第24章 もう泣きません
「ありがと、ありがと。 怖かった、まじ怖かった」
助けに来てくれたビケットの右手を、両手で力いっぱい握っているひろみの瞳から、わっと涙が溢れました。
すると、ビケットが
「すまない。 私は、平田君ではないんだ。 アンタレスなんだ」
「え❗️ あ・・・先生ごめんなさい」
ひろみは 慌てて手を離し、丁寧に頭を下げると、そのまま俯いて しくしく泣き出しました。 驚いて その様子を見つめる、彩野と アンタレス。
「千葉さん、がっかりさせて かたじけなかった。 君は誰よりも、平田君の帰りを待っているんだな。 それなのに私は・・・」
アンタレスが、いったん離したひろみの手を、今度は手袋を外した両の手で 包み込むように握り、静かに語りかけました。
しばらくして、ひろみは 顔を上げると、アンタレスを真っ直ぐに見て、
「もう大丈夫です。 先生のせいじゃないから 気にしないでください。 ビスケット(?)が現れた時、あたい なんだか 蛇に食べられた時のこと、思い出しちゃって。 そうだよ、ここに徹が 助けに来るわけないですよね。 あいつ、ブーメラン持ってないから 変身できないしさ、まだ意識 戻ってないし」
そこまで言うと、また喉がきゅうっとなって、言葉が続かなくなりました。
「ところで先生、なんでここにバタンキュラーが現れたって 知ってたんですか?」
涙を堪える友達を見るのが辛くて、彩野が話題を変えました。
「私も、まさかこんな所で 鉢合わせするとは想定外であった。 今日の夕飯の弁当を買いに寄ったところ、レジで店員が 連中に短剣で脅されていたんだ。 私も 見張の者に捕まりそうになったが どうにかかわして 寺の庭に逃げ込み、急いでビケットになって引き返してきたのだ」
と、アンタレス。
「そうだったんですね。 先生にケガが無くて、ほんとよかったです。 それはそうと、店員の人 大丈夫だったのかしら?」
彩野が気になって コンビニの中へ入っていくと、アンタレスと ひろみも後に続きました。
レジの所では、50過ぎくらいの女性店員が 目を回して倒れていました。 レジのお金を入れる場所は、蓋が開けっ放し。 床の上には、小銭が散らばっています。
「すみません、大丈夫ですか!?」
アンタレスが、店員さんの体をゆすって 声をかけると、その女性が 目を開きました。 ところが、
「ヒヤッ、た、助けて❗️ お金は、全部持ってっていいですから」
突然 ガタガタ震えながら、命乞いをしてきました。 二本の触角の着いた白いヘルメットに、背中から白い翼が生えたコスチュームのアンタレスを見て、さっき自分を刃物で脅してきたグループの仲間だと 思ったのでしょう。
「大丈夫ですよ。 暴れていた人たちは、今 逃げていきました。 この人は かと・・・ファンキー・ビケットのメンバーで、世界中を騒がせているバタンキュラーをこらしめるために駆けつけて来たんです」
彩野が アンタレスの方を右手で示しながら、優しく説明しました。 店員さんは、安心した顔になって
「あらやだ。 すみません、失礼いたしました。 あの、どうもありがとうございました」
そう言って そーっと起き上がって 床に ペタンと座り直すと、頭をぺこぺこ。
「そんな事しなくていい。 このような なりをしているゆえ、不審者と間違われても しかたがない。 どうか 表を上げてくれたまえ」
アンタレスは、店員の女性に 優しく笑って言葉をかけた後、
「それは そうと、どこかケガはないか?」
緑色の真っ直ぐな瞳で、静かに尋ねました。
「はい、大丈夫です。 (荒らされたレジが 目に止まって) あら、大変だ❗️」
店員さんは すぐさま床に散らばった小銭を拾って、開けっぱなしにされたままのレジの中を調べました。
「まずい❗️ お札、きれいに持ってかれちゃってる」
店員の女性は 真っ青になって、頭を抱えました。
「おそらく この店員を襲って 気絶させ、その間にレジを荒らしたのであろうな。 バタンキュラーめ、これまで同様 日本でも押し込み(強盗)を働いて、活動資金に充てているのか」
白い手袋をはめた両手の拳を ぎゅーっと握りしめて、アンタレスが言いました。 いつも優しい緑のその目が、怒りに燃えています。
「そうか、それであの人たち、逃げる時に 私たちと鉢合わせになって、犯行を見られたと思って 切り掛かってきたのね。 恐ろしい人たち」
彩野の背中に、冷たいものが走りました。
「先生、いいえ、アンタレスさん。 あたい、もう泣きません。 この世を悪党から守るためにも、平田君の敵を取るためにも、ファンキー・ビスケット(?)のメンバーとしてがんばります」
ひろみが、赤く泣き腫らした目を 真っ直ぐアンタレスに向け、静かな声で、でも 力強く宣言しました。 ついさっきまで泣いていたカラスさんは、もうどこかへ 飛び去っていったようです。
〜つづく〜
「ファンキー・ビケット」 次回のお話は?
ひろみです。 今日も読んでくれて、ありがとう。
あたい、もうメソメソしないよ。 だって、ヒロインだもの。
泣いてちゃ 戦えないし、徹に笑われちゃうよ。
あたいも頑張るから、徹、早く戻ってきて。
あっ、ヤバい。 次回の予告でしたね。
次のお話では、なんと うちらの学校や 乙女座市が 大変な事に。
時間がないので、詳しくは
第25章 乙女座市 大荒れ⁉️
を 読んでちょ。




