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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
10/34

最強タッグにタジタジです。

(疲れた…)


天蓋つきの豪華なベットの上で仰向けになったアリスはため息をついていました。


あれから…「では早速これから夕食のご用意を!」と言い出すミノスをいくらなんでもあと一日くらい休ませたかったアリスがエルラードの夕食の用意もしてしまいました。そのままエルラードに「一人で食べるのは寂しいんです」とお願いされて一緒に夕食をして、何が何でも帰るつもりだったアリスでしたが、突然雨も降り出しまい、「こんな大雨の夜更けにご婦人を独りで帰すわけには!」とミノスに畳み掛けられ城に泊めさせられることに。こうなると明日が定休日であるのも何か策略を感じます。

 年頃の娘が外泊なんてと怒ってくれるはずの伯母夫婦もミノスに何を言われたのか上機嫌でお城に泊めてもらいなさいと言う始末でアリスは取り付く島もありませんでした。


天才魔道師のエルラードに窓の外だけ大雨を降らすことなんてオチャノコサイサイです。もちろん他の場所は雨なんか降っていないのです。しかもいままで傍観していたミノスが主人の結婚に向けて誓ったのだからエルラードとのコンビネーションは絶妙です。決心したミノスは中央から持ち帰ったお見合い写真の数々をすべて燃やしてしまいました。何も知らないのはアリスだけ。


(とにかく、寝よう。)


豪華な浴室には猫足つきのバスタブが用意してありましたが、庶民のアリスにはどうにも気が引けるもので、お湯を張らずにシャワーだけ使いました。当然着替えも無かったのでエルラードの母のものだったというクローゼットの一部より一番シンプルな(これしか透けてないのが無かった)ビロードのネグリジェと明日の朝のためのワンピースを借りました。どんなに目を凝らしても地味で庶民的な洋服はアリスの店の2倍ほどもある面積のクローゼットには見当たらなかったからです。しかも、入って5メートルほどのところであまりの量に見る気もなくなってしまいました。


(朝になったら帰れるから…寝よう)


そんなアリスの思いも他所に彼女が眠る客室(アリスにはそういっているが本当はミノスが用意したエルラードの部屋と続きになっている部屋)の前で扉を開けて進入しようとする不届き者がいました。


もちろん、この城の主人エルラードであります。


「坊ちゃま。いけません」


殺気に気付いてエルラードが振り向くとミノスが立っていました。


「アリス様に嫌われます。」


「…勘がいいな。」


「坊ちゃまが生まれる前からお使えしているのですよ? 正直、アリス様は坊ちゃまにはふさわしくないと思っていました。」


「ミノス!」


(ほら、これまたこの反応。今までとは違いすぎます。)


「ですが、それは昨日までの話です。」


「気が変わったというのか?」


「はい、面倒なことが大嫌いでものぐさなエルラード坊ちゃまがこんなに情熱を注がれているのです。まして他人にお体をお寄せになることが出来ようとはこの爺にも驚きでした。」


エルラードは極端に肌のふれあいを好みません。昔、不意に手を握られて蕁麻疹を起こしたことさえあるのです。このままでは誰が嫁に来たところで夫婦生活も望めはしないとミノスはあきらめていたのでした。


「アリスは初めからなぜか平気だったんだ、ミノス。」


訴えるようにエルラードがミノスを見つめます。それに応えるかのようにミノスは深く頷きました。


「この爺が味方についたのです。大船に乗ったつもりでいてください。今ここで既成事実を作らずとも必ずアリス様をエルラード様の妻にしてみせます。」


この恐ろしい会話は眠っていたアリスには届いていません。取りあえず今晩のアリスの貞操の危機は回避されたようですね。夜這いに来てたんだ、エルラード。こわい、こわい。



朝早く目覚めるとアリスは1宿の恩も有るからと朝食の準備に取り掛かりました。何も知らないって素晴らしい!



(ここのキッチンはすばらしくってため息がでる~。朝は消化に良いものが良いかしらね。)


(スープ、サラダの用意をしてメインはジャガイモとベーコン、ほうれん草のキッシュ。あとは果物でいいかな。オレンジがたくさんあるからジュースにしてもいいし。)


頭の中で段取りを考えながらウキウキ料理に取り掛かったアリス。集中する彼女には後ろで見つめるエルラードの姿は見えていないようで…。


(最初はいよいよ結婚が避けられないだろうから、面倒なことが起きる前に近づいても大丈夫な娘を確保しようと思っただけなのにな。)


エルラードは結婚してもアリスに手を出すつもりがありませんでした。目の前の結婚問題を片付けるために2,3年我慢してもらい、財産わけでもして離婚するなりアリスの好きなようにすればいいと思っていたのです。正式に伯爵家を継ぐには20歳以上で妻を娶るのがこの世界の貴族の常識です。両親を亡くしているエルラードがレモネサルタン家を守るには結婚しなくてはなりません。ミノス爺が中央からの見合いを持って帰ってくればもう逃げる口実が無くなってしまうという切羽詰った状況があってエルラードはアリスにプロポーズしていたのでした。…事情をちゃんと話していればアリスの態度も違ったでしょうが今となっては言わなくて良かったのかもしれません。


(昨日、アリスの髪が良いにおいだったから…)


それであなたが欲情したとしてもアリスのせいではありませんよ…エルラード君。


2人で食事するのはアリスにとって気まずいものだったのでミノスも一緒にとアリスが懇願しました。

使用人なのですからと断る彼に「レモネサルタン伯爵にとってお身内のようなものでしょ?」と言ってミノスの涙を誘ったことを彼女は知らないようです。結局エルラードの「ミノスも一緒に」の鶴の一声で3人で食事することになりました。


「新しい使用人の方はもうすぐ着くのですか?」


アリスがミノスに話しかけました。きのうの電話では「明朝には次の使用人が着くので今日だけ配達願えないでしょうか?」と聞いています。


「それが…。先ほど連絡が来まして。船が遅れて明日になるようなのです。」


そういうとミノスはアリスに苦笑して見せました。


「お気になされないで下さい。アリス様。これまでもこの爺一人でやってきたのですから。朝食が済んだらそのままアリス様はお帰りください。」


「…!ミノスさんは休んでいてください!私でよければ今日一日お手伝いしますから!」


ここで見捨てるような性格だとしたら昨日のうちに家に帰れていたはずです。案の定ミノスの「アリス様お城に留め作戦」に見事引っかかったアリス。


そんなアリスをエルラードは微かに笑って見つめていました。




さくさく進んでおります。

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