96日目 採石場にて
●96日目(グリウス歴863年8月8日)
ふと目が覚めると、部屋の中は薄暗かった。
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
横を見ると昨日と同じようにアンジェとマリアが隣で眠っている。
リリーも枕元にフワフワ浮きながら寝ているようだ。
リリーのこの癖はまだ直っていない。
もしかすると、ピクシーと言う種族は皆こうなのかもしれない。
2人を起こさないようにそっとベッドから這い出る。
部屋のテーブルに置かれた水差しからコップに水を少し移し、飲み干す。
窓の外を見ると徐々に明るくなってきているのが分かる。
もうすぐ夜明けのようだ。
そっと、扉を開け部屋を出る。誰もいない廊下を進み、
一番近い出口から外に出た。
外の空気は涼し気で気持ちがいい。昼になればまた、暑くなるのだろう。
大きく伸びをして縮こまった体をほぐす。
しっかりと寝たおかげか体の疲れも全く感じなかった。
「やっぱり睡眠は大事だよね。」
カチャッ。
上の方から音が聞こえた。
見上げると、窓を開けたマリアが窓から顔を覗かせていた。
こちらが手を振ると、マリアも手を振り返してきた。
そしてそのまますぐにマリアは窓を閉めて中に戻った。
入り口の近くには汚れ落とし用の桶が置かれている。
昼間であれば中に水が入っていて布を濡らして、
靴や鎧の汚れを拭きとるのだ。
しかし、まだ朝も早く、中には水が入っていない。
「クリエイトウォーター!」
魔法で水を出して、桶を一旦濯ぐ。少し水を残してから洗浄の魔法を唱える。
「クリーン!」
すると桶が綺麗になり、少し汚れた水が中に残っている状態になった。
その水を捨てて、再び水を出す。
その水で、顔を洗ってすっきりさせる。
そうしていると、扉から普段着に着替えたマリアが出てきた。
「おはよう、アーくん。随分早起きね。」
「ごめんね。昨日はいつの間にか寝ちゃってたみたいで。」
ていうか、なんで謝るんだ、俺。
「そうねぇ、昨日も楽しみにしていたのに。」
冗談交じりにクスッと笑いながら言った。
顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「マリアも早起きだね。」
「そうよ。お風呂から帰ったら、アーくんとリリーが気持ちよさそうに寝てたから、わたし達も早々にふて寝しちゃったからかしら。」
「いや、ふて寝って。」
「冗談よ。」
そう言って、マリアは大きく深呼吸した。
「この季節の朝は気持ちがいいね。涼しくて、風も気持ちいい。アーくんもそう思わない?」
「そうだね。なんか清々しい気持ちになるね。」
空の色が濃い群青色から青に移り変わってくる。
マリアはゆっくりと近づいてきてスッと俺の手を握った。
「ねえ、アーくん。今、私、すごく幸せなの。アーくんのおかげで古い柵からも解き放たれて、素敵な旦那さんにも巡り合えた。全て、アーくんのおかげなんだよ。だから、もしアーくんが何かに悩んだり、困った時は何でも言ってね。私はアーくんの為なら何でもできるよ。私はアーくんを愛してるから。」
マリアが腰を落とし、顔が近づく。
「アーくん・・・」
マリアがそっと目を瞑り、更に顔が近づく。
もう少しで唇が合わさろうとしたその瞬間、
上からカチャっと音がして声が響いた。
「ちょっと、2人で何してるの。」
声が聞こえた瞬間に再び顔の位置が元に戻る。
「あら、おはよう、アンジェ。もう起きたの?」
マリアは何もなかったように上に向かって声を掛けた。
「2人ともそのままちょっと待ってなさい。」
そう言ってアンジェは踵を返して中に隠れた。
そしてすぐに走ってくる音が聞こえ、扉が開いた。
「マリア―。」
アンジェがまるで泣きそうな声でマリアを呼ぶ。
マリアもバツが悪そうに答える。
「どうしたのよ。アンジェ。」
「だって、だって・・・」
少し息を切らせながら、アンジェが言った。
「まだ何もないわよ。」
「でも何かしようとしたでしょ。」
「どうかしら。」
「キスしようとしてたー。」
時々アンジェは子供のような言い方をする。これは最近知ったのだけど。
「それよりもアンジェ、そんな恰好で出てきたら恥ずかしいよ。」
そう、アンジェは寝間着姿のまま降りて来たのだ。
2人の寝間着は何故だかいつも透けるような薄着なのだ。
ふと我に返るアンジェが思わず、顔を赤らめて両手で胸を隠す格好をした。
そろそろ、メイドや小間使いの人達も起きだす頃だろう。
ここで誰かに見られたら一体何の騒ぎかと注目を集めかねない。
昨日買ったバスタオルを出してアンジェに渡す。
アンジェはそれを受け取り、バスタオルを羽織った。
「人目についても何だし、一旦、部屋に戻ろうか。」
了解したようにマリアが歩き出し、アンジェもその後に付いて行った。
俺は小さく吐息を漏らして、この後どうするか悩みつつ、2人の後を追った。
部屋に戻るなり、アンジェが抱き着いてきた。
「アーくん、マリアと何してたの?」
背丈の都合上、アンジェが抱き着くと俺の顔はアンジェの胸に
埋まってしまい、もごもごと声にならなくなる。
「もう、アンジェったら、別に何もなかったのよ。ただ、アーくんと話してただけだから。」
「ホントに?」
しゃべれない中、俺はコクコクと頷くことしかできなかった。
「でもキスしてるように見えたー。」
「してないわよ。もうちょっとだったけど。」
マリア、最後の余計です。
「やっぱり、しようとしてたんじゃない。」
更にギューッと締め付けられる事で息ができなくなる。
慌てて、アンジェの腕にポンポンと手を叩く。
「ほらー、アーくん死んじゃうよ。」
冗談っぽくいうが、マジで冗談では済まなくなりそうだ。
それを聞いたアンジェが一旦腕を緩めた。
ぷはー。大きく深呼吸して息を整える。
それを見たアンジェは両膝をついて、両手で俺の顔を挟み込む。
「アーくん、ごめんね。大丈夫?」
「ああ、だいじょうぶだよ。」
「ホントに?」
そう言いながら、今度はアンジェの顔が近づいてくる。
「ア・ン・ジェ。」
マリアがいつの間にかアンジェの横に立っていた。
もう少しで鼻がくっつきそうな距離でアンジェの動きが止まった。
そして、スッとアンジェは立ち上がる。
2人は見つめ合い、もとい睨み合っているようにも見えたが、
それもほんの一瞬、すぐに2人ともソファーの方に座った。
「なあ、2人とも。何かあった?いつもと様子が変だよ。」
それを聞いた2人がピクンと微かに反応したのは見逃さなかった。
「何もないわ、ねーアンジェ。」
「も、もちろん何もありませんよ。」
しらを切っているようだが、こういう時の腹芸はアンジェは苦手なのだ。
今の答えでアンジェとマリアは何か隠しているのが分かる。
少しの沈黙後、観念したようにマリアが言った。
「もう、アンジェったら、それじゃあ、何かありますよって言ってるのと同じじゃない。」
「ううう・・・。」
「実はね。アーくんが寝た後でね。どっちがよりアーくんに愛されているかって話になって。あっ、もちろんアーくんの事だから同じように愛してくれてるとは思ってるんだけど、話の流れ的にね、そうなっちゃって、だったら、どっちがより多くキスしてくれるかで決めるってなっちゃって、アハ。」
はあー、呆れるように大きく息を吐き出す。
2人を見るとマリアはお茶目な感じで可愛いし、
アンジェは俯いてモジモジしてそれが愛おしく感じる。
いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。
「もー、2人とも同じに愛しているから、こんな事2度としちゃ駄目だからね。分かった?」
「「はーい。」」
「それで、今日は採石場に行って、石材を入手しようと思ってるんだ。」
朝食用に果物と簡単なサラダを食べながら2人に言った。
話は変わるが、最近異空間収納の中で簡単な調理なら出来るようになった。
調理と言っても、焼いたり煮たりといった事は
まだできそうになかったのだけどパンに物を挟んだり、
サラダを作ったりといったものなら上手くできるようになったのだ。
調理スキルをもっと上げればもっと、
色々と出来るかもしれないと思っている。
なので、今食べているサラダは、異空間収納の中で作った物なのだ。
「そういえば、昨日、ユミコさんからという事で、この地図を預かってましたわ。」
マリアが地図を渡してくる。
受け取って、地図を見ると採石場は
フォーテルムーンから真北の山岳地帯にあるようだ。
「この場所なら数時間で行けるね。」
ワイバーン退治で向かった場所にもかなり近い。
「それで2人なんだけど・・・」
「行く。」
「当然、ご一緒しますわ。」
「ただ石材を手に入れるだけだから、別に面白くもなんともないよ。」
「行きます。」
「お邪魔でしょうか。」
「・・・わかった。じゃあ、市場で果物とパンをを少し補充してからみんなで行こうか。」
この部屋を担当してくれている小間使いの人にユミコへの伝言を頼む。
「畏まりました。採石場ですね。お気をつけていってらっしゃいませ。」
小間使いの男は恭しくお辞儀をする。
宿泊している屋敷を出て、大通りへ向かう。
大通り沿いの店が徐々に修繕されてきていた。
その為、いくつかの店では営業を再開している所もある。
被害の大きかった店は、修繕するのに時間がかかっているようで、
工事中の店もある。
そう言った店は、自分達の店の前で露店を開いて営業をしている所も多い。
ただ、品薄である事は変わらず、食料品以外の物価が上がっているのが
多い。
それでも、段々と品薄状態から脱却しつつあり、
価格も徐々に下がっているとのことだった。
そんな中でパンは銀貨5枚分、果物は金貨1枚分を買った。
パンと果物は3人で10日分くらいの量だ。
それというのも、あまり品質が良くなかったので、
最低限の量しか買わなかった。
そのまま大通りを抜けて、郊外へ向かう。
そして、人目が付かなくなった所で、テレポートを駆使して
採石場まで移動することにした。
途中、小休止を入れて数時間。ようやく採石場らしき場所にたどり着いた。
この採石場は山を丸ごと切り崩していて、山が半分近く無くなっていた。
その近くには集落があり、ここに石工職人などが住んでいるとの事だ。
その中に、普通の家とは違う建物がある。
ここが採石場管理組合の建物らしい。
この一際大きな建物に入ると、中には食料品売り場と食事処と
管理事務所が併設されていた。
食料品売り場では最低限生活できるレベルの品揃え程度で、
食事処は、夜には酒場も兼ねているようだった。
今は昼前という事もあり、人は疎らにしかいない。
「こんにちは。」
管理事務所で事務作業をしている男性に声を掛ける。
「こんにちは。どうかされましたか。」
「こちらは採石場の管理事務所ですよね。」
「はい、そうです。」
「紹介状を持ってきたのですが、確認してもらえますか。」
そう言って、ユミコが地図と一緒にくれた紹介状を見せる。
受け取った事務所の男性は裏の封蠟の模様を見て、表情を曇らせる。
「済みませんが、少々お待ちください。確認して参ります。」
そう言って紹介状を持って、奥の部屋に入っていった。
暫くして戻ってきたのは、ドワーフにも引けを取らない
立派な髭を生やした男だった。
「待たせてすまんのう。儂はこの採石場を任されておるジッダじゃ。」
「私はアルスと言います。こちらはアンジェとマリアです。それとリリーです。」
「ほほう、ピクシーを連れておるとは珍しいこったな。それで、石材が欲しいとの事じゃが、随分と量が多いようじゃな。どうやって持って帰るのか分からんが、儂が採石場に案内しようかの。」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
事務所を出て、山の方へ向かって歩く。
前方には切り出されて下半分程になった岩山があった。
その岩山のすぐそばに小屋が立っている。
小屋といっても街中の家一軒以上の大きさがある。
「あそこの小屋は石工職人達の休憩所兼道具小屋といった所じゃ。」
ジッダが小屋を指しながら言った。
「あっちの岩山が建築用に切り出している岩山じゃな。それで、あっちが多用途の石材を切り出している山じゃな。」
建築用の石切り場が下半分程になった岩山で、
多用途用の石切り場が断崖絶壁のような岩山だった。
「それでなんじゃが、今、切り出した石材は需要が多くてのう、職人たちは注文の石材を切り出すので精一杯なんじゃよ。
在庫も全くない状態じゃから、石材を渡したいのは山々なんじゃが、ちと厳しいのじゃよ。」
「それでしたら、自分達で石材を切り出す分には問題ないでしょうか。」
「手紙には、石材を要望通り渡すように書かれてあったけどなあ、あんた方に石切りが出来るとも思えんのじゃが。」
そう言って、ジッダさんは困った表情を見せた。
「たぶん、大丈夫ですよ。許可さえ頂ければ、後は自分達でやりますので、お気になさらず。」
「そうかい。すまんのう。皆には儂から伝えておくから、好きにやってくれ。」
「ありがとう。」
ジッダさんは話を伝えるべく、小屋の方に向かって行った。
「ねえ、アーくん。石って何に使うの?」
アンジェが興味深そうに訊いてきた。
「アンジェ、きっとアーくんはゴーレムの素材として石を所望しているのよ。きっと。」
魔法に詳しいマリアが予想して言った。
「そうだね。マリアの言う通り、ゴーレムの触媒としてこの間のような大きな石を持っておきたいんだ。何かと便利そうだしね。それと、それ以外にも塔の中での設備として加工して何か作れたらいいなって考えてるんだ。」
「何かって?」
「そうだね。例えば、風呂釜を石で作ったら面白そうだなって。それと調理場のシンクや竃なんかがあると便利そうだよね。そう言ったものが造れないか研究するのに多めに石材を取っておきたいんだ。」
「いいですわよね。アーくんと一緒に入れるような大きいお風呂なら歓迎ですわ。」
「じゃあ、大きな石材を手に入れないといけませんね。」
アンジェとマリアが何か盛り上がっているようだが、
とりあえず、建築用の石切り場へ向かった。
そこでは十数人の男たちが石を切り出していた。
その中に先程のジッダさんがいて、男達と話している所だった。
「丁度良かった。アルスさん。皆に紹介しよう、国からの依頼で来たアルスさんだ。今回、石材を持って行かれるということでここに来られたのじゃ。皆、宜しく頼んだぞ。」
職人の中の一人が間髪入れずに答えた。
「しかしよう、今、こっちも手一杯だぜ、ただでさえ仕事が詰まっているのにこれ以上負担はごめんだぜ。」
「大丈夫ですよ。皆さんのお手を煩わせないように、自分達で適当にやりますので、皆さんは皆さんのお仕事を進めて下さい。」
「まあ、そうまで言うなら構わないけどさあ、あんたらで出来んのか?」
「何とかしますよ。」
ニコッと笑って俺は答えた。
「そう言う訳じゃ、皆はそれぞれの仕事に戻ってくれ。」
ジッダさんが言うとそれぞれの持ち場に戻って行った。
「それでは、アルスさん何かありましたら、事務所までお越しください。」
ジッダさんも事務所に向かって帰っていった。
「それじゃあ、始めますか。」
「わたし達は何を?」
アンジェが訊ねた。
「うーん、特にする事ないし、・・・そうだ、お昼ご飯でも作っててくれると嬉しいな。」
「わかったわ。じゃあ、小屋に調理場があればお借りして作ってくるわね。アンジェ、行きましょう。」
マリアがアンジェと一緒に小屋に向かって行った。
「さてと、色々試してみるかな。」
「がんばれー、あるすー。」
リリーがフワフワ飛びながら応援してくれた。
「うん。頑張るよ。」
まず、試したいのは、この岩山の一部をそのまま異空間収納の中に入るかということだ。
「収納!」
シーン。
「だよねー。」
指定が曖昧だし、大きさも不明瞭だから無理だったようだ。
次は魔法だ。
「ストーン・シェイプ!」
すると1m四方の石材が出来上がった。
「よしっ。成功だ。」
「収納!」
しかし、異空間収納には入らなかった。
「あれっ?入らない?」
石材を良く見ると、確かに石材は四角く形を変えたが、底の部分は元の岩石と繋がったままだった。
その為、収納されなかったようだ。
「うーん、・・・そうだ。こうすればどうだろう。」
「ストーン・シェイプ!」
四角い石材が魔法が完了した直後、一瞬動いた。
「収納!」
すると、石材は収納された。
「よし。」
今回は、石材の形を底の部分を少し浮かせたような状態にし、但し、形を変えるだけで切り離せないので
底の部分を基の岩石と細く繋げた状態に変化させたのだ。それにより、形が変わった瞬間、
石材の重さにより細く繋がれた箇所は、押しつぶされる形で崩れたのだ。これによって、元の岩石と変形させた石材部分は
切り離された形となったのだ。
あとは、これの繰り返しとなる。MPが尽きないように気をつけながら回復させつつ、50個の石材を入手することができた。
流石に50個も作ると時間もかかり、そろそろお昼時になりそうだった。
「アーくん、そろそろお昼にしませんか。」
アンジェが呼びに来た。
「ああ、今行く。」
昼食も食べ終えて、再度戻ってきた。今度は、風呂用の石材を取るためだ。
大きさは、石材2個分の長さ2mあれば十分だろう。
これも難なく入手することができた。
次はもう一つの石切り場だ。こちらは石の材質が違うらしい。近くで作業していた人に聞いてみると
こちらの石材は主に建物内の内装用に使用される事が多い石らしい。耐久度は先程の石に及ばないものの
磨くとツヤがでたり、加工がしやすいという利点があるとの事だった。こちらも先程と同様に50個の石材として
入手しておいた。
ここまでで、だいぶ時間を費やすことになってしまった。
「そろそろ、帰ろうか。」
石材を入手したので事務所で待っているアンジェとマリアの所に戻り言った。
「アルスさん、ちょっといいじゃろうか?」
ジッダが事務所でアンジェとマリアに話を聞いた上で訊いてきた。
「何でしょう。」
「実はもし可能であれば調査もしくは危険があれば危険の排除を依頼させてもらえないだろうか。今、このお二方から聞いたのじゃが、アルスさんはAランクの冒険者という話じゃないですか。本来であれば冒険者ギルドなる所に調査を依頼しなさいと国の方から言われておるのじゃがどうにも、勝手がわからんのじゃ。」
この国の冒険者ギルドは創設間もないという事もあり、
なかなか住民の信用を得られていないのが現状なんだろう。
「どんな調査なんですか?」
ジッダに訊き返す。
「実はですな、夜中になると石切り場に得体の知れないものが現れるという話があるのじゃ。今はまだ、これといって被害が出ているわけではないのじゃが、ここの責任者として実態を把握しておきたいというのと、もし、危険があるようなら、予め危険を排除しておきたいと思っているのじゃ。」
「なるほど。その考えは理解できます。それで、石切り場に現れるというのはどんなものなんですか?」
「何人かが目撃しておるのじゃが、皆、話がまちまちでな、良く分からんのじゃ。黒い靄のようなものを見たというものがおれば火の玉のようなものを見たというものもおるし、赤く光る眼を見たというものもおる始末じゃ。もし、引き受けてくれるのじゃったらお金は全くないのじゃが、この採石場で見つけた希少な鉱石をお譲りさせてもらいたいと思っているんじゃがの?どうじゃろうか。」
今はまだ被害も出ていないようだが、今後何が起こるか分からないだろう。
もし、何かあれば石材の供給が減り、色々と問題が発生するのは
目に見えている。
「アンジェとマリアはどう思う?」
「確証は何もないけど、アンデッドの可能性もあるわね。」
「複数人が目撃している以上、目の錯覚でも無さそうね。」
2人が見解を述べた。
「わかりました。ここの石材の供給が止まると何かと問題になりそうですし、いいですよ。俺達で調査させてもらいましょう。」
「申し訳ないですじゃ。よろしく頼んます。」
「今日は、この小屋を1日借りた。ここで調査を進めるから、食事を済ませて順番に仮眠を取っておこう。」
一旦事務所まで戻ったのだが、その後そのまま、石切り場の小屋に戻ってきていた。
「食事は、俺の作り置きでいいかな。」
そう言って、パスタとサラダ、魚の串焼きを異空間収納から出す。
お湯を沸かし、お茶もいれた。
「いただきます。」
リリーは魚よりも果物がいいと果物を食べている。
「こんな何もない所にでるモンスターってなんだろうね。」
「そうよね。アンデッドにしても変だし。火の玉を見たと言っている事から、魔法を使うのか、
もしくは明かりを使うだけの知能がある魔物の可能性もあるわね。」
「とにかく、見てみれば分かるわ。食べ終わったら、アーくんが先に仮眠を取って。その後、わたし達も仮眠をとるわ。」
「そうさせてもらうよ。2時間くらいで起こしてね。」
小屋の中には、休憩用に仮眠がとれる場所があるので、そこで仮眠を取った。
「アーくん、時間よ。」
2時間の仮眠なのでそれ程休めたわけではないが、
まったくね無いよりもマシだ。
「2人は一緒に仮眠取っちゃってくれる?」
「わかったわ。それじゃあ、休むわね。」
「お茶を入れておいたから、眠気覚ましに飲んでね。おやすみ。」
「ありがとう。おやすみ。」
すでに外は真っ暗で、小屋の中も、外に光が漏れないように
薄らとしか明かりを点けていない。
さて、小屋の中だけど索敵だけはしっかりとしておこう。
すぐに索敵を展開する。
今の所、この周囲にはモンスターの類も生物もいないようだ。
それから、約2時間何もないまま時間は過ぎて行った。
「アンジェ、マリア、時間だよ。」
2人の体を揺すって起こす。
流石に2人はBランク冒険者、スッと起きると身支度を整え始めた。
俺は2人の眠気覚まし用のお茶を入れた。
「どうですか?」
身支度を終えたマリアがお茶を受け取り訊ねてきた。
「索敵には何も反応がないね。外も何も気配は感じられないよ。」
「目撃のあったのはこの後1時間くらい経った頃が多いからね。これからだと思うよ。」
そこから更に1時間後、目撃情報の多い時間帯だ。
すると索敵に反応があった。
「いた。」
小声で言った。
索敵のマッピングから確かめる。
「正体が分かったよ。レイスだ。」
まだ、こちらまで距離はある。
ただ、こちらに向かって来ているのは間違いない。
「レイスですか、面倒ですね。」
アンジェがぼそりと言った。
それもそのはず、レイスは実体のないモンスターだ。アンデッドに分類されているが実態が無いため
物理的なダメージは与えられない。弱点は光にもの凄く弱い点だろう。
もし、戦闘になれば魔法以外で戦うすべはないが、俺とマリアの魔法で何とかなるだろう。
ただレイスで恐ろしい攻撃はドレイン攻撃だ。
レイスの接触は生命力やレベルの消失を招くこともあるとマリアが教えてくれる。
「ここは問答無用で、一気にケリをつけるよ。」
ここで防御魔法を発動させる。
「ディテクトエビル!」
「プロテクションフロムエビル!」
「ディテクト・インビジブル!」
「マジックシールド!」
「マジックプロテクション!」
レイスが魔法の射程内に入ってきた所で、マリアに合図する。
「いくよ。」
合図に合わせて俺とマリアは小屋から飛び出す。
真っ暗な闇の中に赤い目をしたレイスがこちらを認識したようだ。
「ホーリーライト!」
初めに唱えたのはマリアだった。
「ワイデンスペル・ハイデンスペル・ホーリーライト!」
少し、遅らせて魔法を発動させた。
レイスは突然の攻撃に一瞬たじろぐ。
更に追い打ちをかけるようにマリアがホーリーライトを発動させた。
これが功を奏したのか、レイスは何もできずに消滅した。
「呆気なかったね。」
よく見るとレイスのいた所には魔石が落ちていた。
それを拾い、異空間収納にしまった。
レイスは山の中から現れていた。
「何故、レイスが山の中から現れたのかは謎だけど、索敵には何も出ていない事から一応、任務達成だね。」
その後、念の為、朝まで警戒していたが、
結局、先程のレイス以外何も現れる事はなかった。




