92日目 帝国の新戦術
●92日目(グリウス歴863年8月4日)
朝靄のかかる薄暗い中、人々の声が漣のように聞こえてくる。
フォーテルムーン法国の庁舎の前、
そこには鎧に身を包んだ騎士達の姿があった。
そしてその一画には一辺が1㎡以上はあろうかという
大きな石材10個程が積み上げられている。
その横には食料や皮や布等の物資が木箱に入って、
これまた、数十という数が積み上げられていた。
「おはようございます。アルス様。」
ゆったりとした衣服に身を包んだ女性が1人の少年に声を掛ける。
「おはよう、ユミコ。運ぶ物資はこれで全部?」
「はい。これで全部になってます。でもこんなに運べるんですか?」
ざっと見ても10台の馬車で運べる量を遥かに超えている。
馬車の中で、1台だけ幌の付いていない馬車があり、
そこにはすでに木箱が所狭しと積まれていた。
「大丈夫だよ。あの馬車の荷物は何を乗せたの?」
あの馬車とはもちろん、幌の付いていない馬車の事である。
「指示どおり、内側の木箱には何も入っていないです。外側の木箱には鉄屑が入っています。向こうで再加工してもらえればと思いまして。」
「助かるよ。囮馬車だから万が一攻撃を受けても鉄屑なら回収も楽だし、痛んでも問題ないからね。じゃあ、早速、物資を仕舞ってしまうね。」
ユミコはコクリと頷くと物資の方に向き直った。
「収納!」
アルスが声を出した途端、そこにあった物資が一瞬にして掻き消えた。
まるでそこには元から何もなかったかのように
綺麗さっぱりと何もなくなった。
「ところでアルス様。言われた通り、石材を用意しましたけど、何に使われるのですか。」
「あの石はね、戦力として使うつもりなんだ。」
「はあ。でもアルス様の事ですから、有効に使われるんでしょうね。」
「アルス殿。」
ユミコと話している所に鎧に身を包んだ一人の騎士が近づいてきた。
「おはようございます。ドリス隊長。」
「おはようございます。騎馬隊の準備は整っております。あとは、弓兵部隊を馬車に乗りこませれば、いつでも出発できます。」
ドリスと呼ばれた騎士は面頬を上げて、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「では、皆さん乗り込み始めて下さい。ユミコも魔法師部隊も乗り込ませるよう、指示を出して下さい。」
ドリスとユミコがそれぞれの部隊に号令をかける。
その言葉を聞いて、各部隊の小隊長が乗車の指示を出す。
「それじゃあ、ユミコ、ルフィン枢機卿。あとは宜しくお願いします。」
「第2次支援物資もなるべく早く出せるようにしますが、ジュノー王国からの補給物資の到着次第なんですがね。」
そう話したのは、ユミコの後ろに控えていた
ルフィン枢機卿と呼ばれる男だった。
「ドリス隊長。先頭の馬車はどれになりますか。」
「一番左手の馬車です。」
「わかりました。俺もそっちに行きます。」
俺の乗る馬車は先頭の馬車の御者席にしてもらっていた。
それというのも索敵で一番早く対応する為でもある。
「では、参りましょう。」
ドリスの騎乗する馬もその馬車の横にあるようだった。
「アルス様、無事のお帰りを待っております。」
聖女と呼ばれるユミコが小さく手を振る。
「行ってきます。」
先頭の馬車に乗り込み、その横ではドリスが自分の馬に騎乗した。
「予定通り、出発。」
ドリスは、部下たちに号令をかけると、まず、騎馬隊の一部が動き始めた。
50騎程の騎馬隊の一部が過ぎたあたりで先頭の馬車が数台、
後に続く様に動き出した。
そして更に後ろに騎馬隊、残りの馬車、
殿にまた騎馬隊と馬車の護衛が付いていた。
通常の護衛であれば、馬車を中心にその前方を騎馬隊の大半が行くのだが、
今回の編成ではあくまで空からの奇襲に備える為の布陣に他ならない。
事情を知らない者が見たら、この輸送部隊の指揮官は
頭がおかしいと思われたかもしれない。
しかし、まだ朝も早く、この部隊の出発を見に来る奇特な街の人は
皆無と言って良かったので、誰一人そのような事を言い出す者はいなかった。
輸送部隊は誰一人会話をする事もなく静かに街の大通りを抜けて
一路東方に向けて歩を進めた。
街を抜けて、しばらく進んだ時に、ドリスが話しかけてきた。
「今回、歩く兵が一人もいませんので、何もなければ夕方頃に到着できると思います。これもアルス殿が物資を運んでくれるおかげですな。」
「わかりました。砦到着直前に戦闘になると思いますので、それを考慮して動いて頂ければ問題ありませんよ。」
「アルス殿の助言通り、対空戦闘をメインに部隊を再編しました。後れを取る事が無いよう心がけます。」
「ええ、ドリス殿にお任せします。」
「ところで、先程、聖女殿と話されていた事で私も気になる事があるのですが、伺ってもよろしいか。」
「何でしょう。」
「あの大きな石の塊は一体何に使うつもりなのか、気になって仕方ないのです。」
「それは秘密です。」
「秘密ですか。」
少し残念そうな表情を見せる。
「いや、別に秘密にすることでもないのですが、あれは魔法を使う際に必要な物なんですが、私も初めて使う魔法なんです。ここで、得意げに話をして魔法が失敗したら恥ずかしいじゃないですか。だから秘密なんです。」
「ああ、なるほど。それでしたら内緒にしておいた方が良いですな。ワハハハ。」
「そういうことです。」
「それにしても、本当にワイバーンが十数体も現れるんでしょうか。」
ドリスは未だ信じられないという表情で訊ねてくる。
「十数体は言い過ぎかもしれないですが、必ず出てくると思いますよ。今まで数体ずつしか現れていないですけど、全て撃退されてますからね。もし、確実に補給路を断とうとしたら、少なくとも片手以上の数が出てくるのではないでしょうか。向こうに使役する数の制限が無ければの話ですけどね。逆にワイバーンの数が少ないと向こうは数で攻めてくる可能性があります。そうなると、逆に面倒な事になりかねないと思ってます。今回こちらには魔法使いが少ないですから、上空から一方的に攻撃されると被害が甚大になってしまって、援軍どころの話ではなくなってしまうでしょう。」
「そうですな。いくら全員弓と槍を装備させていても向こうの方が有利なのは変わらないですからな。それでも気合を入れてやるしかないと腹をくくっております。」
その後、2回ほど休憩を入れ、馬に水分補給と塩を混ぜた飼葉を与える。
3回目の休憩時には早めの昼食を取り、馬も十分に休ませる。
この調子でいけば、数時間後には砦が見えてくる所まで行けるだろう。
「アルス殿、予想以上に早く進めていますが、念の為ここで十分休憩を取ります。その後、砦が目視できる辺りで最後の休憩としたいと考えております。目視できる所から砦まで1時間もあれば辿り着けると思いますが、襲撃予想地点の手前で準備万端な状態にします。」
「わかりました。私もこの先は索敵に専念しますので周囲の警戒と戦闘時の周囲の警戒はお任せします。」
「お願いします。気を引き締めて参りましょう。」
そして、再び行軍を開始する。
前方から1騎の騎馬が駆けてくる。
「伝令。先行偵察より戻りました。この先、砦を目視できる場所に到着予定。敵の姿はありませんでした。」
「わかった。全軍に伝達。ここで、最後の休憩とする。全員腹に軽く何か入れておけ。馬に水を与えるのを忘れるな。」
「了解。」
伝令の兵士は、声を上げながらそのまま後方に駆けていく。
「全軍停止ー。」
後方から停止と休憩の合図が聞こえてくる。
「ここまでは、何もなく来られましたな。」
ドリスは自分の馬に軽く水を与えながら、言った。
「そうですね。ここからは気を引き締めて行きましょう。」
「全軍戦闘準備のまま、行軍開始。周囲の警戒を怠るなよ。」
先程とは違い、長蛇の列で進むのではなく、隊列を横に広げ、
いかにも馬車を護衛しながら進んでいる格好で進む。
この辺りは多少の起伏があるがほとんど平坦と言って良い地形だ。
隠れるような場所はほとんどない。
と、その時である。一人の兵士が叫んだ。
「左手上空から何か来ます。」
パッと左手を見ると空中に黒い点がまるでシミのように浮かび上がってきた。まだ索敵外の為、何かは分からないが
急速にこちらに向かって来ているのは確かだ。
「ドリス隊長。」
「判ってる。総員戦闘準備。急げ。」
「俺が先行する。抜けた奴は任せる。」
「おう。」
「リリーはドリスとの連絡を頼んだ。」
「りょうかーい」
「リリーも気をつけるんだぞ。」
そう一言残し、ワンドを取り出す。
馬車からは弓兵がワラワラと飛び出してくる。
騎兵も弓を出し、いつでも射れるよう準備を始めていた。
「フライ!」
飛行の魔法を発動させて、空中に上がる。
敵の方に向かいながら、防御魔法を発動させる。
「ミサイルプロテクション!」
「ディテクトインビジブル!」
「プロテクションシールド!」
「アースシールド!」
「マジックプロテクション!」
「マジックシールド!」
「ヘイスト!」
「プロテクションフロムファイア!」
「プロテクションフロムコールド!」
「プロテクションフロムサンダー!」
「ディテクト・エネミー!」
「能力強化-全」
ここまで発動させて一気に加速する。
目視で確認すると、敵はインプやガーゴイルの他、ハーピィもいるようだ。
そして、ワイバーンが3体。
「3体だけなのか?」
予想していたより全然数が少ない。
嫌な予感がしたが、目の前のワイバーンをどうにかしなければ、
損害が大きくなるのは明白だ。
飛行速度が比較的早いハーピィが先行してこちらに向かってくる。
インプは飛行速度がそれ程速くないのでハーピィの後方から
少し遅れてやってきていた。
ワイバーンは更にその後方にいたが、流石に速度が速い。
このまま進めばハーピィと同タイミングで接敵しそうである。
となれば、やる事は一つ。
「先手必勝ってね。」
一旦、空中で静止して、ハーピィとの距離を測る。
「ダブルスペル・ウインドストーム!」
先行していたハーピィの群れに2つの竜巻が襲い掛かる。
巻き込まれたハーピィは風の渦の中に消え去った。
それでも竜巻の範囲の外にいたハーピィは竜巻を避けて
こちらに近づいてくる。
ワーバーンも竜巻を避けるように軌道を変えてこちらに向かって来ていた。
「一気に片を付けたいね。」
目標をワイバーンに改め、攻撃を仕掛ける。
「ダブルスペル・マインドブラスト!」
3体の内2体に向かって闇属性の魔法マインドブラストを放つ。
この魔法は精神つまりMPに直接ダメージを与える魔法で
ワイバーンのようにMPが低いモンスターには効果てきめんなのだ。
1体のワイバーンは直撃した魔法によって、
MPを根こそぎ持って行かれて、上空で気絶状態になった。
そのワイバーンはそのまま墜落していく。
この高度から落ちれば、タフなワイバーンでも生き残るのは難しいだろう。
しかし、もう1体のワイバーンは平然としていた。
「レジストされたのか?」
この魔法は抵抗されると何も効果を生み出さない。
しかし、ワイバーンの魔法抵抗力は大した事が無いはず。
今まで魔法に抵抗された記憶もない。
「予め、防御魔法をかけられていたのか。」
今、ワイバーンとの戦闘の為、更に上空へと上がっていた。
眼下にはウインドストームを抜けたハーピィとインプが
馬車の方へと向かっているのが見える。
ワイバーンの1体がこちらを食いちぎろうと突撃してきた。
その突撃を更に上空へと飛んで回避する。
そして追撃に来たもう1匹を回避する。
回避した瞬間、ワイバーンの尻尾が直撃し、そのまま吹き飛ばされる。
ダメージは無かったものの、アースシールドが1発で吹き飛んでしまった。
流石にワイバーンの攻撃力は高い。
吹き飛んだ先で、今度は低ランクではあったが、魔法の攻撃が飛んできた。
マジックシールドでダメージこそないが、
中にはディスペルマジックも含まれていたようで、
ディテクト・インビジブルの魔法が消え去ってしまった。
一気に加速して魔法の攻撃を回避する。
「油断した。インプがこっちに攻撃を仕掛けるとは。」
それでも離れ際にファイヤーボールをインプの群れに撃ち込む。
ファイヤーボールはインプの群れの中で爆発し、
そこにいたインプ十数体は消え去った。
2体のワイバーンも旋回して再びこちらに向かってくる。
ワイバーンに対して後方へ飛びながら防御魔法をかけ直す。
「アースシールド!」
全力で飛べばこちらの方がやや早いようだが、後ろ向きで飛んでいる為、
距離が徐々に詰められていく。
ワイバーンが雄叫びを上げながら、突っ込んでくる。
2体目のワイバーンもこちらに向かって来ようとしていた。
「これでどうだ。」
「フォース・イクスプロ―ジョン!」
突き出して手のひらから光が迸り、ワーバーンに照射されたかと思えば、
照射された場所で爆発した。
雄たけびをあげる為に首を上げた瞬間だった為、
照射されたのはワイバーンの喉元であった。
爆発で首を抉られ、急速に生気を失い、そのまま墜落していった。
その様を見ても、最後のワイバーンが突っ込んでくる。
距離がじわじわと詰められる中、後方から再び低位魔法の攻撃に晒された。
インプの1部がこちらを攻撃するために上空へと上がってきていたのだった。
今度はミサイルプロテクションがディスペルされてしまった。
「テレポート!」
テレポート先はワイバーンの真後ろ。振り返りざま魔法を撃ち込む。
「ハイデンスペル・ダイヤモンドダスト!」
ワイバーンとインプの周囲が急速に冷却され、
小さな無数の氷の結晶が周囲に生まれる。
その氷の結晶が吹雪のようにワイバーンとインプに襲い掛かる。
氷の結晶に触れた部分から氷結状態になり、氷結箇所が一気に広がっていく。
その間も冷気の流れが襲い掛かり、ワーバーンとインプの体温が
急激に低下していく。
一瞬にして凍ったワイバーンとインプは氷の塊となって落ちていった。
そして地面に到達するとワイバーンとインプの体ごと氷が砕け散った。
「くっ。」
流石に高レベル帯の魔法だ。魔力消費が半端なく大きかったせいで、
一瞬立ち眩みのような感覚に襲われた。
「強化する必要なかったかも。」
跡形もなく粉々になったワイバーンとインプを見て、思わず呟いた。
周りを見るとインプとハーピィの残りは馬車に向かっていた。
だが、待ち構えていたドリス達は矢を雨霰の如く射かけていた。
「あるすー。たいへんー。」
「どうした。リリー。」
リリーの念話が飛んできた。
「ばしゃのまえに、あるすのだす、もんがでてきたー。」
見るとこちらとは反対側の前方にゲートが出来ているのが見えた。
しかも2つ。
「なかからいっぱいなにかでてきたよー。」
急いで異空間収納からMP回復ポーションを取り出す。
MPを大量消費した所為で、MPの回復が追い付かない。
取り出したMP回復ポーションを一気に飲み干す。
感覚的にもMPが回復したのが分かる。
「よし。まずは、防御魔法をかけないと。」
インプのディスペルマジックで消された防御魔法をかけ直していく。
「テレポート!」
テレポート先はゲートのある上空。
瞬間移動後に下を見下ろす。
ゲートからは、ゴブリンやオーガーなどがワラワラと出てきている。
かなりマズい状況になっている。パッと見、500体程が現れていた。
「グレートディスペルマジック!」
ゲートに向かって、解除魔法を発動させる。だが、解除できなかった。
ならば、もう一度。
「ハイデンスペル・グレートディスペルマジック!」
ゲートから一瞬光が迸り、霧散するようにゲートが消えた。
「MP回復が追い付かない。」
もう一つのゲートからはゴブリンやオーガー、そしてオークまでも
湧き出していた。
「これ以上は・・・。」
さっき飲んだMP回復ポーションの無効化時間が切れていない。
残り40秒。その間もMPが自動回復してくれるのは有難いが、
敵が出てくるのを指を咥えて待つしかないのは腹立たしい。
いつでも飲めるようにMP回復ポーションを取り出す。
そして40秒経過した後、無効化の表示がステータス画面から消えた。
よし、これで何とか強化した解除魔法を撃てる。
もう一つのゲートに急いで近づいていった。
「ハイデンスペル・グレートディスペルマジック!」
先程と同じようにゲートは消え去った。
MPがほぼなくなった事により、先程と同じように一瞬立ち眩みが起きる。
たぶん、MP自動回復のスキルが無ければそのまま昏倒しているのだろう。
ここは一旦MP回復の為にもドリス達と合流すべきか。
そう判断して、馬車の方へと後退を始めた。
馬車の方へ戻るとすでにハーピィとインプは殲滅し終わっていた。
だが、休む間もなく、ゴブリン共が目前に迫っていた。
「アルス殿。ご無事でしたか。」
ドリスはこちらが戻るなり声を掛けてきた。
「そっちの状況は?」
「重傷者が15名。戦死者5名。損害としては予想外に少なく済みました。しかし、矢はほとんど使い切ってしまい、弓は使えません。」
「こっちも魔法が切れたんで一旦戻ってきた。回復まで時間がかかるからそれまでは魔法の援護ができない。」
「大丈夫です。ここからは我々の本領発揮です。やりますよ。」
そう言って、ドリスは周囲に向かって檄を飛ばした。
「いいか、ここでモンスターの数を減らせれば、俺達の援軍の役目は果たされる。物資はアルス殿が運んでいただける。砦にいる仲間の為にも、家族の住む街を蹂躙させない為にも貴様らの力をモンスターに叩き込んでやれ。ジュノー王国第2騎士団第1騎馬隊、総員騎乗。従卒は魔法部隊の護衛に当たれ。」
「おぉー。」
「ドリス隊長。十分引き付けてから攻撃をしてほしい。今は時間が必要なんだ。」
「了解した。アルス殿はここで回復に専念してくれ。」
兜の中であのニヤリとした不敵な笑みを見せた。
「総員。突撃体制。急げ。」
馬車から離れたドリスは号令をかける。
騎馬隊の面々が各自の持ち場を弁えた様に整列していく。
それを見ながらステータスの確認をする。
MP回復が遅い。
通常なら1秒に1MP回復するはずが2、3秒に1MPしか回復していない。
もしかして。そう思って自身を鑑定する。
ポーション連続服用による副作用。MP回復遅延。残り10分。
マジか。そんな副作用があるのか。前に連続で飲んだ時は気付かなかった。
まあ、あの時は自動回復をあまり期待していなかったし、
次回からは注意しよう。
それよりも、頭がくらくらする。
急激にMPが減ったり増えたりした所為かもしれない。
馬車の近くで腰かけて休むことにした。
そうすると、魔法部隊にいた一人の女性が近づいてきた。
「アルス様、お怪我はありませんか。」
「ん?君は?」
「魔法部隊に所属してます、カローナと言います。もしお怪我をされているようでしたら回復魔法で傷を癒しますけど。」
「カローナさんね。大丈夫。傷は受けてないよ。今はMP枯渇中でね。回復を待っているんだ。」
「そうでしたか。でしたら私のMPを譲渡しましょうか。」
「・・・いや、いい。カローナさんはもしかしたらこの後MPを使う必要が出てくるかもしれないから。俺は時間が経てば回復できるから気にしないでくれ。」
「それなら良いのですけど。」
「それよりも頼みがある。カローナは目はいい方?」
「はい。田舎育ちでしたから、目はいい方だと思います。」
「そうか。今、敵はどのくらいいるか凡そでいいから教えて欲しいな。」
「私、背が低いので、ここからでは見えません。」
そこでようやく顔を上げてカローナを見た。
カローナは、白いローブを身に纏い、杖というかスティックを持っていた。
スティックの先には六芒星のような飾りが付いていて、
まるで魔法少女のように見えてしまった。
魔法少女というのは、勿論、前世でのアニメのやつだ。
年齢は13、4才と言った所か。
目鼻立ちがしっかりしていてブロンドの髪をあげて結ってある。
あと数年もすれば美人になるに違いないと思った。
「アルス様?」
一瞬、呆けていたようだ。
「ああ、そこの御者台に乗っても見えないか?」
「それでしたら見えると思います。」
そう言って、御者台に登った。
「良く分かりませんが、2000くらいでしょうか。」
やっぱり、そのくらい出てしまっていたか。
「さっきの門みたいなのは出ているか?」
「いいえ、ありません。」
「そうか、ありがとう。」
カローナは御者台から降りてきた。
「ところで、カローナ。あれだけのモンスターを目の前にして怖くはないのかい。」
「いいえ、怖いです。でも私は聖女様と共に神に仕える身。これも神が与えた試練だと思っています。それに、あちらには、一緒に修業した仲間もおりますので。」
そう言って、後方を見た。
その方向を見ると、カローナと同じ世代と思われる者が数人いた。
それも全て女の子だ。
その周りには老若男女居合わせているが、一際目についた。
「ユミコの奴、こんな若い子を戦場に連れ出しやがって。」
思わず、ボソッと呟いたのだが、カローナはそれを聞いたようだった。
「アルス様、わたし達は聖女様に命令されてここにいる訳ではありません。聖女様を悪く言うのはやめて下さい。わたし達は自分達で考えて決めて、ここにいます。」
カローナは少し涙ぐんで必死に訴えた。
ああ、そうか。色んな意味で勇気ある娘なんだな。
「ごめん。言い過ぎた。さあ、もう、みんなの所へ戻りな。みんなが心配してるよ。」
そう言って、立ち上がる。ようやく体調が元に戻ってきた。
カローナは不思議そうな顔をしながら一礼してみんなの所に戻って行った。
「リリー。」
「なーに、あるすー。」
「俺が戻るまであの娘達を守っていてくれ。」
「わかったー。」
そういうと、リリーはフワフワとカローナ達の方へ飛んで行った。
「総員、突撃ー。」
遠くからドリスの号令が聞こえてきた。
ドドドド・・・。
馬が駆けだしていく音が鳴り響いた。
MP回復遅延解除まで残り7分。
「任せっぱなしもどうかだし、たまには自分の足で戦場に向かうか。」
前線では、騎馬隊による攻撃が繰り返されていた。
騎馬隊の周りにはゴブリンしかいないので、騎馬隊が優勢に戦えている。
ゲートから出てきたモンスターは陣形も何もあったものじゃない。
ただ雑然といるだけで、そのほとんどが遊兵と化していた。
オーガーもゴブリンが邪魔で身動きが取れず、
オークも結局はごく一部が現れたに過ぎなかった。
ゲートを先に消せたのは幸運というほかない。
今回は出し惜しみ無しで行くつもりだ。
右手には雷神剣、
左手にはドワーフ謹製のミスリルショートソード、
魔法の発動体は指輪を装備した。
MP回復が遅延しているとはいえ、低ランクの魔法であれば、
そこそこ打てるだけのMPは回復した。
ふと周りを見ると、敵が徐々に広がっているのが分かった。
これは意図的に広がっているというよりは進む場所が無くて、
必然的に広がり始めたと言った方が正しいように思えた。
それというのも、指揮官らしい指揮官が見当たらないのだ。
これもゲートを消滅させたからかもしれない。
さて、このまま広がると、馬車にいるカローナ達に
身の危険が及ぶ可能性が高い。
俺は、騎馬隊とは別の場所で戦った方が効率が良さそうだ。
となると、一番右端からがいいだろう。
ここが馬車から最も近いというのもある。
それにオーガーもそっちにいる率が高いようにも見える。
「フライの効果は残り1分か。ならば。」
一気に低空で加速する。
走っていけばゆうに数分は掛かろうかという所まで
ほんのわずかな時間で到着した。
ここから押し込めば馬車は安全になるだろう。
MP回復遅延解除まで残り6分。
まずは、魔法による先制攻撃。今回は手数で押していこう。
範囲魔法でMP消費が一番少ないのは、ライトニングだ。
射程は約50m、直線状の敵にダメージを与えられる。
ファイヤーボールも範囲魔法だがMPコストがライトニングより
1ポイント高い。
ストーム系なら、集団に対して効率はいいが、MPコストが高い。
使うとしても、MP回復遅延が解除されるまでは使わない方がいいだろう。
などと考えている内に、敵のゴブリンがこちらを見つけ向かってき始めた。
敵を十分引き付けて敵が10m付近まで来るのを待つ。
そして戦闘の敵めがけて魔法を放つ。
「ライトニング!」
バリバリッという音と共に雷撃が迸る。
ゴブリン程度では俺の魔力値の高さから余裕で倒すことができる。
案の定、ライトニングが走った直線状ではすっぽりと穴が開いたように
ゴブリン共は消え去った。
それでも数の暴力に物を言わせて、突っ込んでくる。
しかし、無詠唱で発動できる俺には無謀であるとしか言いようがない。
「ライトニング!」
バリバリバリッ。
「ライトニング!」
バリバリッ。
「ライトニング!」
バリバリバリッ。
「ライトニング!」
バリバリッ。
流石に5回も連続でライトニングを放つと
突撃してくるゴブリンはいなくなった。
敵わないと見るや我先に逃げ出そうとする。
しかし、その後ろには他のゴブリンがいて思う様に逃げられない。
パニックを起こしたゴブリンは味方のゴブリンを斬りつけて逃げようとする。そこへ、ライトニングが襲い掛かる。
そのパニックはどんどん広がり、ある意味ゴブリン達は
恐慌状態に陥ってしまった。
パニックになりこちらに向かってくるゴブリンもいたが、
悉くライトニングの餌食になり、更にその攻撃は他のゴブリンを
巻き込む結果となった。
予想外の士気の低さに今度はこちらが戸惑う事になった。
逃げ場を失ったゴブリンは今度は騎馬隊の横をすり抜けようと
逃げ出し始めた。
戦意のないゴブリン達だが、逃がせば法国の村落に
被害が及ぶ可能性が出てくる。
それをさせない為、騎馬隊は横一列に隊列を変え
ゴブリンが後方に逃げ出さないよう必死に戦う事を余儀なくされた。
それでも全てを倒すのは不可能で、バラバラになったゴブリンは
1匹また1匹と後方へ逃げていった。
騎馬隊も本音で言えば追いかけたかったが、
目の前のゴブリンに対処するので精一杯となり、見逃すほかなかった。
そして暫くすると、砦方面からも援軍が出てきたようで
戦闘の音が聞こえ始めた。
前後を挟撃される形となったゴブリンは更に恐慌状態に陥った。
オーガーは恐慌状態にはなっていなかったが
右往左往するゴブリンが邪魔で全く身動きが取れずにいる。
オークは砦から出てきた援軍に対して戦闘を仕掛けようと試みたが、
数的にも不利でしかも混乱したゴブリンがやはり邪魔で
まともに戦う事すらできずにいた。
ライトニングで追い打ちをかける事、数回。
ようやく、MP回復遅延が解除された。
結局、相手はゴブリンが大半でオーガーも大した数ではなかったので
魔法だけで残りを殲滅していった。
終わってみれば、こちらの被害はそれほど大きなものではなく、
圧勝となっていた。
その後、騎馬隊の一部が逃げ出したゴブリンを追って離脱する事になった。
逃げ出したゴブリンは後方にいた馬車の者達によって、
ある程度、数を把握されていたので問題は無いだろう。
「リリー。」
「なぁにー。」
「馬車の人にもう安全だから、こっちに合流するように伝えてくれるかな。」
「わかったー。」
馬車の居残りチームを呼び寄せてる間に、魔石を回収していく。
まず、周囲を魔石限定で鑑定する。
すると魔石の位置が分かるので、そのまま異空間収納でしまっていく。
こうする事で、わざわざ拾い上げなくてもいいのだ。
薬草採取時に見つけたやり方だ。
魔石を回収しながら歩いていると、
砦の方から手を振って駆け寄ってくる2人の姿が見えた。
「アーくーん。」
駆け寄ってきたのはアンジェとマリアだった。
2人は近づくなり、ガシッと抱き着いてきた。
「よかったー。やっと会えたぁ。」
「聞いてよ。バッシュって酷いんだよ。わたし達の事返さないって言って、勝手に帰ったら反逆罪で捕らえるとか言いだすんだよ。」
マリアはブーブー文句を言っている。アンジェは抱き着いたまま離れない。
「アンジェ、ちょっと、痛いって。鎧が当たってるって。」
アンジェの鎧は魔法の鎧で多少露出が高めだが、防御性能は破格だ。
露出が高いと言ってもいやらしくない程度なのだが
スタイルのいいアンジェが着ていると多少目のやり場に困るのも確かだ。
ようやく、自分の鎧が当たってるのが分かったのか、
ごめんなさいと一言言って、離れた。
「マリアも王国随一のBランク冒険者なんだから、仕方ないだろ。」
そう言って、マリアの文句を止める。
「判ってるわよ。ちょっと文句を言いたかったの。」
「話は砦に帰ってから詳しく聞くから、とっとと砦に入ろう。」
砦に行くと入り口ではドリスがわざわざ待っていた。
「アルス殿、凄かったですよ。私は感動しました。流石Aランク冒険者ですな。ゴブリン共をなぎ倒す姿はまさしく英雄。あの雄姿は忘れませんぞ。ささっ、どうぞ、私めがご案内します。」
ドリスは意気揚々と中に入っていく。
俺達も流れ的にドリスの後ろを付いて行った。
続々と入城する騎士団に混じって砦に入城する。
砦内では喝采が鳴り響き、少なかろうと援軍が来たことに喜び合っていた。
砦で出迎えてくれたのはバッシュ司令官だった。
「よく無事に来てくれた、ドリス隊長。戦力を損なわず、見事であったぞ。」
「はっ。これもひとえにアルス殿のおかげかと。」
「何を言う。貴殿がゴブリン共を漏らさず打ち取ったのは紛れもない事実。改めて礼を言う。」
「勿体ないお言葉。これからも精進して参ります。」
「うむ。そして、よく来てくれたアルス殿、こちらが援軍を出せない状況下で敵を潰走させる獅子奮迅の働き、流石と言うべきか。」
そういうと、バッシュはニヤッと笑った。
明らかに最初から俺が来るのを予測していたかのような笑みだった。
まあ、その為にアンジェとマリアを足止めしていたのだろうけど。
「全員聞け。ようやく援軍の第一軍が来た。人数こそ多くはないが、あのゴブリンの大軍を一掃せしめた兵達だ。そして、一騎当千の小さな英雄Aランク冒険者のアルスも駆け付けた。耐える時期は過ぎ去った。今後は討って出るぞ。」
うぉーという歓声が鳴り響いた。
「各自、いつでも出撃できるように準備せよ。解散。」
それを合図に持ち場に戻る者、知り合いが無事か確かめようとする者、
休むために寝床へ戻る者などと人が散っていった。
援軍でやってきた者達も分隊ごとに寝床の場所を案内されていった。
「ドリス、アルス殿、こちらに来てくれ。」
バッシュ司令官は臨時に設けられた天幕の中に案内した。
大きな天幕の中には大きなテーブルと椅子が用意されていた。
「掛けてくれたまえ。」
全員が席に座る。ここにいるのは、バッシュ司令官、ドリス隊長、
ブレン法国軍司令官、俺とアンジェとマリアだった。
「アルス殿が予想より早くこちらに駆けつけてくれたのは嬉しい誤算だった。ワイバーン退治に向かったと聞いていたから、もう少し時間がかかると踏んでいたんだがな。」
「俺がこっちに来るよう、アンジェとマリアを足止めしていたくせに、よく言うよ。」
流石に皮肉の一つも言いたくなる。
「お前が来なくても、Bランクの冒険者のアンジェとマリアをみすみす返すわけなかろう。現に2人の働きで我々は大きな損害を出さずに済んだ。これでも2人には感謝しているんだ。それに今は戦時下に入っている。冒険者ギルドからの命令を出させることも可能なんだぞ。」
冒険者ギルドは本来独立組織なのだが、
戦時下に入ると所属しているその国に協力する事が決まっている。
その為に平時から冒険者ギルドの運営に対して、
補助金や融通を利かせているのだから。
そんな事は百も承知だ。新人の時にそう説明されている。
だが、Aランク冒険者のアルスは別である。
国家に対して中立を申し出る事も可能なのだ。
Aランク冒険者とはそれほど力のある者だから、
自分の信念や自分が為したい正義の為に動くことを許容されている。
だからこその皮肉なのだ。
「それで、状況は?」
バッシュ司令官に状況を訊ねた。
「お前達がランゴバルドに戻った日から、冒険者の自由出撃を認め、モンスター狩りを行ってもらっていた。ただし、条件としては、必ず毎日砦に帰還するというのが条件だがな。そこでほとんどの冒険者がモンスター狩りに出て行った。さすがは冒険者と言った所かそれなりの成果を皆が持ち帰ってきた。冒険者の嗅覚という者は凄まじいものだな。更にその翌日からは当騎士団からも偵察を出していった。主に帝国領方面だな。そこで帝国領内から進攻しているモンスターの軍団を運よく見つけることができた。そこで次の日からは冒険者のモンスター狩りを中断させ、警戒に当たらせた。ただ、敵の数が1万以上と報告があったから、もう少し時間的余裕があると踏んだのだが、お前達も見ただろう。あの大きな門が目の前に現れたのだ。そこからモンスターの軍勢もそうだが、帝国兵も現れた。その数2万といった所だ。そして後方に援軍要請を出しつつ、防衛強化の為に奔走する事となった。そして、敵が攻めてきたのは昨日の明け方に近かったと思う。」
「思う?」
「ああ、空を見てくれ。敵が奇妙な門から出てきた後から、ずっと空に厚い雲が覆っているのだ。常に薄暗くなっていて一向に晴れる気配はない。たぶん、魔法だな。」
そう言えば、こちらに向かう前は晴れていた、こちらに近づくにつれて、
曇ってきていたのだったな。
全く気にしていなかった。
ん?あー、そう言えば戦闘前にディテクト・マジックを
かけ忘れていたのに気付いた。
目の前の敵がゴブリンだったから、かけ忘れたのだと思う。
いかんいかん、慢心は良くない。
ああいう集団先頭の時はかけ忘れが命取りになるかもしれない。
今後、気をつけよう。
「どうした?」
全員が俺を見ている。
「ああ、ごめん。何でもないよ。それで?」
「大軍と言っても、こちらは橋の出城での防戦だ。敵がいくら多くても、相手は遊兵を作るだけだしな。ある程度の期間なら防衛する事に問題はないと踏んでいたし、事実として防衛出来ていた。敵も間断なく攻撃を仕掛けてきたが、こちらも交代しながら防衛していた。長期に渡れば流石に疲労はこちらの方が上だろうが、援軍さえくればそれも解決すると考えていた。そして今日になっ、再び門がこちらに現れたのだ。初めは援軍かと思ったが、援軍が来る気配もなく、逆にそこにいたゴブリンやオーガーが門の中に消えて行った。俺はこの時ようやく撤退したのかと思ったが、戦場では攻撃の苛烈さが増したと報告を受けたのだ。敵の考えが読めない中、今度は後方から門が現れたと報告が入った。俺はてっきり挟撃されたと思ったが、早ければそろそろ援軍が来てもおかしくはないとも踏んでいた。だが、後方の砦は、こちら側よりも堅固に作られていない。そちらの防衛を破られれば、一気に壊滅するのは間違いない。その為により多くの兵を後方に向ける必要もあったのだが、後はお前たちの方が分かっている事だろう。」
この話を聞いて、ゲートを消滅させることができなかった場合は、
こちらが壊滅させられていた可能性が高いことに気付かされた。
そして問題はゲートの魔法を使った奴がいるという事だ。
正直、ゲートの魔法を使えるのは俺だけだと思っていた。
それというのも、ゲートの魔法を憶えたのはLv22になった時だ。
あの時は、全属性の魔法が全てLv10となった時で、
その時のどれかがキーとなって取得した魔法だと思っている。
ジュノー王国の宮廷魔術師は全属性を使えていたが、
最高がLv3だったと記憶している。
まあ、全属性が使えるのもレアだとは思うが決してレベルは高くない。
マリアも光属性がLv4、水属性がLv2だし、
他に魔法スキルのLvが高かったのは
意外にも大地の牙のテトリアが火属性Lv3だったのを記憶している。
ただ、一度蘇生した後にLv3の魔法が使えないと言っていたので
Lv3だったのは間違いないだろう。
なんでも知っているけど使えないとか言っていたかな。
つまるところ、Lv5以上の魔法スキルを持った者を
今まで見た事が無いのだ。
ちなみにユミコはレベル表記が無かった。
ユミコは特殊過ぎて参考にならない。
「あの門はゲートという魔法だ。」
「ほう。ゲートというのか。どんな魔法なんだ。」
「簡単に言えば、自分の知っている場所や見える場所に魔法の門を作り、そこを通過すれば目的地に到着できるという魔法だよ。」
「つまり、敵の大将の目の前に大軍を送り込める魔法という事か?」
「目の前の場所をはっきりと記憶していればできるな。」
「そうか。その魔法はどの魔法使いにでも覚えられるのか?」
「無理だろうな。基本的に。高位魔族やエンシェントドラゴン辺りなら使えるかもね。」
「そうか。それなら、考えるのはやめよう。で敵にそれを使える奴がいる。魔法で攻撃してこない理由は分からんがかなりの強敵になるのか?」
「かなり?いや、非常に危険だよ。」
何せ、少なくとも属性のどれか一つは魔法Lv10のはずだから。
「勝てるか?」
「どうだろうね。勝てる自信があるかないかなら、自信はないかな。」
あそこにゲートを出したという事は、
あそこを深く認知しているか直接見ていたことになる。
ただし、入り口のゲートは敵陣の中。
つまり、術者はその近くにいたことになる。
そして出口のゲートは何の変哲もない場所。
曖昧な場所ではゲートが出ない事は何度も実験済みだ。
「うん。かなりの強敵だね。」
深く考えを巡らすのをやめて、顔をあげる。
全員が不安そうな顔をしているのがわかる。
「まあ、出会わない事を祈ろう。」
我ながら、つまらない言葉で締めくくってしまった。
「それで、今の兵力はどのくらいなの?」
「こちらは軽傷者が200名ほどで死傷者は十数名だ。対して敵はゴブリン共を1000は倒しているはずだが見た目全然減ってないな。」
倒しても倒してもキリがないというのは精神的に疲れるだろう。
いや待て。
「そう言えば、倒した後の魔石の回収はどうしているんだ。」
「そんな事できるわけなかろう。防壁の向こうは敵だらけなんだぞ。防壁を越えたらあっという間にやられるに決まってる。」
「だから減ってないんだと思うんだよね。」
「どういう事だ?」
「帝国のモンスターは魔石を基に造られている、もしくは召喚されていると考えられる。つまり、魔石が敵に回収されれば。」
「そうか、また生み出されるという訳か。」
「正解。そして今回、相手を精神的に疲労させるのが第一段階の作戦なんじゃないかな。そして元々の作戦は後方支援の遮断。今回は退けられたけど、次の補給物資や援軍がこの作戦で攻撃されれば無傷では済まないかもね。」
「それはマズいな。どうしたらいいと思う。」
それを考えるのが司令官でしょうに。
まあ、魔法については昔の俺以上に素人っぽいし、仕方ないか。
「攻撃に出るべきでしょうね。いつまでも相手のいい様にやられるのは得策じゃないですよ。」
「そんな事は判ってる。外が敵で溢れ返っている中、どうやって攻撃を仕掛ける?」
「今回使えそうなものをいくつか法国に用意してもらいました。使えるかどうかについてはこの後調べてからになるけど。」
「わかった。アルスは好きにやってくれ。どうせ、俺達には考えも及ばないような奇天烈な事でも考えているんだろう。」
「奇天烈とは心外な。そんなに変な考えじゃないですよ。」
「俺達はいつでも進撃できるように準備だけは進めるからな。目途が立ったら教えてくれ。取り敢えず、みんな疲れただろう。一度、休んでくれ。」
会議は終了した。
「アーくん、やっと終わったね。」
アンジェとマリアが部屋に案内するというので、一緒に付いて行った。
「2人とも無事でよかったよ。大丈夫だった?」
「戦闘は問題ないわ。戦闘はね。」
そう言うアンジェは大きく溜息をついた。
「アンジェはというか、わたしもだけど、言い寄ってくる男が多くてうんざりしてるのよ。ここって、女が少ないでしょ。それにアンジェの格好も男を誘っているような格好だしね。戦闘よりそっちの方が面倒この上ないわ。」
「もういいわ。せっかくアーくんと会えたのに、変な事思い出させないで。」
アンジェはマリアにふくれっ面を見せた。
「さあ、ここが部屋よ。どうぞ入って。」
中はそれほど大きくはないが、大きなベッドと
粗末ではあるが簡易な家具も置いてあった。
なんかワンルームのアパートって感じだな。
「今日はアーくんもこの部屋で私達と一緒に休むのよ。」
マリアは平然と言った。
「えっ?なんで?」
「部屋の数もベッドも足りてないのよ。最初はベッドも一人用で作ってたみたいだけど、資材が足りないからって言って大きなベッドを共有して使う事になってるみたいなの。ちなみにこの部屋は本来3人部屋。周りが3人部屋を2人で使ってズルいとかなんとか言われてるのよ。今までもう一人の仲間がすぐ来るからって言って凌いでたんだけど、これで安心ね。」
「・・・他に部屋ないの?」
「ないわよ。冒険者チームは基本的に同じ部屋になってるみたいよ。」
はあ、そんな事じゃ文句も言えないか。
椅子に座り、これからやろうとしている事の再確認をする為に、
メニュー画面を開く。
他に人には見えていないから、
最初はアンジェとマリアにも変な目で見られたが、
今では特に何も言われなくなった。
「じゃあ、わたし達も今日はもう終わりだから着替えるわね。」
「ああ、そうし・・・」
思わず顔をあげると、2人が鎧を脱ぎ始めた。
何故かその時、音を立てててゃいけないような気がして思わず、
口に手を当てる。
そして、そっと、後ろにクルリと回った。
ドキドキドキ。
前はこんな事なかったのに、多少ドキッとした事はあるし、
気持ちが多少高ぶった事もあったが、それだけだった。
それが今はどうだろう。これは高ぶるというより
欲情に苛まれてる感じがする。
もしかして精神年齢が若返ってるのか?
モヤモヤと自分の感情を処理できないでいると後ろから声がかかった。
「どうしたの?アーくん。」
アンジェとマリアが不思議そうな顔をしている。
「ん、何でもないよ。」
そう言って、画面の方に注意を向けようとした。
「あー、もしかしてアーくん、やっとわたし達の魅力に気づいちゃったのかな?」
こういう時のマリアは勘がいい。
「な、なに言ってるんだよ。いつも2人とも魅力的だろ。」
てか、俺、何言っちゃってるんだ。
「えー、ホントにー。本当にそう思ってるのー。」
そう言いながら近づいてきたマリアは俺の後ろから抱き着いてきた。
「マリア、ズルい。」
そう言って今度はアンジェが前に来て立て膝になる。
「わたしも。」
そう言って、ガバッと腰に手を回し抱き着いてくる。
「ちょっと、2人とも離れて。ってアンジェ、人のお腹に頬ずりしないで、マリアも人のほっぺと頭を撫で回すの辞めてくれ。」
「あー、アーくんの匂いだー。」
「この肌触りいいわー。」
「二人とも離れなさいー。」
ようやく解放された俺はドッと疲れを感じた。
「ケチ。」
「いいじゃないねー。減るもんじゃないし。」
マリアさん、そのセリフは普通、逆ですけど。
「じゃあ、アーくん、わたし達は食事の準備を手伝ってからご飯を持ってくるから、それまでゆっくり休んでて。」
マリアがアンジェを促して部屋を出て行った。
そう言えば、何でいつもマリアが後ろから抱き着いて、
アンジェが前から抱き着くんだろう。
っていうか、そんなのはどうでもいい。
今は、召喚魔法について再チェックしておかないと、
失敗できる量の素材はないんだから。
そして画面を見ながら、素材の数や、消費する魔力量や
召喚できる魔物について調べられるだけ調べた。
概ねチェックし終わると、アンジェとマリアが食事を持って戻ってきた。
その日の食事はお互い何があったか話しながらの食事となった。
リリーを含め4人でのゆっくりとした食事は楽しい。
アンジェの言い寄られた話やマリアの男をあしらう決め台詞など、
久々に笑ったようにも思えた。
アンジェとマリアとパーティを組めて良かったとつくづく思わされた。
「前言撤回。」
ベッドで俺の両脇には下着姿のアンジェとマリアが俺の腕を取って寝ている。しかも足まで絡みつかせてくる始末だ。
これじゃあ、縛られているようなもんじゃないか。
全く身動きが取れずにいた。
「俺が成長した暁には、立場を逆転させてやるぞ。」
「アーくん、早く寝よー。むにゃむにゃ・・・」
「アーくん、かわいいー、スースー・・・」
なんだ寝言か。そう言ってアンジェの方を見る。
あまりの顔の近さに反対側を見る。
ちょっ、マリアも近いって。
天井を見ながら、フワフワ浮いているリリーが目に入る。
最近、リリーはどうやら夢を見ている間、フワフワと浮くことがある。
夢遊病ならぬ浮遊病と勝手に言っている。
そして夢を終わるとゆっくりと下に降りてくるのだが、
このまま降りてくると・・・
「ちょっ・・・」
べちっ、人の顔の上に落ちやがった。
口と鼻が塞がれなかったのは不幸中の幸いだが、
多分数時間はこの状態のままだろう。
もう、どうにでもなれ。リリーが顔にへばりつく前に目を閉じたので
もう開ける事もできない。
そして、いつの間にか寝てしまうのはいいのだが、
きっと明日の朝は体がガチガチになっている事だろう。




