童話 ただ一つの箱
何もない部屋に箱があった。
とても白い箱だ。
模様とかはない。
誰かの名前が書いてあるわけでもない。
ただの、箱。
そんな箱は、一つきり。
その部屋に二つはない。
だから箱は寂しくなった。
とても寂しくて。
ずっと寂しくて。
いつまでたっても、一人ぼっち。
だから箱は幻影を見るようになった。
箱は、箱の見る世界では、一つではない。
二つになった。
箱は寂しくなくなった。
箱は苦しまなくて済むようになった。
箱は悲しまなくて済むようになった。
たまに一つになってしまうけれど。
はっと我に返ってしまうけれど。
基本的には二つだから、箱はずっと幸せだった。