第1章 光るブーメラン
シュー パチパチパチパチ。
乾いた 威勢の良い音を立てながら、青・緑・黄色にオレンジ・・・無数の光の粒が吹き出して、足元を ぱあっと照らします。
河原中に、煙たい匂いが広がります。
夏休み真っ最中の蒸し暑〜い夜です。 いつもよりなんとなく星々が明るい空の下、高一の徹は、クラスメイトで仲良しの 紀矢、ひろみ、彩野と、線香花火をしていました。
「徹、あたいの花火の火 着けてあげる。 ハイ❗️」
「サンキュー」
徹とガールフレンドのひろみは、お互いの線香花火の種火を移しっこして、いいムード。
「うわあ、いいなあ。 ・・・ようし」
それを羨ましそうに眺めていた 紀矢は、
「彩、彩、おいらの花火の火 着けてやるぜ。 ハイ❗️」
なんと種火ではなく、終わりかけの 火の玉が出ている花火の先を、いきなり彩野の方に向けました。
「キャ❗️」
彩野が 慌てて飛び退きました。
「もう❗️ ふざけちゃダメじゃない、危ないでしょ」
「いいムード」どころか、紀矢は 反対に怒られてしまいました。
「ごめん、ごめん。 あれ? おかしいなあ?」
火の玉が終わった自分の花火を バケツの水の中に入れながら、紀矢は 首を傾げました。
と、その時。
ヒュー ドーン❗️ シューシュー ドドーン❗️
お腹の芯まで響くほどの大きな音が、河原中に響き渡りました。
「えっ、雷⁉️ あんなに晴れていたのに?」
徹たちが 空を見上げると、色とりどりの絵柄の打ち上げ花火が あちこちに咲き乱れていました。 ハート、星、羽を広げた妖精、クルクル回る黄色いブーメラン・・・と、どれも珍しい形のものばかり。
しばらくすると ぱったりと花火は終わって、河原は 元の静けさを取り戻しました。 まるで何もなかったかのように、四人の頭の上を、ジェット機がライトを光らせて 真っ直ぐに飛んで行きました。
「あ〜あ、終わっちゃった」
ちょっと名残惜しそうな 徹。
「すごかったねえ。 テレビで見るより ずーっと綺麗だった」
ひろみは、まだ感動で震えています。
「やっぱ こんなおもちゃとは、迫力が違うよ」
さっきまで遊んでいた線香花火を指差して、紀矢が言いました。
「そんなふうに言ったら、花火がかわいそうよ。 みんなで少しずつ買って、持ち寄ったやつじゃないの」
「そうだったよな。 ごめんよ」
紀矢は、彩野に また怒られてしまいました。
「もう 9時 だ。 まだ少し残ってるけど、そろそろ片付けよう」
徹がスマホの時刻を見て、みんなに声をかけました。
四人が支度をして 歩き始めた時でした。
ドカーン❗️
頭の上で、雷の落ちるような 物凄い音がしました。 徹たちが驚いて見上げると、大きな黄色いひらがなが見えました。
「こ れ あ げ る」
「ねえねえ、『これあげる』なんて、何か本当にくれるのかな?」
ひろみが、隣の徹に話しかけました。
「まさか❗️ たぶん 何かのメッセージじゃないかな」
徹が答えた次の瞬間、空中の花火の文字が スーッと消えて、黄色く光る小さなものが四つ、パラパラと四人の足元に落ちてきました。 手を伸ばして拾い上げてみると、それは片手に乗るくらいの大きさのブーメランでした。
こちらが表なのでしょうか? 蠍座の彫刻が施され、左上にアルファベットの『b』の字が 浮き出ています。 表面からは 弱い光が出ており、暗闇にブーメランが ぼーっと黄色く浮かび上がっているように見えます。
「何これ? なんか気持ち悪い」
彩野が気味悪がって、ブーメランを 足元に投げ捨てました。
「くれるっていうんなら、焼肉の方がよかったなあ。 こんなおもちゃ、いーらねっと‼️」
紀矢が、持っていたブーメランを 思いっきり遠くへ放り投げました。
すると・・・。
ピカー❗️ シュルシュル シュルルー❗️
彩野が投げ捨てたやつと,紀矢が放り投げたやつとが フラッシュのように真っ白く光って、一斉に 青白い光の粒が吹き出しました。 と、それにつられて,徹と ひろみが持っているブーメランからも、同じく青白い光の粒が 無数に吹き出してきました。
「みんな逃げて❗️」
四人はブーメランを放り出すと、背中に火がついたかのように 一目散に河原の土手を駆け上がりました。
「あ❗️」
彩野が 土手の芝生でツルッと足を滑らせ、転んでしまいました。
「でいじょうぶか⁉️」
その悲鳴に驚いて 紀矢が振り返ると、四つのブーメランから吹き出した光の粒のシャワーが一つに合わさって、津波のように 徹たちを飲み込みました。
無数の青白い光る粒々が 渦を巻いて、目の前を行ったり来たりしました。 不思議。 真昼の太陽みたいな眩しさなのに、平気で目を開けていられるのです。 どんなに光の粒が激しく回っても、気分が悪くなりません。
次の瞬間、フワッと体が宙に浮いた感じがして、サーっと光のシャワーが引いていきました。 気がつくと徹は、花火の燃えかすを入れたバケツを胸に抱えたまま、土手を上がったバスどおりの脇に 佇んでいました。
(よかった。 助かったみたいだ) ほっとする徹。
「おうい みんなー、大丈夫ー⁉️」
徹が。土手の方に振り返って呼びかけると・・・。
「あれ? う、嘘だ‼️」
ついさっきまで一緒に逃げていたはずの仲間たちが、どこにも見当たりません。 徹の顔が青ざめました。
「紀矢くーん❗️ ひろみちゃーん❗️ 彩ちゃーん‼️」
一緒に 線香花火で遊んでいた 河原。
広ーい土手の周り。
みんなの名前を大声で呼びながら,あちこち探し回りました。
バスどおりを歩いて、彩野が住んでいる団地のそばのバス停まで行ってみました。 でも、どこにも紀矢たちの姿はありません。
そんな徹の目の前を、駅の方から来た赤いランプの最終バスが 通り過ぎていきました。
「紀矢君たち、どこへ行っちゃったんだろう?」
なすすべもなくて、くたくたで,徹は 道端に座り込んでしまいました。
〜つづく〜
「ファンキー・ビケット」 次回のお話は?
今日からスタートした うちらの物語を ご覧くださり、ありがとうございます。 徹です。
不気味な光のせいで,みんなと離れ離れになった僕は、戦闘服っぽいコスプレの どこか怪しい少年と出会います。
意を決して 僕の仲間を見かけなかったか尋ねると、彼は 突然信じられない事を言い出します。
この人は,敵? 味方??
第2章 仲間は どこに?
お楽しみに‼️