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第2話 思い出

孤児院の裏にはそれなりに広い庭があった。


ブランコもシーソーもあったし、逆上がりの練習でツキコが派手に落ちて鼻血を出した鉄棒なんかもあった。よくある学校のグラウンドなんかより数倍は広かったと思う。そんな広さの広大な庭を丁寧に整備・維持することなんて到底できず、孤児院付近のみ整えられていた。


当時12歳の俺にとってはそこはキラキラした思い出の宝庫だった。

孤児院のみんなで本当によく遊んだし、大人達からも色んな事を教わった場所でもあった。


思い返せば1人だけ上手に乗れなかった自転車も、あの庭でシュウジおじちゃんに練習を手伝ってもらって、やっとの思いで乗れたような気がする。


自転車に乗れるようになったのはかなり小さかったから、正確にいつだったとは言えないが、そんな記憶がある。



そして孤児院だ。

クリーム色の建物に教室、そして礼拝堂。

あそこで寝て、起きて、風呂に入り、勉強をして、お祈りを捧げて、ベッドに潜って眠りへと落ちるのだ。


生活の全てがそこにはあった。



そして必ず触れなければならないのが、ミト婆の存在だ。


ミト婆は年齢こそ老婆に当たるような人だが、孤児院のみんなにとっては間違いなくみんなのお母さんだった。


誰かがケンカを始めれば、「ねぇ!ミト婆聞いて!」と自称被害者の子どもが駆け寄ってきて、よく彼女に甘えたものだ。

彼女の膝の上はみんなの特等席のような場所だったのだと思う。


料理や何か作業をしていても、ミト婆は必ず手を止めて「どうしたの?」と笑顔で迎え入れてくれたものだ。


俺達の毎日は平穏で幸せだった。

よく遊び、よく学び、よく寝て過ごす。

実に理想的じゃないだろうか?



ただ生活にあまりにも馴染すぎてて当時は違和感をあまり感じなかったが、今となっては変わったものがあった。


礼拝堂の一番目立つところ、つまり祭壇に位置する場所にある、一脚の黄金の椅子だ。


それは随所に金細工の繊細な彫刻が嵌め込まれていた。礼拝堂に入り、まず目が行くのは祭壇の背景の大きなステンドグラスの窓だろう。その窓から差し込む光は緻密に計算されたかのように、その椅子を照らしていた。さながらスポットライトのように。質素な色合いの礼拝堂の作りとは一線を画すその豪華な作りの椅子は、村の中では「神の椅子」と呼ばれていた。



礼拝堂は孤児院に併設されているのだが、毎週日曜には村のみんなが集まり祈りを捧げていた。


礼拝堂そのものも大きく、毎週500人近い人が訪れていたと思う。


礼拝の日はミト婆は聖書を片手に祭壇へと登り、神の言葉を代弁していた。

日曜の昼間、祭壇の後ろに飾られた美しいステンドグラスから差し込む日差しは、神の言葉を語るミト婆の姿をどこか神々しく見せたものだ。



と、まぁ俺が過ごしたのはこんな環境だった。

だから親なんて知らないし、孤児院のみんなや、村のみんなが家族だった。


それが当たり前だったし、村から出たこともない俺達は、そこでの生活がごく自然で幸せだった。

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