《その王子、危険につき……》
とりあえず、完結を目指していきたいと思います!
累々たる屍が転がる中従者のリーリスはその光景を前にして、呆れたようなため息を一つ。彼女の周囲には、もはやガラクタと化した椅子やテーブルと無様に気絶した男達。
まるで嵐が過ぎ去ったかのような悲惨な店内の中央に、彼女の仕える主人はいた。
店内で唯一無事な椅子に腰掛け、これまた唯一無事なテーブルに置かれたコップに口を付け中に入った葡萄酒を飲む姿は、酒場では場違いな午後のティータイムを楽しむ貴族のように見える。
実際は、貴族どころか王族なんですが……。
「あ、あの……」
ひょこひょこと気絶して倒れた男共を跨ぎ、少女が彼におずおずと声をかけた。
彼はコップを置くと視線を移し、その赤い目に少女を捉え。
「ん、どうした?」
くいっと首を傾げ、用件を尋ねた。……が、声をかけたはずの少女からの返事がない。
少し離れた所で会話を聞いていた従者が不思議に思い俯いた少女の顔をさり気なく見ると、少女の顔が彼に負けないほどに真っ赤に染まっていた。
……あ、なるほど。さっきまでゆっくり顔を見る暇なんてありませんでしたね。
少女から理由も聞かず納得する従者。というのも、彼の顔を見てこうなった女性を今まで何人も知っているからである。
答えは、彼の見事に整った容姿にあった。
切れ長の目にスッと通った鼻、男性にしては薄い唇。とりあえず、かなりの美形に部類するであろうその姿。絶世の美女ならぬ絶世の美男子とは、まさに彼の事だろう。
そんな彼を目前に対面して、まだ年端もいかなければ目が肥えているわけでもない少女が赤くなるのは、至極当然だった。
「おーい」
「はっはぅぃ!?」
「何固まってんだ?」
「い、いえっ!なんでもありません!助けていただいて、ありがとうございましたっ!」
ぶんぶんぶんぶん、ぶん。
物凄い勢いで首を横に振った後、ガバッと土下座でもしそうなほど勢い良く頭を下げた。
「―――ん……?あぁ、気にすんな」
少女の言動を前に一瞬、僅かに首を傾げた後片手を軽く振りそう言った。
…………絶対、忘れてましたよね?
一瞬見せた僅かな動作で、リーリスは彼がこの惨状を作り上げる原因となった出来事を忘れていた事を見破ったが、本当に感謝してきている少女の手前、黙っている事にした。
そして納得いくまで感謝した少女は、少し躊躇う仕草を見せた後、掠れそうなほど小さな声で彼に尋ねた。
「あの、お名前はなんというんですか?」
「…………ア」
少女の声よりもさらに低い、低すぎて聞き取れないレベルにまで落とした声量で、彼は答える。
しかしそれが完全に伝わるはずもなく、案の定聞き取れなかった少女は小首を傾げた。
そんな少女の様子を見て「言い辛いのでしたら、私が言いましょうか?」と視線で彼に問いかけると彼は首を振り、ため息をつくと今度ははっきりとした口調で名乗った。
「レイシア」
ピシッ……。酒場中の空気が凍りついた。
周りで様子を窺っていた人達が固まってしまったのを見て、リーリスは内心苦笑する。
顔を赤く染めていた少女も、何事かを考えるような仕草をした後、はっとしたように顔を上げた。
「戦狂王子……」
外野の誰かの呟きが聞こえ、少女は確信した。
と同時に、絶叫した。
「おっ……王子〜〜〜!?」
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