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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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87日目 偵察任務完了

●87日目(グリウス歴863年7月29日)


今日は、50人近い避難民を連れて、川の砦を目指すことになる。

流石にこれだけの人数が動くと目立つのは仕方ない。

避難民の中から一人御者の経験がある者にこちらの馬車を操作させて、

俺とアンジェとマリアの3人で護衛をしなければならなくなった。

俺の索敵で、そう難しい事ではないが注意するに越したことはないだろう。

「護衛についてだけど。」

「うん。アーくんに何かいい考えがあって?」

「念の為、先頭と中央と最後尾で別れて護衛しようと思う。」

「そうですわね。その方が何かあった時に対処が早そうですわね。」

マリアは同意した。

「でも、アーくん。分かれるとそれだけ戦力が分散してしまうと思うのだけど。」

「もちろん、そうならないように俺が中央で索敵に目を光らせておくよ。固まって動くから索敵で捉えられれば、俺がすぐに駆け付けられる。2人には何かあった場合の最初の防衛を担当してもらう事と避難民では判断できない状況の時に指示を出してもらった方がいいかなって思うんだ。」

「たしかにアーくんの索敵力なら不意打ちなんて考えられないものね。そしたら、私が先頭に行くわ。アンジェは最後尾をお願いできるかしら。」

「私は構わないけど。マリアは大丈夫なの?」

「大丈夫だって。何かあればアーくんがすぐに駆け付けてくれるから。」

「それじゃあ、そんな隊形で砦を目指そう。」


避難民の方達が朝食を用意してくれた。

ただ、もうすぐ安全地帯に着くと考えている事もあるが

今日の昼食分を残してほとんど使い切ったようだった。

それというのも、元々食料自体残り僅かであったせいもある。

順当に行けば今日の午後には到着できると予想している。

食事を済ませ、後片付けも終わり、出発する事になった。

昨日と同じように馬を召喚して、御者に操作を任せる。

それと何人かがこちらの馬車に移動してきた。

「では、予定通り出発。」

俺の号令で馬車の集団が動き出した。


丘陵地帯を抜けて平原に出れば、あとは橋のある河を目指すだけだ。

元々、十三連合国内にはモンスターはおらず、

帝国のモンスター共はほとんどがタイス市にいると思われるので

このような丘陵地帯や平原にいる確率は低いと考えられる。

問題は昨日の深夜に見えたタイス市方面の

ほんのり赤く染まった空の様子だけだ。

光の発生場所は、タイス市と思われるのでそれほど近い訳でもない。

もしタイス市で何かあっても、夜通し走ってこなければ

ここまで辿り着けるものでもない。

山賊や盗賊と言った類の者もいないとは言い切れないが、

こんな人が通るか分からない場所で待ち伏せされる可能性は低いと思う。

そんな考えをしながら索敵だけは十分に注意していた。


馬車で移動する事、数時間。

そろそろ2回目の休憩をしようかという時に索敵に数十体の生物を捕捉した。

その集団は、後方より迫ってきている。

移動スピードはちょうど馬を走らせているのと同じくらいのスピードだ。

こちらの馬車の集団はちょうど、丘陵地帯を抜けた所だ。

十数分後にはすぐに見つかってしまうだろう。

「後方より接近する者がある。念のため少しスピードを上げてくれ。ただし焦らないように。マリアは後方へ移動してくれ。アンジェは警戒してくれ。すぐ行く。」

大きな声で全体に伝える。

全体がざわつく感じがしたが、暴走するようなことはなかった。

「りょうかーい。」

前方からマリアの声が聞こえてきた。

俺は早速、馬車から飛び降りて、後方へ移動する。

スピードを上げると言っても、道なき道である。

それほどスピードを上げられるものではない。

それなので、馬車から飛び降りるのも大して苦ではない。

後方へ行くと殿の馬車が横を通過しようとしている。

御者席の登り台から馬車に乗り込む。

荷台の後ろではアンジェが後方を注視している。

索敵ではまだ、相手は丘陵地帯を抜けていないが、

もう間もなく抜けてくる感じだった。

マリアもこの馬車に乗り込んできた。

「そろそろ見えてくるはずだ。索敵ではケンタウロスと出ているけど、どういった種族か知っているかい?」

「ケンタウロスは上半身が人で下半身が馬という種族で、基本的には中立的な種族だと聞いた事がありますね。」

「たしか、帝国のより東方にいる種族だったよね。実物は見た事ないけど。」

アンジェもマリアもケンタウロスは見た事が無いらしい。

「出て来るよ。」

索敵上では丘陵地帯を抜けて来たのがわかった。

ただ不思議なのは明らかに真っ直ぐこちらに向かってきている事だ。

「何故、アイツらはこっちに真っ直ぐに進んできてるんだろう?」

俺の一言で2人とも首を傾げている。

「あっ。」

「どうした?」

マリアが突然身を乗り出して、空を見上げる。

「マリア、危ない。」

身を乗り出したマリアが、一瞬馬車の揺れで落ちそうになる。

そこを俺がマリアの腰に抱きつく形で支える。

そんな事も意に介さず、マリアが空を指さす。

「あれよ。」

そうは言っても、マリアを支えている状況では空を見る事すら危うい。

この態勢では危ないので、一気にマリアを馬車の中に引き込む。

「ふー。」

「マリア、何やってんのよ。」

アンジェも呆れた様に言う。

「空よ、空。」

落ちないように、慎重に空を見上げる。

よく見ると1羽の鳥が飛んでいるのが見えるだけだった。

「空がどうしたって?」

「鳥が飛んでいたでしょ。昔聞いた事があったの。ケンタウロス族は狩りの時に鳥を使って狩りをするって。」

「鳥を使ってって、鷹狩りみたいな感じかな?」

「そうじゃなくって、わたし達で言うテイマーみたいなのが鳥を介して獲物を見つけて狩りをするって。」

「へー、面白い狩りの仕方だね。」

「ケンタウロス族は平原に住んでいる種族で主に狩りをして生計を立てているんだけど。平原だと集団で近づくと獲物に逃げられるらしいのよ。そこで、鳥を使ってテイマーみたいに視覚を共有して獲物の集団を包囲して狩るって言ってたのを思い出したのよ。」

「つまり、あそこを飛んでいる鳥はケンタウロス族の索敵の鳥って事?」

「そうよ。わたしの記憶が正しければだけどね。」

なるほど、そうであれば合点がいく。

つまり、相手はこちらを襲う気満々という事か。

「そうなら、さっさとあの鳥を始末した方がいいよね。」

ここからだと鳥の位置がはっきりしない。御者席の方へ一旦出る。

上を見ると確かに鳥がこちらと同じ方向に飛んでいるのがなんとなくわかる。

しかし、結構高い上空を飛んでいるようで、

魔法の射程には入っていないようだ。

「アーくん、ケンタウロスが見えたわ。」

後方で警戒していたアンジェの声が聞こえた。

「魔法の射程内に入ったら、攻撃して。俺は鳥を始末してくる。」

そう言って再度、上空を見上げる。

鳥の位置をしっかりと目測で測る。

「テレポート!」

一瞬にして鳥の上に出るように跳んだ。

そのまま体は重力引かれて落下していく。

鳥は1羽の鷲だった。

落下しながら鷲に向かって行く。

「焼き鳥にしてやる。」

「ファイアーボール!」

炎の弾が鷲に向かって飛んで行く。

狙い違わず、鷲に直撃して炎の弾は爆発した。

「フライ!」

空中で体を制止させて、鷲を見る。

鷲は真っ黒になりそのまま落下していった。

他に鳥がいないか見渡す。

索敵も行ったが、周囲にはもう鳥は飛んでいないようだ。

下を見ると馬車がかなり小さく見える。

そのまま馬車に向かって飛んで行くと、

アンジェとマリアが攻撃しているのが見えてきた。

ケンタウロスと馬車はまだ距離があったが、

マリアとアンジェの攻撃はあまり効いていないようにも見える。

更に近づいていくと、

ケンタウロス族は2種類の武装をしているのが分かった。

前衛には盾と槍を装備したのがいて、後方には弓矢を持っているのが見えた。

後方の弓を持っているケンタウロス族は上空のこちらを警戒して

いつでも上空に弓を放てるように戦闘態勢に入っていた。

「やっぱり、バレてるよね。」

鳥を倒したことで、不意打ちは出来なくなっていた。

当然と言えば当然だが。

飛行して近づきながら防御魔法を発動させる。

「ミサイルプロテクション!」

「プロテクションシールド!」

「アースシールド!」

「マジックシールド!」

「マジックプロテクション!」

一応魔法を使えるケンタウロス族がいるか分からないが、

魔法防御も発動させた。

真上から近づいた為、ストーム系の魔法は使えない。

スタンクラウド等も移動している者には効果が薄い。

ファイアーボールでもいいのかもしれないが、草原が延焼しても困る。

「こういう時は。」

「マス・オブ・レイアロー!」

突きだした手のひらから光が放射状に拡がりながら雨のように降り注ぐ。

後続で矢を射かけようとしていたケンタウロス10数体が光の雨に曝される。

10数体のケンタウロスは一瞬にして戦闘不能に陥った。

一つ一つの光の矢は威力が小さいが

まるで雨のように無数に降り注いだ光は

ケンタウロスを倒すのに十分な威力となった。

しかし、前衛を走っていたケンタウロス達は後ろの状況を一瞥したまま

馬車に襲い掛かろうと速度を緩める事はなかった。

アンジェとマリアは魔法で迎撃を試みていたが、

ほとんどが盾に阻まれて致命傷を与えられずにいた。

それでも、アンジェとマリアが放った魔法で、

数体のケンタウロスが倒れていた。

それでもまだ20~30体のケンタウロスは

馬車の左右に分かれて取り囲むように走っている。

アンジェとマリアは馬車の幌を切り裂き、

横に並走しているケンタウロスに魔法を放って近づかれないよう

懸命に戦っていた。

先頭を走っていたケンタウロスの数体が槍を投げた。

その内の一本が運悪く馬に命中する。

槍を射られた馬は走っている最中に倒れ込んでしまった。

馬を繋ぎ止めていた金具が外れ、

馬に馬車が乗り上げる格好で大きく車体を弾ませる。

その勢いで着地した馬車は車軸が壊れ、車輪が外れてしまった。

馬車からは大きな悲鳴が聞こえ、馬車は地面を滑るようにして

数メートル先で止まった。

止まった馬車の中から声が聞こえた。

「エンチャンテッドフレイムウエポン!」

「ミラーイメージ!」

馬車から飛び出したアンジェは炎を纏った剣を構えて、

ケンタウロスに切りかかった。

切りかかられたケンタウロスは槍で剣を受け止めようとしたが、

魔法で強化された炎の剣で槍ごと両断されてしまった。

更に反対側には、マリアが4人現れた。

「ダブルスペル・ライトビュレット!」

2つの光弾が1体のケンタウロスめがけて飛んで行く。

一つは盾を貫通したものの、致命傷にはならなかったが、

もう一つの光弾はケンタウロスの額を見事に撃ち抜いた。

そのケンタウロスはゆっくりと倒れていった。

他のケンタウロスは馬車から離れるように大きく旋回し始める。

ケンタウロスは突撃攻撃に優れているが、小回りが利かないようだ。

回り込んでくるケンタウロスの後続にアンジェとマリアは魔法を叩き込む。

そこでそれぞれ一体ずつ屠ることができた。

地面に降り立ってアンジェとマリアに声を掛ける。

「アンジェ、マリア、無事か?」

「大丈夫。」

簡潔な答えが返ってきた。

「マリアはアンジェの援護を頼む。」

マリアはサッと馬車の反対側に移動する。

マリア側のケンタウロスが旋回を終え、突撃体制に入った。

俺を見つけたケンタウロスは盾を前面に構え、

槍を突き出し突撃してくる様子を見せる。

ケンタウロスの一体が雄たけびをあげると、

10数体のケンタウロスが固まってこちらに突っ込んできた。

「脳筋どもが。」

ケンタウロスがスピードに乗り、残り3mまで近づいた時、

魔法を発動させる。

「アースウォール!」

突然せり上がった石の壁がケンタウロスの目の前にそびえ立つ。

ケンタウロスはその勢いのまま石の壁にぶつかっていった。

スピードに乗ってしまっていたのが仇になり、

勢いを殺すことなく突っ込まざるを得なかった。

後続のケンタウロスもそれを避けようと旋回しようとしたが間に合わず、

体を石の壁に激突させることとなった。

中には倒れた仲間を飛び越えようとジャンプをして

そのまま石の壁に激突する者もあった。

フライの効果で石の壁の上に立つ。

下を見るとこちらにいたケンタウロスは全員が倒れ込んでいた。

しかし、まだ息のある者も多くいた。

「マス・オブ・レイアロー!」

眼下に倒れているケンタウロスに先程の光の矢の雨が降り注ぐ。

倒れているせいもあり、まともに光の雨に曝されたケンタウロスは

叫び声と共に動かなくなった。


アンジェとマリアの側のケンタウロスも旋回を終え、突撃体制に入った。

こちらにも10数体のケンタウロスが残っていた。

「アンジェ、そろそろ魔力が無くなるから最後の一撃をするわよ。合わせて。」

「了解した。」

アンジェとマリアは敢えてお互い距離を取らず、立っている。

ケンタウロスがやはり固まって、アンジェとマリアに突撃を開始した。

アルス程ではないが、マリアはケンタウロスを十分引き付けて魔法を放つ。

「ワイデンスペル・アイスバーン!」

マリアの足元から地面が凍ってケンタウロスの方へ伸びて行った。

氷の道は10m程の幅で突撃してくるケンタウロスを捕らえるには

十分な広さだった。

何体かのケンタウロスが勢いに任せ、氷に足を取られて滑って転んだ。

そしてその転んだケンタウロスは他も巻き込みながら

将棋倒しのように倒れていく。

「ファイアーボール!」

倒れたケンタウロスめがけて炎の弾が飛んで行く。

転んだケンタウロスは避けようもなく

アンジェの放ったファイアーボールをまともに喰らった。

爆発の勢いでマリアが張った氷の道も一緒に吹き飛ばしていった。

魔法を放ち終えた二人はこのチャンスを逃さず、逆に突っ込んでいった。

瀕死を追いながらも立とうと試みたケンタウロスは

アンジェとマリアに殴り倒された。

2人の連携の前にケンタウロスは立つこともままならず、

あっという間に全滅してしまった。


「2人とも凄かったよ。怪我はない?」

「馬車が壊れた時に多少打ちつけたけど、大丈夫。」

「わたしも大丈夫よ。」

「それにしても、こいつら魔石化しないということは、普通の魔物ってことだよね。」

今までいた帝国の魔物は倒すと魔石に変わったが、

ケンタウロスはそのまま死体で横たわっている。

「帝国の東方に生息している種族だからじゃない。」

マリアが答える。

「この死体はどうするか」

「処理する時間もないし、素材になるという話も聞いた事ないから放置するしかないと思う。」

「それより馬車の人達は大丈夫かしら。」

そういって、アンジェとマリアは馬車の方へ駆け寄っていく。

馬車の中では、数人が軽傷を負った以外は無事だった。

一番傷を負ったのは御者の男だった。

この御者は馬車から投げ出されて運よく柔らかい土の上だったので

軽傷で済んでいたのだ。

岩や固い地面の上だったら、軽症では済んでいないだろう。


「この馬車は使い物にならないな。予備の馬車を出そう。」

異空間収納からもう1台の馬車を出す。

召喚した馬は一度戻してから再度召喚しなおす。

全員が馬車を乗り換えて移動を開始した。

かなり離れた場所で、他の馬車が待っていた。

合流後、御者は別の者に代わってから出発した。


予定よりだいぶ遅くなったが、ようやく川の砦に到着することができた。

避難民の処遇は一度、フォーテルムーン法国の首都アークスまで

移送されることになった。


俺達は到着後、バッシュ司令官の下へ通された。

「よく無事で帰ってきてくれた。まあ、掛けたまえ。」

急ごしらえのソファーに座った。

「疲れている所、申し訳ないが、早速報告を頼む。」

ここで、タイス市の現状ともしかしたらタイス市は燃えて

街の機能は失われているかもしれない旨を伝えた。

そして、多くの避難民が南部の漁村周辺でキャンプしている事も付け加えた。

「なるほどな。報告ありがとう。疲れたろう。今日はもう休んでくれ。部屋へ案内させる。明日は一緒に情報の整理をしたい。それまで英気を養っていてくれ給え。」


部屋に通されたのだが、4人部屋の一室を与えられた。

今更だが、男女同室ってどうなの?

ただ、マリアもアンジェも魔力をほとんど使い切った状態だったのか、

食事を終えた後はいつの間にか2人共、爆睡してしまっていた。

そう言う俺も結構疲れた感覚がある。

「そうだ。報酬の話をし忘れたな。まあ、明日でいっか。」

そう独り言を呟いて、そのまま眠ってしまった。

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