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第36話 また来るからね

ものの数時間前にも俺はこの扉の前に立っていた。

流れるように復讐の刃を振るっていた、まさにあの時だ。


あの時もこの扉だけは特別だった。

開けるのも覚悟が必要だったし、その扉を開けた後も時間の流れも緩やかになったように感じた。


それは決して思い出深いから緩やかになったのではなく、苦しかったから、辛かったから、あまりにも失ったものが多過ぎた場所だったから、時間の流れが遅くなったんだと思う。


楽しい時間は時間の流れが早く感じるってあるでしょ?

まさにあれの逆。



そして再びドアノブに手をかけるものの、今度は違った恐怖があった。

この先にはみんながいる。


つい数日前に俺と一緒に卒業して行ったみんなが。


死体となって。




復讐を終えた今、俺自身も受け止め切れるか分からない。

不安だった。


だけどずっとこうしている訳にもいかない。

開けないといけない。説明しないといけない。


だから…。



「開けるね。」



俺はそう言ってゆっくりとドアを開いた。


焦げ臭い匂い。


四つ並んだ椅子。


それぞれに座ったままのみんな。




時間は停止していたようだ。



「俺だけ…。生き残ったんだ。」



俺はその四つの椅子を見つめたまま、呟くように言った。




「迎えに来たよ。みんな。


復讐は終わったよ。


『また来るからね』って言ったもんね。


だから…戻って来たんだ。


子ども達も…ほら、みんな無事だよ。


話したいことが…たくさん…。本当にたくさん、あるんだ…。」



そう言い切った瞬間、フッと膝から力が抜ける。

その場に俺は崩れ落ちるように、へたへたと座り込んだ。


約束は守った。

俺の役目は終わったんだ。


そう実感した。



それと同時に恐怖や不安が。悲しみや怒りが、寄せては返す波のように次々と押し寄せてくる。


ポロポロと涙が止めどなく流れた。

気がつくと俺は大声で泣いていた。


こんなに声を上げて泣いたのは随分久しぶりだったと思う。




「…ガキんちょ。よく頑張ったな。」


暫くして、俺の肩に手を置いたのは、寂しそうな目をした銀河だった。




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