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「トリックオアトリート!」久々に会う友人の一言目はそれであった

作者: 光井 雪平

「トリックオアトリート!」

 

 インターホンがなり、扉を開けた瞬間、聞こえてきたのは元気いっぱいのその言葉だった。

 そして、その相手は久々に会う友人の芹香だった。


 突然の彼女との再会、そして、突然のトリックオアトリートの発言で私の思考はフリーズする。私が何も言えずにいると。


「トリックオアトリート!!!」


 芹香は先ほどよりも大きな声で言い放つ。私はその芹香の声を聞いて、はっと思い立った。今の時間について。今の時間はまだそれほど遅くないとはいえ夜である。こんな大声を出していられると、近所の人になんと言われることか。


「ちょっと静かに」


 私が焦ったようにそういうと、芹香はいつものように「ごめんごめん」と適当な謝り方をする。なんども聞いた言い方だ、懐かしさを覚える。


「っていきなりどうして?」


 とりあえず若干気持ちがおちついたこともあり、芹香に尋ねる。


「何が?」

「何が?って、なんでいきなり私の家に」

「遊びに来たの。ちょうど近くにきてね、それにせっかくのハロウィンだったしね」


 芹香は屈託のない笑顔で答えた。私はなんだそれ、と思った。芹香とはよく遊んだ仲だ。だが、ここ一年ほどまともに話したことはない。別にけんかしたわけではない。ただなんとなく距離が空いてしまったのだ。関わりがへってしまって、互いに会わないことが増えた。その結果だ。


 だから別に彼女が突然やって来たことを迷惑と思うことはあまりない。別に今日用があるわけでもない。ただ驚きが勝るのだ。なぜ今日なのか、いきなり来たのか。


「てか有希さ、もしかしてなんか今日用あったりする?そしたら帰るけど」


 芹香はそういった。だがその時の芹香の顔と声色に違和感を覚える。帰りたくない、一緒にいさせて、というようなものを少し感じた。いつも明るい彼女には似つかわしくない暗い雰囲気のようなものを感じた。気のせいかもしれないが。


「別に、ないよ」


 私はそう言うと、そのまま芹香を家に上げる。「おじゃましまーす」と芹香は明るく言う。先ほどの暗い雰囲気は消え去る。


「あっというか有希さ。トリックオアトリート」

 彼女はもう一度その言葉を言った。私がえっ?と言って止まっていると。


「お菓子ないね、てなわけでいたずらだーーーー」


 芹香は元気よくそういうと、私をくすぐりはじめる。私は「ちょっ待って」と制止の言葉を言うが、芹香は無視する。


 しばらく私は芹香にくすぐられるのであった。なんとか大きな声がでないように苦闘しながら。


「はあはあ、もういきなり何するのよ」

「いたずら」


 芹香は空中をくすぐるかのように見せながら笑顔で答えた。私はため息をつく。そして、芹香に向かって言う。


「トリックオアトリート」


 芹香はえっ?と戸惑いの顔を浮かべる。私はニヤリと笑う。


「芹香、お菓子ないね。てなわけで」

「待って、有希、ちょっと待って」


 露骨に焦り始める芹香。私はじりじりと芹香に近づきながら言い放つ。


「いたずらね」


 私は今度は芹香をくすぐりはじめる。


 芹香は私のことを配慮してくれたのか、大きな声を出さずに、なんとか耐えようとする素振りを見せていた。


 そして、くすぐりを終えると、私と芹香は笑顔で向き合った。


「もう、有希ひどいよ」

「先にやったのはそっちでしょうが」


 そのまま他愛ない話を続ける。


 私は芹香と前のように向き合える。気まずい感じはない。それどころか楽しめている。


 前のように。


 他愛ない話を一時間ほどして、話が区切れた瞬間、私は芹香に尋ねる。尋ねるかどうかを迷いながらも。


「なんかあった?」


 さっきまで笑顔だった芹香から笑顔が消える。彼女はうつむきながらうんとうなずいた。


「話せそうなこと?」


 芹香はゆっくりと首を振る。


「そっか、じゃあ今日泊まっていきなよ。ちょうどね、最近さゲーム買ったんだよ。昔よく遊んだやつ」


 私はちょうど近くに置いてあったそのゲームの箱を見せる。


「芹香がいつも負けてたやつ」


 私が意地悪くそういうと、芹香は顔を上げる。そして、芹香の暗い顔が一瞬で変わる。


「はいダウト、有希のほうが弱かったでしょ」


 芹香には笑顔が戻っていた。


「えーそうだっけ。私がいつも勝ってた気がするけど」

「私が手加減してたの。そうじゃなきゃ勝負になんなかったの」


 芹香は楽しそうであった。


「言い訳でしょ、それ」

「違うから、もういい。ボコボコにしてあげるから」


 そして、私と芹香は対戦を始める。時折相手を煽りながら、楽しく明るく。


 ゲームは結局私が芹香に勝つことが多かった。芹香曰く「私久々だし、有希は練習したでしょ、いっぱい」と言い訳がましく言っていた。


 そのあとは、眠気が出るまでくだらない話を続けた。


 二人して、あくびが増え目をこする機会が増えると、私は言う。


「そろそろ寝よっか」

「そうだね」

 

 ベッドは一つしかなく、布団の予備もないため、二人で同じベッドに寝ることとなる。前は時折一緒に寝たことがあるので、懐かしさを感じた。


「電気消すよー」


 そう言って私は電気を消す。


 暗い部屋の中、芹香がぼそりとつぶやく。


「ありがと」


 私はそれを聞いて、芹香に向かって言う。何事もなかったかのように。


「また遊ぼうね、おやすみ」


 芹香は涙ぐんだような声で少しして、言った。


「うんまた今度、おやすみ」


 そして、私の意識はまどろみに落ちていく。




「起きろー」


 突然の耳もとの大声で私は目覚める。


「おはよう、芹香」


 私は不機嫌そうに聞こえたであろう声で返す。いつもの寝起きの声だ。


「おはよう、有希。前と相変わらずひどい顔」

「うっさい」


 私がそう返しながら芹香の顔に焦点があっていく。芹香は嬉しそうな笑顔だった。


「じゃあ、私帰るね」

「もう帰るの?朝ごはんぐらい一緒に」


 私がそういうと、芹香は首を振る。


「これから行かなきゃいけないとこあるの、それにもう10時だし」

「えっ嘘」


 私は時計を見る。ベッドの近くにある時計は10時を示していた。


「ふふっ。有希のそのびっくりした顔ほんと面白いよね」

「うっさい。私も行くとこあるから急がなきゃ」


 私はベッドを跳ね起きる。


「頑張れ~有希」

 

 芹香は適当な応援をする。


「もう絶対もっと前に起きてたでしょ。あーもう財布どこだっけ?」


  私は急いで外に出る準備を進める。


「有希、私先に行くね」

「うんじゃあね」


 私は適当に返事する。


「有希、またね」

「またね、芹香」


 私がそう言って、ちらっと芹香の顔を見る。芹香は少し嬉しそうな顔をしていた。芹香は部屋を出ていく。


 芹香に何があったかはわからないが、でもきっと私には力になれたのだろう。私はそう思うと、少し胸が温かくなるのだった・・・


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