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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***本編***
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雨の日の出会い

多分お茶付けのようにさらっと読めるのではないかと思われます。

昔書いていたものなので…←修正しろっ!?




(お腹が減った。)



(……動きたくない。)



(…でも…お腹が減った。)



(……面倒だが…町に下りよう)



 着替えることも億劫な彼はここ1週間ほど水と残り物のパンしか口にしていません。

かといって不潔では無いようです。城にある彼の自室には必要なものしかありませんが塵や埃は落ちていません。


「仕方ないな。」


ふうとため息をついて彼は雨を避けるためにフードつきのコートを羽織りました。

この森から町まで歩いて1時間くらい。魔導師の彼が風を煽れば麓まではすぐなのですが今日はあいにく雨だったので歩く方が無難なようです。


もちろん、彼の足取りは重い…


気分も暗く森の小道を歩いていると前方から良いにおいが漂ってきました。


(何だ?)


もちろん極限までお腹のすいた彼に素通りできるわけも有りません。屋根しかない建物の下でこちらに気付く様子もなく、緋色の髪を高く結っている娘が鍋で何かを作っていました。


(食べ物…)



「うわ!」


一心不乱で作業していた彼女が突然現れた男に驚きの声を上げました。

鍋を覗き込んでよだれを垂らしている姿は誰が遭遇しても驚きます。


「…お腹、空いてるの?」


あまりに鍋を覗き込むように見つめているので「あなた、誰?」よりも先に言葉が出たようです。


「…ひどく」


そう答えるも男の視線は鍋まっしぐら。

彼女の存在さえも確認しているのかわからないくらい目が食べ物に釘付けになっているようです。

あやうく口元から欲望のしずくが落ちそうになって彼女は慌てて蓋を閉めようとしました。


が、


遅かったようで…。


「ひぃぃ!」


彼女の声にもならない声はその凍りつく体から搾り出されたものでした。

無理もありません。いきなり現れた黒いフードの男が自分の昼食の鍋によだれを垂らし落としたのですから。


「……。」


ショックで声も出なくなった彼女に男は


「それを譲ってくれませんか?」


と言いました。放心状態の彼女が銀色のスプーンを男に手渡し、動揺している彼女の指が男の指に触れて危うくスプーンが落ちそうになりました。それを庇うように受け取った男は少し何か考えたようですが、それからはひたすら食べることに集中していました。



「……。」



緋色の髪を高く結わえている彼女ーアリスは男が自分の昼食を食べているのを呆けた顔でただ見つめていました。


(何?)


…誰だって思う疑問でしょう。

香草を取りに森に入っていたアリスは雨が降ってきたので少し上にある屋根付きの建物の下に避難することにしました。建物っていっても屋根があるだけのものです。

 アリスは空をいくら見つめても雨が止むわけも無いとあきらめて早めの昼食にしました。そろそろ食べようかと思ったところにこの男が現れて自分の鍋によだれを垂らし、昼食を奪ったのです。


そう、目の前の男…


ひたすら食べている男はガッツいている割りに下品に見えません。綺麗な食べ方をしています。

フードが落ちていることに気付いているかは疑問ですが美しい金髪が肩まで流れ、陶器のような白く美しい肌に緋色の切れ長の瞳が映えています。


(…私の髪と同じいろだ。)


(いかん、いかん。食べ物の恨みを忘れて見入ってしまった!)


鍋が空になってやっと男が彼女の方を見ました。


「…もっとないですか?」


「!!」


謝罪の言葉が来るかと思っていた彼女には不憫ですがこの男はそんな感情は持ち合わせていないようです。そんな気が使える人間なら他人の鍋を覗き込んでよだれを垂らしたりしないでしょう。


あきれたアリスは


「昼食譲ってあげたのに御礼の言葉も無いの!?夜明け前から家を出てきて私は、なあ~んにも食べてなかったのよ!」


すると、すねた子供のように男が答えました。


「僕は1週間ほどまともに食べてないんです。」


「えっ…」


アリスさん、それはその男の都合であなたには関係ないですよ。


…それでもアリスの心には少し応えたようでふうとため息をひとつつくと彼女は持っていた残りのパンをも男に差し出しました。


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