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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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91日目 帝国再侵攻

●91日目(グリウス歴863年8月3日)


今日は朝からフォーテルムーン法国の首都ガーベルの郊外に来ている。

昨日の食事の時に街の名前を初めて知った。

以前は、アークスという名前だったらしいのだが、国名も変わったので、

首都の名前も変えたらしい。

ちなみに、ジュノー王国の王都はランシェルというらしい。

今まで街の名前なんか気にしなかったから

聞いていたかもしれないけれど、これからはしっかりと覚えておこう。

それで郊外に来ている訳は、昨日新しく取得したスキルを確認する為だ。

郊外と言っても、田園地帯が広がっているので、

所々にある森で比較的大きめの場所に来ていた。

それというのも、なるべく人目が付かないようにしたいからだ。


手始めに二刀流から始める。

以前試した事はあるのだがスキルが無くても

2本の剣を振り回すことは可能だ。

だけど、どうしても利き腕でない方は

スピードも力も扱える繊細(せんさい)さも実践(じっせん)向きではないどころか

利き腕に持っている剣の方も片手で扱うよりおざなりになってしまうのだ。

でも、スキルを使うとどちらも狙った所に振る事ができるし、

剣速も申し分ない。

素振りをしながら突きや払い等を試す。

「いい感じじゃないか。」

これは所謂(いわゆる)2回攻撃と同じじゃないかな。

あまりにも楽しくて気づいたら結構時間を使っていたようだった。

「剣はこれくらいにしておこう。」

休憩がてら水筒を出して水を飲む。

問題はこの召喚魔法の低ランクモンスターの召喚というやつだ。

単純に騎乗用の馬などの召喚で召喚時間が増えたのは十分利点なのだが、

果たして召喚した魔物はこちらの言う事を聞くのだろうか?

そして魔物ってどんなものなんだろう。

メニュー画面を開き、召喚魔法の所を鑑定する。

すると、一般動物、低ランクモンスター、召喚時間24時間と出てきた。

これは昨日確認済みだ。

更に低ランク魔物を鑑定する。

すると、リストのようなものが表示されたのだが、そのほとんどが「?????」という表記になっていた。

名前が出ているのは、ゴブリン、ダイアウルフ、インプ、

ジャイアントスパイダー、ゾンビ・・・・。

これらの名前は、一度戦闘をして倒した魔物かな。

倒した魔物で出てない名前は低ランクではないという事か。

とりあえず、何か召喚して試さないと。

ゾンビ、いやキモイ。インプ、飛んで逃げられたら厄介(やっかい)だ。

ポイズントードは毒、ダメ。

そうだな、スケルトンかゴブリンかこの辺りが無難かもしれないな。

「低ランクモンスター、スケルトン召喚!」

シーン・・・・。

えーっ、何も出て来ないじゃん。

っていうか、めっちゃ恥ずかしい。

何カッコつけて言っちゃってるの。

誰も見てなくて良かったよー。

いやいや、それより何で何も出て来ないの?

改めて、召喚魔法の所を見てみる。

「おっかしいなぁ」

特に何か表示されていないように思える。

更にスケルトンの表示を鑑定してみる。

スケルトン:Lv1、種族:アンデッド、

必要触媒(しょくばい):人骨の一部もしくはスケルトンの骨の一部。

「・・・触媒?。そんなもの、持ってないぞー。」

改めて、調べると、召喚に必要なのは触媒と呼ばれる物で、

主にモンスターの体の一部が必要なようだ。

触媒ってモンスターの一部だけなのかな?

ふと、疑問に思ったので触媒の所も鑑定してみる。

触媒とは魔法を行使する上での補助物質。無ければ発動しない魔法もある。

中級までの触媒では魔石で代用可の場合が多い。

おや?

そうしたら、ゾンビは?

必要触媒:死肉の一部。但し、生前の形に依存。又は小魔石。

ダイアウルフ。触媒:ダイアウルフの爪、又は小魔石。

スライム。触媒:スライムの一部。

なるほど。種族に応じて触媒も様々という事か。

それよりもスライムを召喚するのにスライムが必要って、

もうそれってスライムじゃん。

しかもスライムの一部って言ったって、どうやって採取するの?

ゴブリンなら魔石で召喚できるようだな。もうゴブリンでいいや。

魔石を地面に置いて。今度は小声で魔法を発動させる。

「低ランクモンスター、ゴブリン召喚!」

すると、魔石の周りに赤黒い(もや)のようなものが、(うごめ)く様に形作る。

人型のようなものになった瞬間、靄のようなものははじけ飛び、

そこにはゴブリンがいた。

そのゴブリンは裸で立っていた。

うん。考えてみれば、装備しているゴブリンが出てくるなんて

都合よすぎるよね。

ゴブリンは目を(つむ)ったまま、立っている。

オスか。

まずは命令してみるか。

「ゴブリンよ。周囲にある木の小枝を20本集めよ。」

すると、ゴブリンは目を開き、

「グギャッ」と一声上げて周囲に落ちている小枝を拾い始めた。

しばらく観察する。何本か集めてはこちらに戻り、小枝を置いていく。

だが、20本超えても枝を拾いに行くのを止めなかった。

そうか、知能の問題か。

ゴブリンに数を数えさせるのは難しいという事だな。

再び戻ってきた時に、再度命令を出す。

「小枝を集めるのを止めろ。」

枝を置いてまた集めに行こうとしたゴブリンは動きを止めて、

こちらを見て突っ立っている。

「休め。」

すると、ゴブリンは地べたに座り、落ちている石や小枝をいじり始めた。

ある程度自由な範疇(はんちゅう)では、自由に動くんだな。

「鑑定!」

ゴブリンを鑑定してみる。

種族ランク1 ゴブリン HP30 MP20

正直言ってリリーとレベルは大して変わらない。

このゴブリンが強いのか弱いのか正直分からない。

まあ、弱いんだろうなぁ。

その後、色々と試しては見たが、使い道が見つからなかった。

そのうち、もう少しランクの高いモンスターを召喚して再度試すことにした。


陽も高くなっており、影の位置を見るともう昼頃になっているようだった。

「送還!」

ゴブリンを送り返した。

と言っても何処から来て何処(どこ)へ帰るのか全く見当もつかない。

早ければアンジェとマリアが戻ってきてもおかしくない時間だ。

リリーと果物をかじりながら、街へ向かった。


今、俺達が寝泊まりしているのは、元法王の館というか

見た目は宮殿のようなのだけれど。

そこの二部屋を借りている。

普段は客間として利用している部屋なので、かなり豪華(ごうか)な造りとなっている。

ユミコやポーリンもここに住んでいるし、

警備の兵士や侍女や小間使いなども寝泊まりしている。

アンジェとマリアはここに戻ってきて合流する手筈(てはず)になっている。

この館の門番に(たず)ねたところ、アンジェとマリアはまだ戻ってはいなかった。

自分の与えられた部屋に向かいながら、

ベッドでゴロゴロしてようかと考えていた。

よく考えてみれば、こっちに世界に来て、

まともにゆっくりと何もしないで過ごすなんてなかった事に気付いた。

「たまにはゴロゴロしてようか。」

「リリーもごろごろするー。」

リリーも賛成のようだし、そうするか。

そんな事を考えながら廊下を歩いていると、

正面からバタバタと走ってくる人がいた。

「アルス殿ー。」

正面から走ってきたのはルフィン枢機卿だった。

「廊下を走ったら危ないよ。」

息を切らせて目の前で必死に息を整えようとしているルフィンに言った。

「ぜーぜー、アルス殿、そんな悠長(ゆうちょう)な事を言っている場合じゃないんですよ。」

真面目な顔つきで答えたルフィンに

何かあったと感じざるを得ない状況だった。

「何かあったの?」

今度は真面目に訊ねる。

「先程、早馬が来まして、連絡が入りました。帝国が再度侵攻してきたとの事です。詳しい話をしますので付いて来てください。」

そう言って早足で元来た方へと歩き始める。俺もその後を付いて行った。

部屋に入ると、そこにはユミコ、シスターポーリン、兵士の上官風の男、

ジュノー王国の紋章(もんしょう)の鎧を付けた男4人がいた。

「アルス様、こちらにお座りください。」

シスターポーリンが席を勧める。

一同、席に着き、ユミコの方を見る。

「先程、早馬で知らせが入りました。帝国の兵が砦に侵攻してきたとの事です。既に先端は開かれており、帝国は魔物を先鋒(せんぽう)として攻めてきているそうです。こちらは冒険者が主軸となって砦にて防戦しているとの事でした。敵の数は、推定2万。正規兵5千、魔物の軍勢が1万5千と見ているそうです。そして、砦から至急援軍を送られたしと援軍の要請が入っております。」

「こっちの戦力はどのくらい砦にいるんだ。」

俺が訊ねるとジュノー王国の紋章の入った男が答えた。

「お初にお目にかかる。私はジュノー王国、第2騎士団第一騎馬隊隊長のドリスと申します。フォーテルムーン法国駐屯(ちゅうとん)部隊の責任者をしております。以後、お見知りおきを。」

「こちらこそ、よろしく。ドリス隊長。」

「現在、砦に駐屯しているのは、法国の近衛師団300名、冒険者を含む先遣(せんけん)隊の200名の他、工兵200、第2騎士団の7割の3500の兵が駐屯しているはずです。今は、冒険者がもう少し増えていると思いますが、それでも250名もいればいいほうでしょう。」

「つまり、総勢約4千といった所か。帝国の兵力が2万。砦を落とすには十分といったところだな。」

前世の知識で城を落とすには3から5倍の兵力が必要と

あったように記憶している。

5倍の兵力差なら十分可能だという事だ。

「援軍はどうするんだ?」

「もちろん、我が騎士団1500はすぐにでも向かう所存です。」

ドリスは息巻いてそう告げた。

「私達フォーテルムーン法国は、現在復興中もあり、人材不足が(はなは)だしく、出せる戦力は、回復魔法を使える魔法支援部隊の50名がやっとです。」

「いやいや、魔法部隊を付けて頂けるだけで大変助かります。騎士団には魔法を使えるものは僅かですから。」

ユミコの発言にドリスは頭を下げてお礼を言った。

「守って頂いている身で申し訳ないのですが、兵力としてはこれが限界なのです。ただ、物資の方は特に要望のあった弓と矢は全て出させて頂きます。それと、支援物資として食料なども今集められるだけ集めております。」

「それは助かりますが、大丈夫なのですか?」

「食料については、ジュノー王国から補給物資が運び込まれる予定となっています。それを差し替える事で前線に物資を早く運び込めると考えています。」

「それなら良いのですが。」

「では、我々は一足先に出立したいと思います。」

ドリスはすぐにでも駆け付けたいようだった。

「お待ちください。ドリス殿。」

「何でしょう。アルス殿。」

(はや)る気持ちも分かるのですが、貴方達の第一の任務は物資を無事に届ける事ではないでしょうか。」

「砦までの街道には盗賊などはいないですし、前線も離れた場所ですので無事も何も問題ないと考えますが。」

「そんな事はないですよ。相手はモンスターを使役(しえき)している事をお忘れなく。私が向こうの指揮官だったら、補給物資は必ず運び込まれる。それを阻止(そし)すれば、砦も長くは持たない。であれば、必ず補給部隊を急襲してくるはずです。」

「しかし、橋を渡らなければ相手はこちらに攻め込むことは出来ないと思うのですが。」

「そんな事はありません。帝国が使役している魔物の中には、飛行するモンスターも多いはずです。多分、ワイバーンを主体にインプやガーゴイルなんかもいると思いますよ。飛行モンスターならば、橋を渡る必要はありませんからね。」

「いやまさか。インプやガーゴイルならまだしもワイバーンを使役などありえないですよ。」

「聞いていないんですか。俺達はそのワイバーンと何度も戦っているんですよ。」

そう言った言葉を聞いて、ドリスはユミコの方を見る。

ユミコは大きく(うなず)いた。

「アルス様がいなければ、わたし達はワイバーンにやられていたのは間違いないでしょう。」

ユミコはドリスの認識をぶち壊した。

「・・・ありえない。・・・しかし、もし、仮にワイバーンと対峙(たいじ)するような事になったら、我々騎馬隊では相手にすらならない。一体どうしたら・・・。」

「ワイバーンは俺が何とかします。問題は敵の数です。ワイバーン自体は数体多くても十数体だと思います。それ以外に飛行する魔物、インプ、ガーゴイルはいるでしょう。他にもハーピーや、それ以外の魔物が来るはずです。それらを相手にしてくれれば問題ありませんよ。」

「わかりました。では、(わたくし)は部隊装備の変更をして参ります。聖女様、弓矢はこちらにもいただけますか。飛行する魔物に剣や槍だけでは心許無(こころもとな)いので、使わせて頂けると助かります。」

「それはご自由にお使いください。武器庫は開放させてあります。全てお持ちいただいても問題ありません。」

「ありがとうございます。それでは私は部隊の再編を行わなければなりませんので、ここで失礼したいと思います。そうだ。出発はいつになるでしょうか。」

「明日の朝には出発できるよう準備させています。」

「了解いたしました。それでは失礼いたします。」

そういって、ドリスは部屋を出て行った。

「アルス様はどうされます?」

ユミコは訊ねてきた。

勿論(もちろん)、俺も同行するよ。砦には多分、アンジェとマリアもいるだろうからね。それよりも補給物資はどのくらいになりそうなんだ?」

「予定しているのは馬車で50台分です。ただ、馬車が足りないと思いますので、馬車に合わせて物資を運ぶことになりそうです。」

「馬車は10台でいい。」

「それでは物資はほとんど運べませんが。」

「物資自体は俺が運ぶから問題ない。ただ、俺と騎士団だけだと敵が襲って来ない可能性が高い。どうせなら、ここで相手の戦力を可能な限り()いでおきたい。馬車は(おとり)として使う。念の為、馬車にも多少の物資を運んでもらうことにした方がいいね。こちらが補給物資を運んでいる所を見せつけないと襲って来ない可能性もあるしね。」

「でしたら、1台だけ(ほろ)のついていない馬車を使うのはどうでしょうか。いかにも補給物資を運んでいますって見えないですか。」

「ナイスアイデアだ、ユミコ。そうしてくれ。」

「はい、そのように準備します。」

ユミコは()められた事が嬉しそうに顔を(ほころ)ばせた。


その後、補給物資のほとんどは明日の朝に受け取る事に決め、

それとは別に、ユミコにいくつか入手して欲しいものを伝えた。

今日、受け取る物資は武器庫の武器関係だけだ。

たしか、ドリスが先に行っているはずだ。

武器庫になっている倉庫のような建物に近づくと、

そこには騎士団と思われる兵士達でごった返していた。

「失礼ですが、どちら様でしょうか。」

見張り役の兵士2人がこちらに近づいてきて質問をしてきた。

「私はアルスという者です。ドリス殿にアルスが来たと伝えて下さい。」

兵士の内の1人がそれを伝えに去っていった。

「もしかして、失礼ですが、あなたは噂のAランク冒険者のアルスさんですか。」

「ええ、まあ、そうですけど。」

兵士が冒険者の事を知っているのは少し驚いた。

「やはりそうでしたか。実は私の弟が冒険者をしておりまして、噂は聞いておりました。」

「弟さんは冒険者なんですか。」

「ええ、ただ鳴かず飛ばずでCランクの冒険者チームを組んでいるそうです。」

「十分立派じゃないですか。」

この世界の冒険者の大半はEランクで一つの山場を迎えるらしい。

Eランクから魔物の討伐依頼を受けられるのだが、

戦闘を無事に切り抜けられるのは半分もいないらしい。

よしんば切り抜けられても、仲間を殺されたり、

自身が手傷を追って戦闘を怖がってしまう者も多いという事だ。

ここで引退をする者が多く出る。

そしてある程度戦闘にも慣れた頃にDランクの冒険者となれる。

チームワークでそれなりのモンスターを狩ることができるようになると

自分達の力を見誤(みあやま)る者が出てくる。

すると危険を通り過ぎて無謀(むぼう)な事をやらかす者も多くなってくる。

自分の力量を過大に評価して敵の力量を過少に評価する。

その結果、強すぎる敵に返り討ちにされる。

ここで更に半減してしまうらしい。

そしてCランクの冒険者とはそう言った危機意識や自己と敵の力量を

しっかりと見定めて切り抜けてきた者達なのだ。

そしてBランクの冒険者とは、個々の実力もチームとしての実力も

兼ね備えた者達なのだ。

妖魔の森を抱えるジュノー王国でもBランクの冒険者は

数えるくらいしかいない。

だからCランクの冒険者というのは十分立派な冒険者なのだ。

「しかし、弟から聞いていましたが、本当にこど・・・、いやお若い方なんですね。」

今、子供って言おうとしただろ。実際そうだけどさ。

「弟が言ってました。見た目で判断するなって。それが命取りになる事もあるんだぞって。まさしく弟の言う通りでした。アルスさんを見ていると力強い何かをヒシヒシと感じるのです。こう見えても私は人を見る目があるって言われてるんですよ。ははは。」

へー、なにか隠れた才能でもあるのかな。

「鑑定」

小さく呟いて相手の能力を見てみる。

すると、スキルの中に危険予測Lv1とあった。

なるほど、これで相手の危険度を感じていたんだ。

面白いスキルだな。

そんな事を話ていると、ドリスがやってきた。

「アルス殿。どうされました。」

「残った武器類を砦に運ぶのに回収に来ただけですよ。皆さんの武器は配り終えましたか。」

「ええ、今しがた終わった所です。しかし、回収とは。かなりの量の武器がありますが、お一人で運び出されるのですか。なんなら、何人か手伝わせましょうか。」

「大丈夫ですよ。それじゃあ、武器庫に行きましょう。」


武器庫の補給物資も異空間収納にしまって、

新しい武器と編成による訓練をするという騎士団と別れて街区(がいく)にやってきた。

それというのも武器庫で補給物資を仕舞っている時に

ユミコの使いが来て頼んでいた物が用意できたので

冒険者ギルドに行って欲しいと伝言を受けたからだ。

流石(さすが)ユミコだ。仕事が早い。いやこれはポーリンかな。

冒険者ギルドはこの間、新設されたばかりで

登録されている専属の冒険者は駆け出しの冒険者ばかりらしい。

ただ、前線で狩った魔物の魔石を買い取って

エルフ王国とドワーフ王国へ輸出し始めており、

今は冒険者ギルドというより商業ギルドのような活動が

メインとなってしまっている。

「こんにちは。」

冒険者ギルドにいる受付の女性に声をかける。

ジュノー王国と違って受付は1人だけのようだ。

「はい、こんにちは。御用は何でしょうか。」

「はじめまして。アルスと言います。頼んでいた物が集まったという事で受け取りに来ました。」

「はい。伺っております。ご依頼の物はあちらの部屋にご用意させて頂いております。こちらにどうぞ。」

そう言って受付の女性はカウンターから出てきて部屋まで案内してくれた。

「こちらが、ご依頼の一覧です。ご確認ください。」

ここに集められた物は魔石が300と色々な魔物の素材が置かれてあった。

「うん。確かに。」

「お時間を頂ければ、もう少し魔物の素材も集められましたけど、今は冒険者の方が金策で売りに来たものしかご用意できませんでした。大変申し訳ございませんが、今はこれがお出しできる全てでございます。」

「仕方ないよ。新設のギルドでこれだけ用意できれば(おん)の字ですよ。」

「そう言って頂けると助かります。では受取のサインをお願いします。それとこちらの受領書はご依頼の聖女様へお渡し下さい。」

出された受領書を受け取る。

「へー、紙を使っているんですか。貴重でしょうに。」

「国への書類は紙を使う事も多くございます。ジュノー王国の冒険者ギルドからある程度こちらに持ってきておりますので。」

「なるほどね。ありがとう。」

「こちらこそ、魔石を輸送する手間が省けた分、利益も大きいですから、今後の運営資金が楽になります。」

「そういえば、この冒険者ギルドは魔物の討伐依頼なんか出ないんじゃないの?」

フォーテルムーン法国ではダンジョンはないし、

妖魔の森も警備兵の駐屯で(まかな)えるレベルの魔物しかでないはず。

疑問に思って訊ねてみた。

「聖女様は、妖魔の森の警備を冒険者に依頼する考えのようです。それとこの国にも魔物は出ますよ。主に、湿地帯に隣接する村々にですが。そちらも今までは警備兵が駐屯して対処していましたが、こちらも今後は冒険者に依頼していくらしいです。」

確かに現状では少しでも兵士を確保しておきたい所。

警備を冒険者に任せれば、警備兵にかかる費用を

かなり浮かせることができる。

所謂(いわゆる)、アウトソーシングというやつだ。

冒険者は魔物を狩って金にする。

魔物の素材は商人が買い取り、職人がそれを買い取る。

職人はその素材を加工して商品を作る。その商品は内外問わず販売される。

そうして経済が回っていけば、国がわざわざ兵士を確保して

税金を使う必要がなくなる。人材も他の場所に振り分けることができる。

それに警備兵の中には買った魔物の素材をくすねる奴も多いらしい。

まあ、防衛面では若干の心配もあるだろうが、

そこは冒険者ギルドがしっかりとやってくれれば問題ないだろう。


さて、これで一通りの物資は(そろ)った。

あとは明日の朝に引き取る分だけだな。

「あるすー。おなかすいたー。」

「そう言えば、朝から大した物食べてなかったな。屋台で買い食いするか。リリーは何が食べたい?」

「あれがいいー。みたことないたべものー。」

リリーが指さした方へと向かう。

さっきからフワフワ飛んでいたのは物色していたからのようだ。

近づいていくと、何やら(なつ)かしい匂い。

「こ、これはっ!?」

串揚げ、いや天ぷらか。色々な野菜を衣をつけて油で揚げた見た目は天ぷら。それを串に刺して売っているようだ。

「らっしゃい。買ってくかい。」

「そうだね。リリーはどれ食べる?」

「リリーはこれとこれー」

「じゃあ、すみません。これとこれを2本ずつ下さい。」

「あいよ。すぐ揚がるから待ってな。」

そういうと、選んだ串差しの野菜を衣をつけて揚げ始める。

ジュワーッといい音が鳴り、辺りにいい匂いが立ち込める。

「お待たせ。落とさないように、気をつけな。」

そう言って4本の串天ぷらを買った。

1本銅貨5枚という事で銀貨2枚払った。

リリーに1本渡して俺も1本持つ。

残り2本は異空間収納に取り敢えずしまう。

「熱いから火傷(やけど)しないように気をつけて食べるんだよ。」

「うん。わかったー」

そして一口食べる。美味い。

この野菜の甘みが何とも言えず、油も臭みのない物を使っているようだ。

「うまいな。」

「おいしいねー」

リリーはハフハフさせながら食べている。

そして、あっという間に平らげて、2本目も食べる。

1本目の野菜は玉ねぎのような天ぷらだったけど、次は芋の天ぷらだった。

中がホクホクしてまるでサツマイモのような味わいだ。

あまりにも懐かしい味に、これもあっという間に食べきってしまった。


館に戻り、アンジェとマリアが戻っているか確認したが、

予想通り、戻ってはいなかった。

砦まで行ったBランクの冒険者をそう易々(やすやす)

返すことはしないだろうとは思っていたが、

やはり向こうで戦闘に参加しているのだろう。

自分の部屋に戻る途中、ユミコが待っていた。

「アルス様、こちらをお持ちください。」

部屋の前で待っていたユミコの足元に木箱が置かれていた。

「これは?」

「HP回復ポーションです。きっとお役に立つと思います。」

「そうか、ありがとう。これは(もら)っておくよ。ちょうど、HPポーションは残り1本しかなかったから助かるよ。」

「いえ、これくらいしかできませんから。」

「でも、良いのか?こんなに貰って。」

「必要な場所に必要な物をですわ。ここにあっても、今は必要がないですから。」

「そうだ。それなら、お礼にこれを渡しておくよ。」

そう言って、以前集めた薬草を異空間収納から取り出したが、

入れ物がない事に気付き、ポーションが入った木箱から

ポーションだけを異空間収納にしまって、そこに入れた。

「これだけあれば、ポーションの穴埋めにはなるでしょ。」

「こんなにいっぱい。アルス様こそいいんですか?」

「薬草は()んでくればいつでも手に入るからね。ずっと仕舞いっぱなしだったから、いいんだよ。」

「では、こちらはありがたく頂戴しますね。」

そう言って、後ろに控えていた侍女が木箱を運び出した。

「アルス様。どうか、お気を付けください。先程、突然、未来視が起こりました。ほんの(わず)かな時間でしたが、アルス様が多くの(しかばね)の中で一人立ち尽くしている光景が見えました。どうか、無理はなさいませんように。」

そう言ってユミコは俺の手を取り、両手で握りしめた。

その目は何か悲し気な眼差(まなざ)しに感じた。

「大丈夫。おれはこの世界ではチート持ちだよ。油断するつもりはないけど、無双できる力がある。安心してくれ。」

「チートって何ですか?」

ユミコは小首を傾げた。

「インチキなくらい強いって意味だよ。」

「そうですよね。アルス様は強いですもんね。変な事を言いました。ではわたしはこれで戻ります。」

もう一人の侍女を従えてユミコは戻って行った。


部屋に入り、ベッドに横になる。

前に聞いたユミコの未来視。鮮明であればあるほど、

確実に起こる未来の光景らしい。

ぼやけて見えた場合は、起こる可能性が低いとも言っていた。

わざわざそれを言いに来たのであれば、

鮮明にその光景が見えたのかもしれない。

だからと言って、何かできる訳でもないし、

今は心に留めておくだけにしよう。


この後は、風呂に入り、夕食を済ませて早く休んでしまおう。

明日は早い。

戦闘も今まで以上に激しいものになりそうな気がする。

ふと、嫌な考えが頭をよぎったが、頭を振ってその考えを吹き飛ばす。

「リリー、風呂入るか。」


この日は、あまりよく寝付けなかった。

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