30 あんこ入りパスタライス
ブックカフェ【マギカ】での面接も終わり……そのままお店で、客としてのんびりタイム。
お客様としての気持ちを味わうのも店員には大事だからね。
「むーん、今日は頑張ったなー。普段は三ターン(起床、通学、勉強)のところ、五ターンは消費したなー」
「そりゃあ凄いな、もう立派な社会適合者だ」
「この兄妹……お互い甘やかし過ぎですね……」
「キーッ、お兄ちゃんへの『膝枕』は私の役目でしょっ」
僕ら四人は面接後、二つのソファーがある四人席へと移った。
他の席より離れてる端っこの方なんで、少しくらい会話しても迷惑は掛けないだろう。
僕の隣は妹のヨミちゃん。
疲れたんで現在、彼女に膝枕して貰ってる。
「(パラパラ)ここには普通に料理雑誌とかファッション誌とかガジェット誌も置いてあるんだねー。漫画や小説とかもあるから、こりゃあ無限に時間潰せるぜー」
「客としてならな。店員はそんな暇無さそうだぞ」
「んー」
多忙という程ではなさそうだが、サトウさんはパタパタと常に動き回っている。
ワッフルの補充などもしているんだろう。
「本屋と言えば、サトウさんみたいな眼鏡のお姉さん店員がのんびり本を読みながら店番イメージなのに、そこに喫茶店が合わさると忙しなくなるんだねぇ」
「飲食店はどうしてもな」
「やっぱりバイト嫌になったでしょお兄ちゃんっ」
「諦めが悪いですねリノも……」
「うんやっ、僕の場合、効率良く動いて空き時間を沢山作ってのんびりするよっ。コーヒーも飲みほだしねっ」
「お前そこまでコーヒー好きだったか?」
「普通かな。兎に角っ、このバイトは時間の使い方を学べる良い経験なるっ」
「因みに、効率良く働くって具体的にはどうすんだ?」
僕は「ふふんっ」と膝枕されながら腕を組み、
「まずは働き方改革をしよう。軽食類やコーヒーは作り置き……いや、いっそ飲み物はドリンクバー、軽食類は自販機タイプを導入してオールセルフだよっ」
「そしたら客はもう漫喫行くよっ」
「パソコンが無い分劣化版ですね……まぁこの異国情緒めいた店内という強みはありますが」
「コーヒーとか手作り軽食好きの常連客が消えるのは痛いんじゃねぇか?」
「ったく、オメーらネガティヴな正論ばっか言いやがってよー。なら一応手作りコーヒーと軽食も残しといてやるよ」
「そもそもオメーに決定権ねぇがな」
しかし、お店をグレードアップさせ売り上げを増やした、という経験はきっと将来に役立つだろう。
「君らも考えなよ、このお店を発展させるアイデアを……!」
「なんでそういう流れになるんだ。余計なお世話だろ」
「大喜利みたいな感じで良いの?」
「こうやって余計な手を加えた結果、客が離れたお店も多いんでしょうね」
「ええいネガティブ禁止だっ。じゃあまずは立地面からっ」
「まぁ良くはないな。近くに保育所なりあればママ客でも望めたんだが」
「駅前に移せればお客さんも増えるだろうけど、土地代がねぇ。そもそも移されたらお兄ちゃんも離れるから困るっ」
「このままで良いのでは? そもそも採算を気にしてないかもしれませんし」
「ふむふむ。メモメモ……次っ、別の本のジャンルや他に加えたい要素っ」
「漫画の最新巻とか雑誌の最新号……あとは自分じゃもう買わねぇゲーム誌も有れば読むかな」
「PCは別に要らないかなぁ。なんか寝ながら読めるフカフカソファーが欲しいかもっ。池袋にそういうカプセルホテルあったよね?」
「……仕切り、ですかね。他の客から見えなくなるだけで、本への没入感も変わるでしょうし」
「いいよーいいよー。じゃあ次はメシッ」
「パスタがあれば頼むかもなー」
「あんこっ、あんこサンドッ」
「折角の異国情緒ですし、某有名な魔法学校の作品に出てくるようなメニューなどを……」
そんな感じに、僕らはダラダラと数時間居座っていたわけだが……
「あ、あのー」
ふと、言いづらそうに、店員のサトウさんが僕らの席へとやって来た。
「あっ、サトウさんっ、これっ、このお店に対する意見ですっ」
「あ、ど、どうもです、参考にさせて頂きます…………それで、話は変わるのですが……このお店、十八時で閉まるんです」
「へぇ?」
周りを見ると、確かに、いつの間にかお客さんがいない。
すみっこの席だったから把握しづらかったのもあったが。
「割と早めに閉まるんですね?」
「え、ええ、まぁ。お酒の提供などもしてませんから。お客さんも夜まで居ませんし」
「市内の喫茶店とかは二十二時までやってたりするけど、まぁ住宅地にある個人店だと、閉めるのもこういう時間だよな」
「良かったではないですかリノ。この時間で終わるんなら、彼にバイトを許可しても」
「店員さんっ、私もここでバイトやるっ」
「え、えっ!? ぼ、募集してないです……」
「タダでもいいから!」
「ろ、労基に触れます!」
「やめなさいリノ」
サトウさんに詰め寄るリノちゃんの首根っこを後ろから掴むシノさん。
「諦めたまえリノちゃん。この本屋が求める人材は僕のようなおっとりお淑やかな系のみなのだ」
「くっ! もう従業員の気で居るぜっ。てか誰がやかましい女じゃっ」
「二人ともお淑やかさ皆無ですよ」
「ふぅん、私は違いますって感じだねシノさん。でもクール寡黙キャラとお淑やかキャラは一見近いようで実際は真逆、水と油だぜっ」
「やーいザマァねぇのお姉っ」
「悔しがってる前提で話さないで下さい」
「あ、あの……閉店時間……」
「コイツ採用るとオマケでコイツらがついて来るから、少し考えた方が良いかもな」
「は、はぁ……ですが、『店長の性格』を考えると……」
「あん?」
その後、僕らは店を出て、帰路に着く……つもりだったわけだが。
「お前、今日はウチに来いよ」
「実家かぁー」
「まてぃ! そうは問屋が下ろさんよっ。私が許可しないっ」
「お前は何様なんだよ拉致監禁犯が。……はぁ、なら、『お前らも』来りゃあいいじゃねぇか」
「なにっ」
「私達も……?」
そういうことになりそうだ。




