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第2章:新たな能力者

橘 樹は、夕焼けに染まる校庭を歩きながら、学校で続発している記憶喪失事件について考えを巡らせていた。奈々の記憶に何かを隠すための操作が加えられていることは、彼女との会話でほぼ確信に変わっていた。そして、その操作をした能力者が、学校で起きている他の事件にも関与している可能性がある。


「記憶を操作する力を持つ新たな能力者が、学校内に潜んでいるのか……」


橘が自問自答するように呟いた時、背後から静かな足音が近づいてきた。振り返ると、神崎 零士が無表情で立っていた。


「どうやらその推測は間違いじゃない。図書室周辺で記憶喪失事件が頻発している。俺たちと同じ力を持つ者が、この学校で暗躍していることはほぼ間違いない」


神崎の冷静な言葉に、橘は息を呑んだ。新たな能力者――それが奈々の記憶を操作し、他の生徒たちにも影響を与えている可能性が高い。だが、その能力者がどこに潜んでいるのかはまだ不明だ。


「図書室か……なら、明日調べてみよう」


橘は神崎と一緒に行動することを決め、次の日、学校の図書室へ向かうことにした。




翌日、昼休みの図書室は、静寂に包まれていた。橘と神崎は慎重に周囲を観察しながら、何か異変を感じ取ろうとしていた。生徒たちはそれぞれ本を読んだり、勉強に集中している様子だが、橘の胸には不安が広がっていた。


「誰かが、ここで記憶を操作している……その痕跡があるはずだ」


橘がそう呟いた瞬間、図書室の奥で、一人の男子生徒が不自然な動きをし始めた。彼は突然立ち上がり、周囲を気にするように本棚の陰に隠れるような動作を見せた。


「怪しい……あいつだ」


神崎が低い声で囁く。橘はその男子生徒の動きに違和感を覚え、二人で静かに彼の後を追うことにした。男子生徒は図書室の奥へと進み、他の生徒たちからは見えない本棚の影に入った。


「おい、待て」


橘が声をかけると、男子生徒は一瞬驚いた表情を見せた。だがすぐに取り繕い、焦った様子で言い訳を始めた。


「え? 何ですか? 僕はただ、本を探していただけですけど……」


彼の声は震えていたが、無理に冷静を装っているようにも見えた。橘は彼の表情に不自然さを感じ、さらに問い詰めた。


「最近、図書室で起きている記憶喪失事件について、何か知っているんじゃないか?」


橘の鋭い問いに、男子生徒は目を見開き、戸惑いを隠せなかった。


「記憶喪失? いや、僕は何も知らないですよ。そんな事件があるなんて、今初めて聞きました……」


男子生徒は必死に無関係を装い続けたが、橘はその目に潜む不安と焦りを感じ取っていた。神崎も鋭い目つきで彼を見つめ、少しずつ彼の心の内に迫る。


「君、何か隠しているんじゃないか? 怪しい動きが多すぎる。ここで何をしていたか、正直に話せ」


神崎が低く冷静に詰め寄ると、男子生徒は一歩後ずさり、さらに動揺した表情を浮かべた。


「ち、違いますよ! 僕は何も……!」


橘と神崎がさらに追い詰めると、男子生徒の顔色が急に変わり、次の瞬間、彼の表情は一変した。さっきまでの怯えた様子が消え、冷笑を浮かべる。


「……ふざけるなよ。お前らには何も分かっていないくせに」


豹変した男子生徒は、怒りを込めた声でそう言い放ち、冷たい笑みを浮かべた。その目には、異様な光が宿り、彼の口元には冷酷さが漂っている。


「お前たち、よくここまで来たな。俺の力に気づいているってことは、お前らも『見れる』んだろう?」


男子生徒は、橘と神崎の能力を感知していたかのように言った。橘は驚き、息を呑んだ。彼が「記憶を見る力」を持っていることを、なぜ知っているのか。


「どうして俺たちの力を……?」


橘が問いかけると、男子生徒は薄く笑いながら続けた。


「お前らが俺を追いかけている時点で、気づかない方がおかしいだろう。俺は、お前らみたいな能力者を感じ取れるんだよ。同じ力を持つ者同士ってのは、自然と分かるものだ」


その言葉に、橘はさらに驚愕した。記憶を見る力を持つ者同士が、互いに感知できる――そんな能力が存在することを彼は知らなかった。


「俺が生徒たちの記憶をいじっている間、お前たちも俺の気配に気づいていただろう? だからこうして俺を追い詰めに来たんだろう? だが、残念だったな。お前らの力じゃ俺には勝てない」


男子生徒の言葉に、橘は内心で焦りを感じた。犯人もまた、自分たちの存在に早くから感知していたのだ。それは、彼が単なる能力者ではなく、非常に強力で巧妙な相手であることを意味していた。


神崎は冷静な表情を崩さず、じっと男子生徒を見つめた。


「つまり、俺たちが追いかけていたことも全部把握していたってわけか。だが、それだけじゃ俺たちは止まらない。お前が何を企んでいようと、このまま見過ごすわけにはいかない」


男子生徒は嘲笑を浮かべながら言った。


「見過ごすわけにはいかない? 面白いな。だが、お前たちの能力じゃ俺には届かないんだよ。俺はすでに、この学校を支配する準備を整えている。お前らのような邪魔者は、俺が作る世界に不要なんだ」

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