回目デート。楽しい日になればいいのですが…。